死なない奴等の愚行

山口五日

第161話 リッチを倒します

「……居た」


 カーシャが納骨堂の広間の扉を開けた時、そう呟いた。
 居たのはペットか、それともリッチか。開いた扉から覗いてみると、黒いボロ布を纏った骸骨が広間の中央に居た。どうやら後者のようだ。


「ペットも居るわねー。ほら、あそこの燭台に」
「あ、本当だ」


 マヤの指さす方向に、サラから聞いた特徴通りのペットの姿が確認できた。別の場所に居るならリッチを無視できたかもしれないが、ここに居るとなると無視する訳にもいかないだろう。


「とりあえずリッチをどうにかしないと駄目か……」
「そうねー。私がー魔法でサクッとー」
「マヤはサポートを頼む。カーシャと俺で……俺は離れたところからの攻撃しかできないけど……」
「……任せて」


 マヤにはサポートに徹して貰いあまり強力な魔法は使わないで貰う。俺はガンを取り出して準備する。カーシャの負担が大きいかもしれないが、彼女の様子からして問題はなさそうだ。


「それで倒せなさそうだったら一度撤退して他の団員を連れてこよう」
「えー、私が魔法でー吹き飛ばしてー」
「……建物ごと吹っ飛ばす可能性があるから却下」
「ぶー、そんな事しないよー」


 マヤが頬を膨らませて遺憾の意を示すが、万が一を考えてやはり大きな魔法は使わせられない。それに、ここは国の中にあるから尚更だ。


「よし、いくぞ」
「……うん」
「ぶー」


 そして、リッチとの戦闘が始まった。
カーシャがリッチに向かって走り出す。彼女の足は獣毛に覆われた足に変化していた。走る事に特化したモンスターの足だろう。


 接近するカーシャに気付いたリッチは複数の火球を飛ばす。リッチは魔法を使うので厄介だ。それも個体によって使用する魔法が異なるので、思わぬ魔法を使って来たりして余計に戦い辛い。


 カーシャは火球を余裕でかわして距離を詰める。
リッチが新たに魔法を使おうとするのを見て、ガンで俺は攻撃をし使わせないよう牽制する。ただ、こちらにもリッチが魔法を飛ばして来た。それをマヤの魔法で打ち消してくれる。


「あまり強い個体じゃないかもー」


 魔法を防いだ感触で、リッチの強さを感じ取ったようだ。彼女の口振りからして脅威に感じるものではないらしいので、戦闘中だが少し安堵する。


 カーシャがリッチまで辿り着くと、今度は腕が獣毛に包まれ、そして何倍にも膨れ上がる。剛腕となった手を握り締め、リッチに拳を叩き込む。だが、その拳は届く事はなかった。リッチに接触しようかどうかの位置で拳が止まってしまう。


「あらー、強い結界ねー。結界魔法に長けた個体みたいー」


 確かに、俺も隙を見てはガンで攻撃するが、どれも当たった様子はない。カーシャはリッチの魔法を避けながら拳を繰り出すが、どれも結界を壊す事ができないようだ。


「……これなら、どう?」


 右腕だけカーシャは変化させた。今度はカーシャの身の丈と同じくらいの大きな鎌になる。そして魔法を避けるのに一度天井まで飛び上がった後、天井を蹴ってリッチに迫り、鎌の腕を振り下ろす。


 すると、次の瞬間、破砕音が広間に響いた。鎌が結界を破壊し、リッチの体を二つに裂いたのだ。


「ガガガガガガガガガガガガガガッ!」


 初めてリッチの声を聞いた。その声からリッチが怒り、そして苦しんでいるのが分かる。


「……とどめ」


 そして、以前ブラッドウルフを倒した時に見た、ドラゴンの頭が腹部に現れ、氷の息が放たれる。リッチの体は一瞬で凍り付き、地面へと落ちると粉々に割れてしまう。


「……終わった」


 こうして、思いのほか時間が掛からず、納骨堂を覆っていた呪いの根源を断つ事ができた。


 俺はこれでペットの捕獲に専念できる、そして納骨堂が無事のままリッチを倒せたと安堵するのだった。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品