死なない奴等の愚行

山口五日

第176話 サーペントが……

(どうです! 海なら戦えるんです!)
「ああ、分かった分かった……」


 クラーケンとの戦いが無事終わった。
 俺・サーペントvsクラーケンの戦いはなんとか勝利する事ができた。太い触手を、海を操作して押さえ込み、ひたすら斬りつけた。血が流れる訳でもなく、苦しんでいる様子もなかったので、効いているのか怪しかった。


 だが、最終的には動かなくなり、今はその巨体は海面に力なく浮いている。


「おうっ、お疲れ!」
「海を操れると便利じゃのう」
「見事な戦いぶりでした、ケルベロスさん! これ、良かったら飲んでください!」


 戻ると三人に迎えられ、シャラから温かい飲み物を渡される。
 俺とサーペントが戦っている間に焚火で湯を沸かしていたようだ。近寄ると焚火が温かく心地よかった。


「ありがとう。ちょっとサーペントと分離するから、待っていてくれ」


 このままでは飲む事ができないので、サーペントと分離する。
 一瞬光が体を包み込み、俺の体からサーペントの甲冑がなくなり分離した。これで、俺の役目も一つ終えた。


「ふうっ……それじゃあ貰おうか……ん? どうした?」
「「「…………」」」


 シャラから飲み物が入っているカップを受け取ろうとしたが、俺の方を見ずに別のところを見ていた。そしてユイカやデュラ爺さんもシャラと同じ方向を見ていた。いったい、どうしたというのか。


 訳も分からず、三人が視線を向ける方を見てみる。


「…………」


 俺も言葉を失った。


「皆さん、どうされたんですか? 私を見ているようですが……」


 俺達の視線に戸惑う女性。だが、戸惑っているのはこっちだ。先程まで居なかった女性が突然現れたのだから。それに彼女にまったく見覚えはなかった。イモータルの傭兵団の一員でもないはずだ。


 すると、さすが年長者だけあってデュラ爺さんが女性に尋ねる。


「いったい何者じゃ? 見た感じ人間のようじゃが……纏う雰囲気は、モンスターのようじゃのう」
「? ケルベロスさん、すみませんデュラ爺さんは何をおっしゃっているんですか? まるで初対面のように話し掛けられているのですが……」


 なぜか、こっちに話を振って来た!? 俺やデュラ爺さんの事を知ってる? じゃあ、やっぱりイモータルの団員…………いや、待てよ。彼女の甲冑に見覚えが…………え、まさか……。


「お前、サーペントなのか?」
「? サーペントですよ。どうしてそんな当たり前な事を?」
「「「「…………」」」」


 再び、俺達は黙る。サーペントが女性になった事実に衝撃を受けていたのだ。
 元々の甲冑を身に着けているが、頭部の部分がなくなっていて、美しい女性の顔を晒していた。白髪で赤い瞳をしていて、整った顔立ちをしている。誰が見ても美人と称賛するであろう容貌だ。


「お前! 自分で喋れるようになってんぞ!」
「いや、もっと驚く事があんだろ! サーペント、お前人間になってんぞ!」


 ユイカの言葉にツッコミながら、サーペントの身に起きている状況を伝える。ちなみに声はこれまで中性的なものだったが、今は完全に女性寄りとなっていた。


「人間? …………いや、甲冑ですよ」
「顔だ! 顔に触れてみろ!」
「顔ですか? ふわっ、柔らかくなってる!?」


 最初腕を見て実感できなかった彼女に、顔に触れるよう言ってみると、ようやく自身に起きた変化に気付いてくれたようだ。


「サーペント、いったいどうしたんだよ……」
「いや……私にもさっぱり……うわっ、髪が長い…………あー、あー、あっ声も出せる!?」


 自身の変化を徐々に理解し始めるサーペント。
 いったい、何が起きているのだろうか……。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品