死なない奴等の愚行

山口五日

第124話 やるときはやるんですよ!

 俺に野菜ばかりを持った子供達が怒られているのを眺めていると、不意にフェルの食事をする手が止まる。そして木々が生い茂る森の方を見ながら立ち上がった。


「どうした?」
「何か来るよ。たぶんモンスター」
「モンスターか。サーペント!」
(はい!)


 いつでも戦えるようにと俺はサーペントを身に纏った。
 俺達の様子を見て、ガルダ達も警戒をする。


「ケルベロスさん、どうかされたんですか?」
「モンスターがこっちに近付いているようだ」
「モンスターが? 逃げますか?」
「大丈夫だよ。これぐらいなら私とケルベロスでどうにかできるから」


 フェルが自信を持って答える。強いモンスターが来たらどうしようかと思ったが、フェルの口振りからそこまでのモンスターではないようだ。


(そんじょそこらの相手になら負ける事はないでしょうが……。私は海でないと本領発揮できませんからね……)


 俺の不安を感じ取ったのかそんな事をサーペントは言う。
 確かにサーペントは海を操る事ができるが、それ以外の水に関しては操る事はできない。


 ただ、そういった力は使えなくても、身体能力は飛躍的に上がるので充分だ。


「お、俺も戦います!」
「ガルダはみんなを守れ! 俺達が打ち漏らすかもしれないからな」


 マリアが居るならいいが、今は治療できる者は誰も居ない。万が一、大怪我を負った時には下手をすれば死んでしまう。死なない俺達が前に出て戦うのが一番だ。


「ケルベロス来るよ!」
「おうっ!」


 すると森から多くのゴブリンが飛び出して来た。こん棒や錆びた剣を振りかざして迫って来る。


「おらっ!」
「ギヤッ!?」


 ガルダ達の方へ行かせないように、近付いて来るゴブリンを倒していく。
 ゴブリンを倒しながらガルダ達の方を見ると、ガルダがみんなに幌馬車に乗り込むようにと指示をしていた。どうやらゴブリンは俺達の前方からしか現れていないようだ。
 前だけに集中していればいいから助かる。


 それから現れるゴブリンを倒し続けるのだが、なかなか減らなかった。
 剣を一振りすれば容易に屠る事はできる。だが、増え続けているのだ。
 俺が一体倒している間に、森から二体ゴブリンが飛び出して来ているようで、どれだけ倒そうと増え続けるので終わりが見えない。


「もうっ! 多過ぎだよ!」


 フェルは、疲れはないようだが、減らないゴブリンに苛立っていた。
 無理もない。俺の数倍ゴブリンを倒しているのに、ゴブリンは減るどころか増えているのだから。


 そんななかで俺は一つ気になった事がある。
 なぜか分からないが、ゴブリンの死骸が少ない。俺とフェルで百体以上は倒しているはずなのだが、死骸が四分の一もない。一部のゴブリンが地面に倒れ伏すと消えてしまうのだ。


 一部が幻とか? いや、斬った感触は本物だ。
 不思議に思いながら俺は黙々とゴブリンを倒していった。


「んんん……これって、もしかして…………よしっ!」


 フェルは何かに気付いたらしく森へと向かって走り出した。


「フェ、フェル!? 何処に行くんだ!?」
「ちょっとそこまで! すぐ戻るから!」
「い、いや、フェルが居なくなったらゴブリンが……フェ、フェル!」


 森の中へと姿を消してしまうフェル。その為、ゴブリンを一手に引き受ける事になる。
 やられる事はないが、ガルダ達の方へとゴブリンを行かせてしまう恐れがある。フェルが居なくなってしまい、圧倒的にこちらの人手が足りない。


「フェ、フェル! 早く戻って来てくれぇっ!」
(ケルベロスさん、このままだと馬車の方にゴブリンが)
「分かってる! だけど、こっちの人手が…………仕方ない、おい分離するぞ!」
(えっ……わ、分かりました!)


 サーペントと分離すると俺は地面に落ちていたゴブリンの武器を拾い、それを振るった。


「ゴブリンくらいなら一人でも倒せんだよっ!」


 少しでもこちらの人手不足を補おうと、分離して戦う。これで実質二人。正直、魔道具の一つでも欲しいが贅沢は言っていられない。俺はサーペントとゴブリンを倒していった。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品