ベア・サモナー
3.召喚士を目指す兄妹 -明由美とルームメイトー
召喚志学校には今、総勢で百名の召喚士の卵たちが在籍している。皆、遠くから学びに来た者ばかりだから、生徒たちの大半は寮に入り、生活するのが基本だ。
校舎を挟んで東側が男子寮、西側が女子寮となっている。
いくら兄妹といえども、平日の私生活はほとんど別で、授業以外で男女が交流できるのは授業がない週末だけだ。
「ただいま」
「あ、おかえり」
寮は二人一組一部屋で構成されている。相部屋になる相手の条件は特別には決まっておらず、明由美と改斗は入学した時に空いている部屋に入れられた。これは、卒業する年数が人によって違うため、あるいは卒業できずに挫折してしまうためだ。一年で召喚士になれる人もいれば、十年経ってもなれない人もいる。そうして去っていった人の部屋が新入生に割り当てられるようになっている。
明由美のルームメイト、カナは明由美の一年先輩だ。明るい茶色の短めの髪が、活発な雰囲気を醸し出している。
椅子の背に肘を乗せてこちらに顔を向けてきた。
「珍しかったね、今日の明由美。兄妹そろって立たされるとは前代未聞」
へへへと照れ笑いをして、明由美は自分の机に向かう。
「大好きなお兄さんだからといって、そういうところは似てはいけませんよ、明由美さん」
「だって眠かったんだもん、しょうがないでしょ? ……先生の真似してるし」
ふて腐れる中にも照れと嬉しさとが声にも表情にも入り混じっている。
それを楽しげに見ていたカナが、不意に笑顔を曇らせた。
「とうとう明日だね」
机に向かって一冊のノートを取り出す明由美に、カナが不安げに言葉を漏らす。
明由美はノートを持ったまま椅子を回転させてカナに振り向いた。
「ずっと応援してきたけど、正直、不安」
召喚はするだけタダというわけではない。召喚した魔物を使役するためには、魔物に認められるだけの力と召喚士としての器が必要になる。もし、それが備わっていない状態で召喚を行えば、宿った命は主を侮り、言うことを聞かないか最悪、殺される。
一人で魔力、操術ともに備え、召喚できるからこそ魔物は召喚者を主と認めるという。二つの技量が九十以上必要になるのは、こういった理由から定められたものでもある。
それが基本的な考え方で、やり方。一人の力でやらずに二人で互いを補う甘さは、魔物に認めてもらえない。殺される確率は一人の時より遥かに高い。だから、二人召喚は禁止されている。
それを改斗と明由美はやろうとしているのだ。友達としては心配して当然だった。
「前日になってこんなこと言うのはあれだけど……怖くてしょうがないよ」
「カナ」
明由美はもう一度椅子を半回転させると、カナと同じく背もたれに肘を乗せ、その上に顎をついて笑いかけた。
「私は大丈夫だよ。だって、一人じゃないから。お兄ちゃんがいるし、カナとギルだって私たちを応援してくれる。それだけで心強いの。だから、カナは背中を押して。絶対、大丈夫だから」
「明由美……」
と哀愁を漂わせていたカナだったが、明由美の発言を聞いて肩を竦めると口角を上げた。
「ブラコン」
と言われた当の本人はそれを否定するでもなく、照れ笑いをしている。
「いいね、あんたたちは仲よくて」
つい口から出てしまった言葉に、カナ自身が戸惑いを隠せず目を瞠った。
どうして羨望するようなことを言うのかと、明由美は首を傾げる。
「カナはお兄さんと仲よくないの? カッコいいお兄さんだよね。えーと……クライドさん」
カナの顔に苦笑が刻まれる。そこがミソなのよね、と表情が語っていた。
「格好いいって言われてるけど、どうかなぁ。優等生で容姿がいいと女の子って騒ぐでしょ? そういうのよ」
兄に対しての諦めをカナから敏感に感じ取り、明由美は慌ててそれを否定した。
「で、でも、それを鼻にかけてるわけじゃないし、気取ってもいないし。カッコ悪いか、いいかって言われたらカッコいいよね? ね?」
「……なんで明由美が熱弁してんの?」
笑いを含んだ語調で呆れた目をされ、明由美は照れたように苦笑する。
カナもなんだかんだ言って、兄を褒められれば悪い気はしない。
「ま、ありがとね、そう言ってくれて。でも覚えてるわよぉ? 入りたての頃はあの人怖いって私に言ってきたこと」
そう、カナの兄と初めて会った時は怖く映ったものだった。彼の冷たさと真面目さに、明由美が畏縮してしまったのだ。
「本当はその反応、当たりなのよね」
「え?」
疑問の声を遮るようにカナが椅子から立ち上がる。
「ま、やれるだけのことはしっかりやんな。あんたたち兄妹にはホント、頑張ってほしいから」
「うん。ありがと」
明日が本番。失敗は許されない。
心意気新たに、明由美は机に向かう。しかし、二人召喚の要点をまとめたノートに目を通している間も、明由美の頭からは一瞬見せたカナの寂しそうな表情が、消えなかった。
