死なない奴等の愚行

山口五日

第179話 ようやく帰れるみたいです

「ふむ……天使を倒すのも慣れてきたの」
「なんかコツが掴めてきたよ。今なら一人で三人くらいはいけるかもね」


 二人は俺をボコボコにした天使を余裕で倒した。それならもっと早く代わって欲しかった。俺は改めて文句をいう事にする。


「お前ら、ふざけんなよ! いくら死なないからって限度があるぞ!」
「はっはっは。すまん。まあ、良い経験になったじゃろ?」
「こんなん未経験でいいわ!」
「いいじゃねえか。次に天使と戦う時には、もっと上手く動けんだろ」
「次なんて来てたまるか! 次、天使が現れても、デュラ爺さんとユイカで対応しろよ! お前ら、天使相手でも余裕で戦えるようになってきたんだろ? 俺は戦わないからな!」


 これ以上、酷い目に遭ってはたまらない。俺ははっきりと戦わないと宣言してやった。


 だが、人生とはままならないものだ。絶対戦わないと思った時ほど、戦わなくてはならない事態になっていく。


「天使の軍勢だ! 十はいるか?」
「ほっほっほ! 腕が鳴るのうっ!」
「戦うしかねえじゃねえか! チクショォォォォォォォォォォォォォ!」


 多勢であれば二人では抑えきれず、サーペントやシャラも戦わなくてはならない。さすがに彼女達が戦っているのに、自分が戦わないのは気が引ける。仕方なく俺は戦い、先程よりもボコボコにされた。


 いや、先程よりもボコボコにされたのは別に原因がある。


「…………何か言いたい事はあるか?」
「お疲れ」
「よく頑張ったのう」
「あんな事をして詫びの一つも出て来ないのか!?」


 多くの天使が現れた時だった。こいつらは示し合わせていたかのようにデュラ爺さんが俺に魔法を掛け、ユイカが天使に向かって俺を投げた。何か天使を引き付ける魔法を使ったのか、天使が一時的に俺に集中したのだ。


「ああ、お前なら遠慮なく使っていいと思ってな。囮として充分な働きをしてくれた」
「魅了魔法の類を掛けたんじゃが、見事にケルベロスに意識を向けてくれて助かったわい」
「まったく悪いと思ってない!?」


 俺に天使が集中したのはその魔法のせいだったのか。ただ、本当に魅了魔法なのか。確かに意識は俺に向いていたように感じたが、魅了されているような気配は一切感じられなかった。好意ではなく、バリバリ敵意が向けられていた。


 まあ、とにかく俺に天使たちが集中しているところを、デュラ爺さんとユイカが攻撃をしたのだ。
 さすがに攻撃をされれば俺に構うのをやめて二人へと意識を向けるが、最初の攻撃で天使の数を半分に減らす事ができた。後は普通に戦っても、二人で充分に対応できたのであった。


「まあ、そんなに怒るでない。もう戻る事だしのう」
「ん? もうそんな時間か?」
「ああ。帰りもモンスターを倒していく事を考えると、そろそろ戻った方がいいじゃろう」


 どうやら時間らしい。そんなに時間が経っているとは思わなかった。とにかく必死で時間なんて気にしていられなかったからなぁ……。


 この時間が終わるという事に安堵し、怒りも引いてきた。いや、許しはしないが……これ以上は文句を言うのはやめておこう。


「お疲れ様でした、ケルベロスさん。ようやく帰れますね……。帰ったらゆっくり休んでください。なんでしたら私がマッサージをいたしますので」
「帰りは天使と出会わない事を祈りましょう……。万が一、遭遇した時にはすぐに私を纏ってください。先程はユイカさん達の行動が速過ぎて、纏う暇がありませんでしたからね……」


 シャラとサーペントも、世界の果てでの活動がようやく終われると安堵の息を漏らしていた。


「それじゃあ、戻るとしようかのう」


 こうして俺達はオッサンたちと別れた地点へと戻るのだった。
 帰り道、何事もありませんようにと必死に祈りながら……だが、人生とはままならな(略)。

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