死なない奴等の愚行

山口五日

第92話 本格的に海賊退治をするそうです

 蒼海の死霊騎士の歓迎会を終えた翌日。
 朝早くから港にイモータルの団員達が慌ただしく動いていた。


「さあっ、仕事の遅れを取り戻すぞ! キリキリ動いてさっさと海賊退治、殲滅、ぶっ殺してくるんだ! ああ、この手配書の海賊は生け捕りにしてくれ。賞金が貰えるからな」


 サラが手早く団員に指示を出していく。これから総動員で海賊退治に向かうのだ。遅れを取り戻す為らしいが、俺からしたらかなり無茶な采配だ。


 海に出て、海賊を探しだし、見つけ次第交戦、退治もしくは捕縛。これを一人でやれと言うのだ。サラは二人以上での行動を許さなかった。一人で行動すれば、より広い範囲を探すことができ、海賊を退治できるとの事。


 馬鹿げた考えだが、イモータル一人一人が海賊一つくらい壊滅させるほどの力があるので、うちの傭兵団に限っては現実的な策ではある。だが、ユーマや一部の団員は「まだ不死身歴短いから、そんなに強くないんだけどな……」などと弱気だった。


 また、行方不明者がでなければいいが……。


 そんな事を祈りながら俺も海に出ようとしていた。
 各自様々な手段を用いて海に出る。


 普通に泳ぐ者。


 魔法を用いて空を飛んだり、海面を滑る者。


 何処から持って来たのか分からないが、巨大な柱のような円柱状の物体を離れたところにある島へと目掛けて投げ、その上に乗って移動する者。


 何処から持って来たのか分からないが、足で漕ぐタイプのアヒルを模した船を全力で漕いであっという間に水平線に溶け込んでしまった者。


 後半に挙げた移動方法をする者が十人……いやもっと居たかもしれない。それほど、あの移動手段が普及している事に衝撃を受けた。
 やっている事は凄いが、馬鹿としか思えなかった。あんなのに退治されてしまう海賊が不憫でならない。


 そして俺の移動手段だが、俺はサラに二人での行動を許された。まだ日が浅いからとの事で配慮してくれたらしい。そして、その相手は同じく入団して日が浅いというか、昨日入団したばかり。そう、蒼海の死霊騎士だ。


「じゃあ頼む」
(お任せを)


 蒼海の死霊騎士がばらけて俺の体に装着されていき、俺は蒼海の死霊騎士の中に収まった。準備が完了して、俺は桟橋から海面に一歩踏み出す。沈む事はない、海面を歩けている。


 デュラ爺さんと戦った時に、蒼海の死霊騎士に入っている状態で何ができるのかは確認済みだ。海面を普通の地面のように歩いたり、走ったりできれば、海流を操って労せず移動する事だってできる。


 この海賊退治の仕事には蒼海の死霊騎士と行動が許されて本当に良かった。
 早速海流を操作して移動を始める。デュラ爺さんの攻撃を避けるのに必死で、すっかり慣れてしまった。


「さて、まずは何処から行くかな。近い島はもう見ただろうし、少し離れたところに行ってみるか」
(あの、ケルベロスさん……少しよろしいでしょうか?)
「どうした?」
(いえ、その……ちょっとお願いがありまして……)


 お願い? はて……蒼海の死霊騎士の願いとはいったい……。


(それです)
「それ?」
(蒼海の死霊騎士という呼び方です。もっと呼びやすい、名前をくれませんか?)
「名前を?」
(ええ……昨日団長さんあたりに相談しようかとも思ったのですが、意思を伝えられるのはケルベロスさんだけですし……)


 蒼海の死霊騎士は俺にしか、言葉を伝えられないのだ。融合した影響で俺は言いたい事が分かるらしい。不便だが、この時ばかりは良かったと思えた。


「よし、ちゃんとした名前をつけてやる……何処に行っても恥ずかしくない名前を」
(ケ、ケルベロスさん、そんな真剣に考えなくてもいいですよ? もっと気軽に……)


 蒼海の死霊騎士はそう言うが、名付けで苦い思いを経験している俺にとってはとても気軽になんて考えられない。俺のように酔っ払いたちに決められては可哀想だ。俺とだけしか会話ができなくて正直良かっただろう。


(ケ、ケルベロスさん、融合したばかりの頃と比べて、心の声は伝えたい事しか聞こえなくなってきたんですが……今は物凄く伝わってきますよ? 名前で何があったんですか?)
「いや、もう終わった事だ……気にしないでくれ」
(は、はあ……)


 こうして蒼海の死霊騎士の名前を考えながら、俺達は海賊を探すのだった。

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