デール帝国の不機嫌な王子
挙動不審な帝国の恩人 6
竜の国の主と聞き、アダルベルトを含め、近くに居た兵士達がポカンと口を開けてエイラを見下ろしてくる。
予期せぬエイラの行動にライムまでも毒気を抜かれたようで、ぽかんと口を開けてエイラの顔を見つめていた。
しかしこのままアダルベルトが嘲笑でもしだせば、流石にマズいことになるとでも思ったのか、ライムはすぐに意識を取り戻して、誰よりも先に口を開いた。
「信じられんかもしれんが嘘ではないぞ。白金のような金髪に青い目。お前も聞いたことくらいあるだろう? 本気で死罪に問われたくなければ、発言に用心することだな。……一応警告はした。後は知らん。そしてお前は寝ろと言った」
そう言ってライムはアダルベルトを睨みつけるエイラをものともせずに、再びエイラを寝かしつけてくる。
お陰でエイラの方まで毒気を抜かれてしまい、また少し落ち着きを取り戻すことができた。
アダルベルトのあまりにも不遜な態度に頭が来て思わず怒りに任せて怒鳴りつけたものの、よくよく考えてみればこのような話、到底信じられる事ではないのが当たり前だと今更ながら気が付く。
そして案の定、アダルベルトは半信半疑でライムに向かって声を掛けてきた。
「まさか……貴様が操って言わせているだけではないのか……?」
「発言には気をつけろと言った筈だが? ……まぁいい。お前が馬鹿なのは今に始まった事ではない。どの道、この女王陛下は帝都へ向かい皇帝との会談をご所望だ。皇帝の前へ女王が立てば本物か偽物か嫌でも知る事になるだろう。アダルベルト、女王を乗せる馬車と皇帝へ向けて書状を送る手配をしろ。書状は俺が今から書く。判ったらとっとと部屋から出ていけ」
「待って下さい、でしたら私が書状を……」
そこまで世話になるわけにはいかないし、先触れの挨拶くらいは自分ですべきだろう。
そう思って慌ててエイラがまた起き上がろうとすると、ライムが呆れたようにまたエイラの両肩を押さえつけてきた。
「病人は寝ていろと何度言えばわかる。引き受けたからには俺が責任を持つ。いいからお前はおとなしくしていろ。……そしてお前らはいい加減に出て行け!!」
唖然として二人のやりとりを見ていた周囲の騎士達が、怒髪天を衝いたようなライムの声に危機でも感じたのか、誰もが慌ててそれに従った。
アダルベルトも、万が一にライムの言った事が本当であった時の事を考えれば、今は様子を見るべきだろうと判断したらしく、不服そうな様子ではあったが、渋々と言った体で部屋から出て行った。
アダルベルトに続いてライムが部屋から出て行こうとした所で、エイラはその背にポツリと問い掛ける。
「あの……ライムさんやメルさんは一体どのような身分の方なのですか?」
自国の騎士団の隊長と名乗る人物にもその態度を変える事はなく、彼らの様子からも身分の高い人なのだろうというのは想定はできる。
だが、アダルベルトのライムに対する態度を見ていると、その想定は間違っているのだろうかと疑問を感じてしまい、ライムがどのような立場の人間なのかエイラは判断をしかねていた。
皇帝へ書状を直に認められるほどには身分は高そうなのだけれど……。
「……余計な事は気にするな。あとで夕飯を持ってくる。それまで寝ていろ」
ライムはエイラの問いに振り返る事なく、しかし無視もせずにどこか気まずそうにポツリと誤魔化しの言葉を口にした。
=====
エイラはライムが去った後、散々寝て過ごしていたお陰で寝付けるわけもなく、なんとなくメルとライムの事を考えていた。
助けてもらって随分経つけれど、よく考えてみたら2人のことはほとんど知らない。
彼らとの会話や行動でわかることといえば、魔法や薬に凄く精通しているってことと、アダルベルトという半獣族の騎士と二人が知り合いということくらいだ。
見た限りではあまり仲が良さそうには見えなかったけれども……。
騎士と仲が悪くて、魔法に精通しているということは、二人はやっぱり夢境魔術団の人と見て間違いないような気がする。
それも騎士団の隊長と互角……いや、立場はもっと上ではないだろうか?
