死なない奴等の愚行

山口五日

第162話 ペットを捕獲します

 カーシャの活躍でリッチはあっという間に倒された。おかげで納骨堂は無事だ。後はペットを捕まえればいいだけ…………あれ? 何処に行った?


 先程まで居たはずの場所にペットが居なかった。今の戦闘の間に何処かへ行ってしまったようだ。


「マヤ、何処に行ったか分かるか?」
「んー、ちょっと待ってー…………あ、居たよー」


 早い。魔法便利過ぎるだろ……いや、マヤだからこれほど早く分かるのか。
 だけど、やっぱり魔法が便利という事は変わりない。俺も使ってみたいけど、魔法は使えない体質みたいだからな……残念だ。


 俺は改めて魔法が使えない事を悔やみながら、マヤからペットの居場所を尋ねる。


「何処だ?」
「この建物の上空を旋回してるみたいー。ちょっと、すぐには降りて来ないみたいねー」
「……分かった。行って来る」


 居場所を聞くとカーシャがすぐに動いた。背中から翼を生やして外へと飛び立ってしまう。カーシャ一人で行かせて大丈夫だろうかと心配になったが、あとはペットを捕まえるだけだ。そんなに心配しなくても問題ないだろうと思い直す。


 ただ、カーシャにはリッチを倒しても貰ったので頼りっぱなしで申し訳なさもある。俺もマヤと外に出た。


 外に出て上空を確認すると、ペットとカーシャが追いかけっこをしていた。いや、そんな微笑ましいものではない。目で追うのがやっとなほどの速さで飛んでいる。


「あのペット速過ぎないか!?」
「さすが王様のペットねー。カーシャさんが追いつけないなんてー相当ねー」


 確かにカーシャはペットの動きについて行ってはいるが、距離を詰められずにいた。苦戦している彼女を手助けするべくマヤが動く。


「サポートするわねー」


 カーシャの体が淡い光に包まれた直後、彼女の速度が上がった。マヤが強化魔法を掛けたようだ。おかげでペットとの距離を詰めていく。だが、目標は小さく、動きが機敏の為、カーシャが手を伸ばすと避けられてしまう。


 なかなか手強いペットだ。俺も加勢したいところだが、空を飛ぶ事はできない。いや、待てよ。マヤの魔法を使えば空を飛べるようにできるんじゃないだろか。


「なあ、魔法で俺を飛ばせるか?」
「んー? 空を飛びたいのー? りょーかいー」


 どうやら、空を飛べるようにできるようだ。よし、それならカーシャを手伝う事ができる。


「それじゃあ、行くよー」
「おうっ!」


 マヤが手を打ち鳴らす。すると俺の体が浮上し始める。そして納骨堂を見下ろすまでの高さまでにあっという間に上がる。これほどの高さまでに到達して止まった。


 さあペットを捕まえようと思うのだが……これ、どうやって移動すればいいんだ?


 空を飛べた事に内心嬉しく思っていたが、もう少し上がりたい、下がりたい、右へ左へ移動したい。そう念じたところで微動だにしない。その場に留まるだけで、宙を自由自在に動ける訳ではないのだろうか。


 これではカーシャを手伝う事ができないじゃないか。そう思った時、マヤの間延びした声が地上から聞こえてきた。


「頑張って捕まえてねー」


 頑張って捕まえてねって……動けないんだから捕まえるなんてできなああああああああ!?


 突然、留まっていた俺の体が動き出す。俺はすぐにマヤが動かしているのだと理解する。
 別に彼女が俺を動かしてペットを捕まえるという手法は問題ない。だが、事前に説明して欲しかったし、もう少し体勢をどうにかしていただきたい。


 進行方向に背中を向けて飛んでいるのだ。なんとか首を動かして進行方向を見てみるが、ペット、そしてカーシャがこちらに向かって来ている事に気付く。このまま行けば衝突だ。なんとか回避しようと体を動かそうとするが、全身をマヤの魔法のせいであまり自由が効かない。


「捕まえて―」
「できるかあああああ!」


 マヤの声に叫んで答えた直後。ペット、そしてカーシャと続けざまに衝突。
ペットには耐えられたが、カーシャの魔法で強化された勢いを前に、俺に掛かっていたマヤの魔法が解けたのか、俺は納骨堂の建物へと墜落したのだった。

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