死なない奴等の愚行

山口五日

第130話 何があったか聞いてみた……そして気にしない!

 馬車を全速力で走らせて暫く経った。
 馬車を操作するフェルの隣に座りながら、来た道を振り返ってみるがどうやら追手はないようだ。


「ふうっ……良かった。追い掛けて来たら面倒だったな」
(そうですね。倒すのは容易ですけど、加減をして相手にするのは大変ですよ)


 戦争やら命の取り合いであれば割り切るが、さすがに街の治安を守る衛兵の命は奪いたくない。例え嫌な奴であってもだ。


「誰も怪我はしてないか?」
「は、はい……俺達は大丈夫です」
「そうか……無事で良かった」


 念の為、一人一人に視線を向けて確認してみるが、どうやら本当に怪我はしていないようだ。良かった……まあフェルが居たから相当手強い相手が出て来ない限りは問題ないとは思うが……。


「それで……いったい何があったんだ?」
「聞いてよ! それが、いきなり変な奴等が寄越せだなんて言って来たんだよ! 勝手に馬車の中に入ろうとするしさ!」


 フェルが言っているのは、馬車の周りで倒れていた武装した連中だろうか。ハーフモンスターだと思って手を出そうとした盗賊まがいの連中だったのか……。門番もそうだったが、ハーフモンスターに対する扱いが酷いな。


「そうか……よく皆を守ってくれたな」


 俺がそう言って頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めて「ふわぁん」と可愛らしい声を漏らす。また、尻尾が激しく振られて、普段より犬らしさが五割増しとなっていた。


 そんな俺に対して後ろから申し訳なさそうにガルダが声を掛けて来た。


「あの……ケルベロスさん。少しいいですか?」
「ん? ああ、今そっちに行く」


 フェルを撫でるのを中断して後ろへと移動する。
 彼女の頭から手を離した時、「くぅん……」と切なそうな声を漏らして名残惜しそうにしていた。それを見た時、この場に留まってもっと撫でてあげたい衝動が込み上げてきたが、それをこらえてガルダのもとへと向かう。


「どうしたんだ?」
「あの……その、補足と言いますか……」
「補足?」
「はい…………ケルベロスさんが居なくなってからの事で、フェルさんの説明だと省略し過ぎているというか……ケルベロスさんも早とちりをしてしまったというか……」
「どういう事だ?」


 ガルダは話し辛そうにしながらも、数秒の時間沈黙した後に話してくれた。


「実は……先程馬車を停めていた場所が有料の馬車を停めるところだったみたいで、ケルベロスさんとサーペントさんが行った後に管理されている方が来たんです。料金を払うように、と。その人はフェルさんも含めて全員ハーフモンスターだと思ったようで、門番と同じように高圧的で……。それがフェルさん気に食わなかったのか『うっさい!』と追い返してしまったんです」
「…………」
(…………)


 こちらが一方的な被害者だと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。ガルダの話は続く。


「その後、雇っている用心棒がやって来て、とにかく料金は支払って貰うと、用心棒の一人が馬車の中を物色しようとしたんです。それをフェルさんがボコボコに。フェルさんを止めようとした他の用心棒もボコボコに。残った管理の方は門番に助けを求め、門番は惨状を見て衛兵を呼び…………ああなりました」
「ああなっちゃったのか……」


 俺とサーペントは心の中で「まじか……」とだけ声を揃えた。
 そのような経緯があったとは知らなかった。今の話を聞いた限りだと、悪いのは完全にこちらだ。今からでも戻って謝るか…………いや、もしかすると捕まってしまう可能性もある。


 ………………よし、気にしない。このまま後ろを振り返らずに進んでしまおう。


 確かに手を出したのはこっちだ。だが、こちらが一方的に悪い訳ではない。あちらもハーフモンスターだからといって態度が悪かったのも一因だ。うん、そうだ。こちらだけが悪い訳じゃない。喧嘩両成敗だ、そうに違いない。


 自分にそう理由をつけて、ガルダにも「気にするな。あれは事故だ。お互いに運が悪かった」と言っておいた。


 ただ、フェルはルリと代わろうか。少しお説教だ。

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