隊長よりも上……? そうなると副団長かあるいは……。
そこまで考えて、エイラはハッと上半身を起こす。
「ライム……?」
彼の名前をポツリと呟いて、エイラはそのまま難しい顔で考え込む。
するとそこへメルが食事を持って部屋へと入ってきた。
「エイラ様、起きてらしたんですね。先程は申し訳ありませんでした。手の具合はどうですか? 腫れが引いたら暖めないといけないので、食事が終わったら診てみましょうか」
エイラは心ここに在らずと言った感じで、なんとなく頷きながら食事を受け取ると、難しい顔のままメルに漠然と疑問を投げかける。
「メルさん、アスベルグ騎士団の団長はクロドゥルフ様であっていますか?」
「はい。軍関係の職業のトップは基本王族が務めますから。特にアスベルグ騎士団は近衛を担っている分、皇太子が引き継ぐのが伝統みたいになってますね。皇太子がいない場合は例外なく王が勤めますよ。あ、クロドゥルフ様と言えばですね、去年の模擬戦試合でーーーー」
得意げにメルが答える中、エイラは生返事をしつつ、また難しい顔で黙って考えあぐねる。
クロドゥルフ・バルフ・ラスキンはデール帝国の第一王子で王位継承権第一位、つまりデール帝国の皇太子だ。
エイラの兄が失踪するまでは、兄とクロドゥルフは無二の友とも呼べるほど仲が良く、クロドゥルフは竜の国へよく兄に会いに来たり、逆に兄がデール帝国へクロドゥルフに会いに行ったりと、エイラも小さな頃から見知った仲だった。
もっともクロドゥルフが仲が良かったのは兄の方だったし、エイラは国から出ることはなかったので、クロドゥルフと会っても多少の挨拶と会食での表向きの会話だけで、彼の身辺を詳しく知っているわけではない。
(でも、クロドゥルフ様が騎士団を率いているのであれば、魔術団は……)
メルはエイラが真剣に何か悩んでいることに気がついて、話半ばで黙り込む。
そしてなにか思い当たったとでもいう様子で、慌ててエイラに弁明しだした。
「ああああの! アダルベルトはボク達にはああいう感じですが、誤解さえ解ければエイラ様に対して無礼は働かないでしょうし、普段は凄く真面目すぎるくらいバカ真面目なんですよ? 仕事も出来るし、剣の腕も悪くないんです!! だからあの、どうか寛大な処置を……」
「えっ?」
エイラは全く別の事を考えていた為に、メルの発言に虚を突かれたような声を上げる。
どうやらアスベルグ騎士団を持ち出したせいで、要らぬ誤解を与えてしまったらしい。
「いえ、彼のことはもう……。メルさんは彼と仲があまり宜しくないように見受けられましたが、処分を望んでおられる訳ではないのですか?」
エイラはメルの態度が不思議に思い問いかけた。
特にアダルベルトはメルやライムを牢獄に入れたがっている様にも見受けられたというのに……何故彼を庇おうとするのだろうか?
