死なない奴等の愚行

山口五日

第118話 覚悟しろ商人…………商人?

 俺とユーマは迫り来る敵を倒し、奥の部屋へと辿り着いた。
 そこに例の商人が居ると踏んで、ユーマはここまでの無双っぷりから勢いよく扉を蹴り飛ばして室内へと踏み込んだ。


「オラァ! テメエがボスか? あぁん?」
「ユーマ、またチンピラに戻ってるぞ」


 こいつは自分よりも格下の相手になると気が大きくなるようだ。
普段は後方から魔道具を使っているから、こうして面と向かって戦う機会がないからだろう。そのせいでハイになっているのか……。


 まあユーマの状態はどうでもいい。それよりも商人を…………あれ?


「ギギギギギギギギギギギギギギギギギ」
「「…………」」


 建付けの悪い扉を押し開いた時のような音。
 それは室内の中央に佇む謎の生物から発せられていた。


 二本の足、四本の腕を持つ、頭頂部に二本の角を生やしている。そして黒い靄を纏わせた、人間とは思えない姿だ。


「……あれ商人か?」
「……いや……あれは悪魔っしょ」
「悪魔っ!?」


 どうして悪魔なんてものがこんなところに……。
 悪魔は人が呼び出さない限り、現れる事はない。そして呼び出すには、それ相応の対価……命…、体の一部…、寿命数十年分、全財産、魂といったものが必要だ。どうやらそんなものを差し出してまで呼び出した馬鹿が居るようだ。


「商人が呼び出したのか?」
「…………呼び出したというか、ありゃ悪魔になっちった?」
「悪魔になった? 商人がか?」
「たまに居るんだよ……人道を逸れ過ぎた時、人間じゃなくなる奴。悪魔になっちまうほど外道な奴だったのか?」


 商人と思われる悪魔を見ながら、そんなユーマと遣り取りをしていた。悪魔は俺達に今気付いたのかのように、ゆっくりと顔をこちらへと向けて来る。


「オ、オマエラ……ワタシノ、ザイヲネラウノカッ?」
「「っ!」」


 聞き取り辛い音の外れた言葉を放つ悪魔に、俺達は警戒し身構える。


「喋ったな」
「喋るんだな……話している内容的に商人本人で間違いな、おおおおっ!?」


 悪魔が商人である。そう実感した直後に悪魔が肉薄し、拳を振るって来た。咄嗟にユーマが魔道具で結界を張り、拳を防ぐ。だが、一時的には拳は止まったものの、そのまま拳を押し込んで来て結界を破壊されてしまう。


「危ねっ! ケルベロスッ! ちょっとこいつはヤベェッ!」
「そんなの分かってる! 本気でいくぞ!」
「よっしゃっ! いくぜ!」


 様々な魔道具を用いて威力の強い攻撃を放つユーマ。先程までチンピラを相手にしていたものとは異なる、戦場で使うようなものだ。どうやら悪魔を相手にするには、戦場にいるつもりで戦わないといけないらしい。


 魔道具から放たれる魔法が悪魔に着弾し炸裂する。そして俺は間髪入れず剣を振るう。


「いくぞサーペントっ!」
(承知いたし、避けます!)
「へ? ぐぼらっ!?」


 サーペントが避けると言った直後、一瞬俺の意思とは反する動きをする。具体的に言うとブリッジを取らされた。その急な動きに俺の腰がついていけず痛みが走る。


 何を急に……そう思うと天井を向いていた顔の前を何かが通り過ぎた。それは悪魔の拳。どうやら魔法をまともにくらっても動けるようで、向かって来た俺を攻撃して来たようだ。危ねえ……ナイスサーペント。


(いえ、まさかあれだけの魔法をくらって動けるなんて……)


 サーペントも驚きを隠せない。
 油断してはいけない相手だ。一層気を引き締め、俺は腰の痛みに耐えながら体勢を立て直して剣を構える。
 するとユーマの右手にある指輪の一つが、ひときわ強い光を放ち出した。


「ケルベロスっ! 離れろ! 威力高めで一発ぶっ放すっ!」
「お、おおっ!」


 室内で大丈夫かと不安が過ぎるが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。


 俺が距離を取った瞬間、ユーマの魔道具から魔法が放たれた。そして響く爆発音、眩い光に室内が包まれる。

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