死なない奴等の愚行

山口五日

第125話 雑魚なりに頑張る

「来やがれ雑魚がっ!」


 俺は何体目か分からないゴブリンの頭を棍棒で潰した。今ので使っていた棍棒も限界だった。深く皹が生え、もう一撃ゴブリンの頭に振り下ろしたら砕けるに違いない。俺は他のゴブリンの武器を地面から拾い上げて、再び近くのゴブリンへと振り下ろした。まだまだっ!


(……ケルベロスさん、何度死にかければ気が済むんですか? 目を覚ましてすぐにゴブリンを倒すのは構いませんが)


「うるせえ!」


 やっぱり俺は不老不死でも非力な一般人だった。
 一、二体くらいだったらなんとかなる。だけど何十体が同時に迫って来るんだ。武器を持ったうえ、明確な殺意までも持っている奴等だ。そりゃ普通死ぬ。


(ケルベロスさん……もう少し生身でも戦えるようにしないと駄目ですよ。私が居ない時はどうするんですか?)


「仕方ないだろ! 魔道具もないんだから!」


(魔道具にも頼らないようにしないと……背中にナイフが刺さってますよ!)


「痛いと思った訳だ! おいっ、どのゴブリンだ! 名乗り出ろ!」


(なんやかんやゴブリン達を引き付けているから、まあ分離した意味はありましたね……)


 背中に刺さったナイフを自力で抜きながらゴブリンを叩く。叩いている内に他のゴブリンが寄ってたかって攻撃してくる。意識を何とか保って、武器を振り回して追い払う。だが、数には勝てず結局はボコボコに。


 そこから復活するまで更にボコボコに。あいつら死体に対しても遠慮がない。いや、度重なる復活に学習しているのかもしれない。復活の時間を稼ぐ為に、サーペントが数秒ゴブリン達を追っ払ってくれる。それでなんとか復活して再びゴブリンを相手にするのだ。


 なんとかガルダ達の方にゴブリンを行かせないようにしているが、フェルが戻って来ないといずれ限界を迎える。体力は不老不死でも変わらない。


「フェル! いったい何処に行ったんだ!」
(落ち着いてくださいケルベロスさん。ほら、足に剣が刺さってますよ)
「へ? あ、本当だ凄い痛い!」


 指摘されて刺されている事に気付き、痛覚が仕事をする。
 不老不死になったせいで痛覚がおかしな事になっていた。動きが鈍らなくていいが、気付かぬ内にダメージが蓄積して気絶してしまう恐れがある。それにナイフ等が刺さったままだと傷も治らないのだ。


 気付いたらすぐに引き抜くようにしている。


 それにしても、俺はすっかりボロボロだ。殴られ、斬られ、刺され……そして血が大量に流れ出てしまい服は穴が開き血だらけだ。


 そんな俺の姿を見て心配になったのか。幌馬車からガルダが出て来た。


「ケルベロスさん! 大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫だ! 問題ない!」
(その姿で大丈夫と言われても……)
「うるせえっ!」


 サーペントを黙らせる。説得力がないのは分かっている。だけど、そうでも言わないとガルダは今にも加勢する為に、こちらに走って来そうだ。


 俺が不老不死である事は街を出る前に明かしているし、大丈夫と言っている内は静観してくれるだろう……たぶん。


 だが、静観していられる状況ではなくなった。
 ゴブリンが二体、俺とサーペントを避けるように迂回して、幌馬車へと向かって行ってしまったのだ。


「っ! サーペント!」
(はいっ!)


 サーペントがその二体を倒す為に幌馬車へと向かって走り出す。
 みんなが少しだけでも逃げてくれれば、怪我をする前にサーペントがゴブリンを倒してくれるだろう。


 だが、サーペントの出番はなかった。


「はあっ! せやっ!」
「へ?」


 ガルダが掛け声とともに黒い岩肌のような拳を振るう。するとゴブリンが宙を舞い、そして地面を数回弾んで動かなくなった。


「多少打ち漏らしても、問題ありません! こっちは俺が守りますから!」
「あ、うん」


 意外と戦えるガルダに対して、俺は背中から飛び出すほどに深く突き刺さっていた剣を抜きながら思った。


 こいつ、俺よりも強いんじゃね?

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