死なない奴等の愚行

山口五日

第138話 武装が充実しているバスでした

 フェルにせがまれバスの未使用の機能を試す為、少し移動をして万が一被害が出ないようにする。


「……さて、とりあえず爆発しないように祈るか」


 最悪爆発して自分の体が木っ端微塵になるのはいい。治るから。だが、バスは元には戻らない。自爆機能が備わっていない事を祈るばかりだ。


「じゃあ、まずこれ!」
「ちょっ! フェル!」


 操作席に身を乗り出してフェルは勝手にボタンを押す。いったい何が起きるんだと思わず身構えてしまうが、幸い大した事はなかった。バスの前から光が発せられただけだ。夜でも安全に移動する為だろう。


「フェル……急に押さないでくれ。心臓に悪いから」
「次はこれ!」
「話を聞いて!?」


 駄目だ、この犬。待てができない。
 飼い主であるオッサンを思えば仕方ない気もするが、本当に怖いからやめて欲しい。


 そして次なる機能は正面窓に異変が起きた。黒い棒が左右に動いて窓を拭いているように見える。何だろう、これは…………窓を掃除する機能だろうか……。よく分からないが、何も危険がないようで良かった。


「……フェル、ちょっと待ってくれないか? 押してもいいけど少し待って」
「これ!」
「一瞬たりとも迷いがない! んんっ!?」


 今度はレバーを引いたフェル。
その時、どうしてか分からないが、大量の魔力が抜けていくのを感じた。いったい何が起きたのだろうかと周囲を見てみる。すると、青い半透明の膜がバスを覆っているようであった。これは……結界だろうか?


 外部からの攻撃を防ぐ為のものだろう。これは便利だ。便利だが、こういった役立つ機能はしっかり説明して欲しい。


 まあ、博士に対してはとりあえずいい。今はそれよりもフェルだ。こちらの声を聞かずにボタンを押したりレバーを引いたりと心臓に大変悪い。本当にこっちの言葉を聞き入れて欲しいのだが……。


「……フェル、待て」
「何?(ポチッ)」
「フェルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 駄目だ。呼びかけに反応すると同時に押してしまう。あれか? 押すなよと言われると押してしまう、そういうものなのか?


 そして、次なる機能も俺の魔力をごっそり持って行った。今度は何が起きるのやらと車内と車外を注意して見てみると、すぐに異変に気付く。バスの側面に複数の魔法陣が展開していた。


 側面からの攻撃を防ぐものかと思ったが違った。


 次の瞬間、光の矢が各魔法陣から射出された。周囲に射出された矢が降り注ぎ、地面へと突き刺さる。やがて光の矢は跡形もなく消えるのだが、地面には矢の数だけ穴が開いていた。


 ……モンスターが襲って来た時なんかに使う、いざという時の機能だな。うん、まあこれぐらいだったら許容範囲だ。盗賊に囲まれた時なんかに役に立ちそうだな。次からこれを使って。


「これとこれと……これ!」
「この子、怖い!」


 とうとう続けて複数のボタンを押しだすフェル。この子はボタンを押さないと気が済まないのか。そういう病気なのか。押すのをやめて欲しいという気持ちが失せ、彼女の事が心配になって来た。


 そして、結界、光の矢とは比べ物にならないほどに魔力が減る。
 何が起きたのか説明すると、雷が落ち、炎が周囲の地面を覆い、地面が変形して人ほどの大きさの鋭い棘が突出した。


 ……移動手段にしては武装を盛り過ぎではないだろうか。
 そして、これ以上フェルとともに未使用の機能を試すのは危険だと判断して、皆のもとへと戻る事に。フェルはまだ試すと騒いだが、さすがに却下した。これ以上は本当に心臓がもたない。


 また、機能を試した為に魔力をかなり消費したので、そのまま今日は移動せず休むことにする。今度試す時はサーペントとともに試そう……。

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