するとメルはその疑問を察して、苦笑しがちにエイラに答えた。
「そりゃぁボク個人としては、あいつ早く騎士団辞めればいいのに! とか、降格しろ!! とか思いますけど。アレでもクロドゥルフ様には必要な人物の一人なんですよね……。腹立ちますが本当に仕事は出来るんです。融通が利かないのと偏見が強いだけで、嫌な奴ですがボクもライム様も評価はしてるんですよ。……関わりたくはないですが」
メルが肩を竦めて言えば、エイラは感心したようにメルに頷いて見せた。
「メルさんは素晴らしいですね。私情を挟まずに仕事をして、ましてや嫌いな相手を評価するなど、なかなか出来ることではありません。勉強になりました」
深々とエイラがメルに頭を下げれば、メルは顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を振って答える。
「やっ、そんな……ボクそんなに出来た人間じゃないですよっ! ま、まいったなぁ……へへへっ」
照れ笑いをするメルに、エイラはなんだか微笑ましいなと目を細めたのだった。
予期せぬエイラの行動にライムまでも毒気を抜かれたようで、ぽかんと口を開けてエイラの顔を見つめていた。
しかしこのままアダルベルトが嘲笑でもしだせば、流石にマズいことになるとでも思ったのか、ライムはすぐに意識を取り戻して、誰よりも先に口を開いた。
「信じられんかもしれんが嘘ではないぞ。白金のような金髪に青い目。お前も聞いたことくらいあるだろう? 本気で死罪に問われたくなければ、発言に用心することだな。……一応警告はした。後は知らん。そしてお前は寝ろと言った」
そう言ってライムはアダルベルトを睨みつけるエイラをものともせずに、再びエイラを寝かしつけてくる。
お陰でエイラの方まで毒気を抜かれてしまい、また少し落ち着きを取り戻すことができた。
アダルベルトのあまりにも不遜な態度に頭が来て思わず怒りに任せて怒鳴りつけたものの、よくよく考えてみればこのような話、到底信じられる事ではないのが当たり前だと今更ながら気が付く。
そして案の定、アダルベルトは半信半疑でライムに向かって声を掛けてきた。
「まさか……貴様が操って言わせているだけではないのか……?」
「発言には気をつけろと言った筈だが? ……まぁいい。お前が馬鹿なのは今に始まった事ではない。どの道、この女王陛下は帝都へ向かい皇帝との会談をご所望だ。皇帝の前へ女王が立てば本物か偽物か嫌でも知る事になるだろう。アダルベルト、女王を乗せる馬車と皇帝へ向けて書状を送る手配をしろ。書状は俺が今から書く。判ったらとっとと部屋から出ていけ」
「待って下さい、でしたら私が書状を……」
そこまで世話になるわけにはいかないし、先触れの挨拶くらいは自分ですべきだろう。
そう思って慌ててエイラがまた起き上がろうとすると、ライムが呆れたようにまたエイラの両肩を押さえつけてきた。
「病人は寝ていろと何度言えばわかる。引き受けたからには俺が責任を持つ。いいからお前はおとなしくしていろ。……そしてお前らはいい加減に出て行け!!」
唖然として二人のやりとりを見ていた周囲の騎士達が、怒髪天を衝いたようなライムの声に危機でも感じたのか、誰もが慌ててそれに従った。
アダルベルトも、万が一にライムの言った事が本当であった時の事を考えれば、今は様子を見るべきだろうと判断したらしく、不服そうな様子ではあったが、渋々と言った体で部屋から出て行った。
アダルベルトに続いてライムが部屋から出て行こうとした所で、エイラはその背にポツリと問い掛ける。
「あの……ライムさんやメルさんは一体どのような身分の方なのですか?」
自国の騎士団の隊長と名乗る人物にもその態度を変える事はなく、彼らの様子からも身分の高い人なのだろうというのは想定はできる。
だが、アダルベルトのライムに対する態度を見ていると、その想定は間違っているのだろうかと疑問を感じてしまい、ライムがどのような立場の人間なのかエイラは判断をしかねていた。
皇帝へ書状を直に認められるほどには身分は高そうなのだけれど……。
「……余計な事は気にするな。あとで夕飯を持ってくる。それまで寝ていろ」
ライムはエイラの問いに振り返る事なく、しかし無視もせずにどこか気まずそうにポツリと誤魔化しの言葉を口にした。
=====
エイラはライムが去った後、散々寝て過ごしていたお陰で寝付けるわけもなく、なんとなくメルとライムの事を考えていた。
助けてもらって随分経つけれど、よく考えてみたら2人のことはほとんど知らない。
彼らとの会話や行動でわかることといえば、魔法や薬に凄く精通しているってことと、アダルベルトという半獣族の騎士と二人が知り合いということくらいだ。
見た限りではあまり仲が良さそうには見えなかったけれども……。
騎士と仲が悪くて、魔法に精通しているということは、二人はやっぱり夢境魔術団の人と見て間違いないような気がする。
それも騎士団の隊長と互角……いや、立場はもっと上ではないだろうか?
