死なない奴等の愚行

山口五日

第105話 サーペントさん我慢の限界

 追い返されるようにして引き返し、俺とサーペントは相談して港から離れた人が居ない砂浜から上陸した。


「やれやれ……まさかあんな歓迎されるとは思わなかったな……」
(ええ、本当に…………ですが、これで買い物ができるじゃないですか。行きましょうケルベロスさん)
「え? サーペントはここで待っててくれよ」
(え?)


 素で驚いている様子のサーペント。どうして一緒に買い物に行けると思ったのだろうか。


「さっき、サーペントに反応してあんな事になったんだぞ。連れて行ったら、また騒ぎになるだろ?」
(い、いやいや! 大丈夫ですって! ほら、陸に上がってますし! 蒼海じゃないですもん!)
「いや、海に居るかどうかだけで判断するとは限らないだろ……普通に見た目でばれる可能性もある。だから、お前はここで待っててくれよ。下手に騒ぎになれば、いつまでも船に帰れないぞ」
(くっ……キモイとか言われた次は、今度は置いてけぼりですか……。なんか扱いが酷過ぎませんか? 帰って良いですか?)
「帰るな! お前が帰ったら船に帰れなくなる! ここは我慢してくれよ、な?」


 サーペントに帰られると船に帰れない。また、イモータルと合流するにはどうしたらいいのかも分からないので非常に困る。


 だが、サーペントも度重なる仕打ちに、我慢も限界のようでこの場で待つのは嫌のようだ。


(私も行きます! 折角来たんですから!)
「と言ってもな……姿を変えられたりできないのか?」
(そんな事できないですよ。でも、本当に大丈夫だと思いますよ。陸地を歩いて来るのが、蒼海の死霊騎士なんて誰も思わないですよ)
「いや、そこを判断基準にするか?」


 確かに海の上を移動する全身甲冑の姿を見るのと、陸を歩く姿ではまるで印象が違う。同じものを見ているはずなのに、危険性は前者の方が高そうである。


「だけどな……さっき思いっ切り見られちゃったし」
(まあ、行ってみたら分かりますよ!)
「え、ちょっ!?」


 勝手にサーペントが動き始める。普段は俺が自由に動かせるのだが、今はどうも体を動かす主導権をサーペントに握られてしまった。
歩くのを止めようと俺は必死に体の主導権を握ろうとするが、意思の強さなのか止まる気配はない。それから俺はサーペントに必死に呼び掛けるが、聞く耳を持たず先程の港町の門が見えて来た。


(さあ、見えてきましたよ!)
「サ、サーペント……万が一戦いになったらすぐに逃げてくれよ。最悪俺の顔を見せなければ、またここに戻って来て買えるからな。
(はいはい、安心してくださいケルベロスさん。大丈夫ですよ。きっと騒ぎになんかなりません)
「どっから来るんだよ、その自信!?」


 不安でいっぱいな俺とは裏腹に、サーペントは軽快な足取りで門へと近付く。長い間封印されていたからなのだろうか、こうして街を歩き回るのが嬉しいようだ。だが、水を差すようで申し訳ないが、自重してくれサーペント……。


 だが、門番をしている人の顔がこちらで確認できるように、あちらもこちらの姿を視認しているだろう。ここに先程海面を滑るようにして移動しながら、街に向かっていた者と同一の姿を。今、ここで引き返しでもしたら怪しまれてしまう。


 ええい! こうなったら行くしかない!


 門の前に到着すると、俺はサーペントの代わりに門番の男に挨拶をする。


「こ、こんにちは……」
「やあ、こんにちは。君は傭兵か何かかい? 見ない出で立ちだけど……」


 親しげな笑みを浮かべながら、男はそう尋ねて来た。


 ん? 別に……怪しまれてない、のか? 蒼海の死霊騎士と疑っていないようだ。もしかして、この門番は先程海には居なかったのかもしれない。だとしたら堂々としている事にしよう。


「ああ、そうだ。ここから少し離れたところに、所属する傭兵団が居るんだ。団の中で必要なものがあるから、俺が使いっ走りをな」
「へー、使いっ走りかい。強そうだけど大変だなー」
「この傭兵団に入ったのは最近で、新参者なんですよ」
「そうかい」


 このように少し言葉を交わして、あっさり街に入る事を許された。


 …………俺の取り越し苦労だったのだろうか?

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