校舎を挟んで東側が男子寮、西側が女子寮となっている。
いくら兄妹といえども、平日の私生活はほとんど別で、授業以外で男女が交流できるのは授業がない週末だけだ。
「ただいま」
「あ、おかえり」
寮は二人一組一部屋で構成されている。相部屋になる相手の条件は特別には決まっておらず、明由美と改斗は入学した時に空いている部屋に入れられた。これは、卒業する年数が人によって違うため、あるいは卒業できずに挫折してしまうためだ。一年で召喚士になれる人もいれば、十年経ってもなれない人もいる。そうして去っていった人の部屋が新入生に割り当てられるようになっている。
明由美のルームメイト、カナは明由美の一年先輩だ。明るい茶色の短めの髪が、活発な雰囲気を醸し出している。
椅子の背に肘を乗せてこちらに顔を向けてきた。
「珍しかったね、今日の明由美。兄妹そろって立たされるとは前代未聞」
へへへと照れ笑いをして、明由美は自分の机に向かう。
「大好きなお兄さんだからといって、そういうところは似てはいけませんよ、明由美さん」
「だって眠かったんだもん、しょうがないでしょ? ……先生の真似してるし」
ふて腐れる中にも照れと嬉しさとが声にも表情にも入り混じっている。
それを楽しげに見ていたカナが、不意に笑顔を曇らせた。
「とうとう明日だね」
机に向かって一冊のノートを取り出す明由美に、カナが不安げに言葉を漏らす。
明由美はノートを持ったまま椅子を回転させてカナに振り向いた。
「ずっと応援してきたけど、正直、不安」
召喚はするだけタダというわけではない。召喚した魔物を使役するためには、魔物に認められるだけの力と召喚士としての器が必要になる。もし、それが備わっていない状態で召喚を行えば、宿った命は主を侮り、言うことを聞かないか最悪、殺される。
一人で魔力、操術ともに備え、召喚できるからこそ魔物は召喚者を主と認めるという。二つの技量が九十以上必要になるのは、こういった理由から定められたものでもある。
それが基本的な考え方で、やり方。一人の力でやらずに二人で互いを補う甘さは、魔物に認めてもらえない。殺される確率は一人の時より遥かに高い。だから、二人召喚は禁止されている。
それを改斗と明由美はやろうとしているのだ。友達としては心配して当然だった。
「前日になってこんなこと言うのはあれだけど……怖くてしょうがないよ」
「カナ」
明由美はもう一度椅子を半回転させると、カナと同じく背もたれに肘を乗せ、その上に顎をついて笑いかけた。
「私は大丈夫だよ。だって、一人じゃないから。お兄ちゃんがいるし、カナとギルだって私たちを応援してくれる。それだけで心強いの。だから、カナは背中を押して。絶対、大丈夫だから」
「明由美……」
と哀愁を漂わせていたカナだったが、明由美の発言を聞いて肩を竦めると口角を上げた。
「ブラコン」
と言われた当の本人はそれを否定するでもなく、照れ笑いをしている。
「いいね、あんたたちは仲よくて」
つい口から出てしまった言葉に、カナ自身が戸惑いを隠せず目を瞠った。
どうして羨望するようなことを言うのかと、明由美は首を傾げる。
「カナはお兄さんと仲よくないの? カッコいいお兄さんだよね。えーと……クライドさん」
カナの顔に苦笑が刻まれる。そこがミソなのよね、と表情が語っていた。
「格好いいって言われてるけど、どうかなぁ。優等生で容姿がいいと女の子って騒ぐでしょ? そういうのよ」
兄に対しての諦めをカナから敏感に感じ取り、明由美は慌ててそれを否定した。
「で、でも、それを鼻にかけてるわけじゃないし、気取ってもいないし。カッコ悪いか、いいかって言われたらカッコいいよね? ね?」
「……なんで明由美が熱弁してんの?」
笑いを含んだ語調で呆れた目をされ、明由美は照れたように苦笑する。
カナもなんだかんだ言って、兄を褒められれば悪い気はしない。
「ま、ありがとね、そう言ってくれて。でも覚えてるわよぉ? 入りたての頃はあの人怖いって私に言ってきたこと」
そう、カナの兄と初めて会った時は怖く映ったものだった。彼の冷たさと真面目さに、明由美が畏縮してしまったのだ。
「本当はその反応、当たりなのよね」
「え?」
疑問の声を遮るようにカナが椅子から立ち上がる。
「ま、やれるだけのことはしっかりやんな。あんたたち兄妹にはホント、頑張ってほしいから」
「うん。ありがと」
明日が本番。失敗は許されない。
心意気新たに、明由美は机に向かう。しかし、二人召喚の要点をまとめたノートに目を通している間も、明由美の頭からは一瞬見せたカナの寂しそうな表情が、消えなかった。
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