隊長よりも上……? そうなると副団長かあるいは……。
そこまで考えて、エイラはハッと上半身を起こす。
「ライム……?」
彼の名前をポツリと呟いて、エイラはそのまま難しい顔で考え込む。
するとそこへメルが食事を持って部屋へと入ってきた。
「エイラ様、起きてらしたんですね。先程は申し訳ありませんでした。手の具合はどうですか? 腫れが引いたら暖めないといけないので、食事が終わったら診てみましょうか」
エイラは心ここに在らずと言った感じで、なんとなく頷きながら食事を受け取ると、難しい顔のままメルに漠然と疑問を投げかける。
「メルさん、アスベルグ騎士団の団長はクロドゥルフ様であっていますか?」
「はい。軍関係の職業のトップは基本王族が務めますから。特にアスベルグ騎士団は近衛を担っている分、皇太子が引き継ぐのが伝統みたいになってますね。皇太子がいない場合は例外なく王が勤めますよ。あ、クロドゥルフ様と言えばですね、去年の模擬戦試合でーーーー」
得意げにメルが答える中、エイラは生返事をしつつ、また難しい顔で黙って考えあぐねる。
クロドゥルフ・バルフ・ラスキンはデール帝国の第一王子で王位継承権第一位、つまりデール帝国の皇太子だ。
エイラの兄が失踪するまでは、兄とクロドゥルフは無二の友とも呼べるほど仲が良く、クロドゥルフは竜の国へよく兄に会いに来たり、逆に兄がデール帝国へクロドゥルフに会いに行ったりと、エイラも小さな頃から見知った仲だった。
もっともクロドゥルフが仲が良かったのは兄の方だったし、エイラは国から出ることはなかったので、クロドゥルフと会っても多少の挨拶と会食での表向きの会話だけで、彼の身辺を詳しく知っているわけではない。
(でも、クロドゥルフ様が騎士団を率いているのであれば、魔術団は……)
メルはエイラが真剣に何か悩んでいることに気がついて、話半ばで黙り込む。
そしてなにか思い当たったとでもいう様子で、慌ててエイラに弁明しだした。
「ああああの! アダルベルトはボク達にはああいう感じですが、誤解さえ解ければエイラ様に対して無礼は働かないでしょうし、普段は凄く真面目すぎるくらいバカ真面目なんですよ? 仕事も出来るし、剣の腕も悪くないんです!! だからあの、どうか寛大な処置を……」
「えっ?」
エイラは全く別の事を考えていた為に、メルの発言に虚を突かれたような声を上げる。
どうやらアスベルグ騎士団を持ち出したせいで、要らぬ誤解を与えてしまったらしい。
「いえ、彼のことはもう……。メルさんは彼と仲があまり宜しくないように見受けられましたが、処分を望んでおられる訳ではないのですか?」
エイラはメルの態度が不思議に思い問いかけた。
特にアダルベルトはメルやライムを牢獄に入れたがっている様にも見受けられたというのに……何故彼を庇おうとするのだろうか?
するとメルはその疑問を察して、苦笑しがちにエイラに答えた。
「そりゃぁボク個人としては、あいつ早く騎士団辞めればいいのに! とか、降格しろ!! とか思いますけど。アレでもクロドゥルフ様には必要な人物の一人なんですよね……。腹立ちますが本当に仕事は出来るんです。融通が利かないのと偏見が強いだけで、嫌な奴ですがボクもライム様も評価はしてるんですよ。……関わりたくはないですが」
メルが肩を竦めて言えば、エイラは感心したようにメルに頷いて見せた。
「メルさんは素晴らしいですね。私情を挟まずに仕事をして、ましてや嫌いな相手を評価するなど、なかなか出来ることではありません。勉強になりました」
深々とエイラがメルに頭を下げれば、メルは顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を振って答える。
「やっ、そんな……ボクそんなに出来た人間じゃないですよっ! ま、まいったなぁ……へへへっ」
照れ笑いをするメルに、エイラはなんだか微笑ましいなと目を細めたのだった。
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