死なない奴等の愚行

山口五日

第91話 謝罪と反省はとても大事です!

 蒼海の死霊騎士が入団した経緯はそんな感じだ。
 不老不死にしていないのは、団長自身が蒼海の死霊騎士の人柄を分かっていないからだそうだ。まあ、そう簡単に不老不死にしていたら、世の中不老不死だらけになってしまうだろう。


 団長に酒を勧められるがまま蒼海の死霊騎士が酒を飲む仕草をしている。足下にはどんどん酒の水溜まりが広がっていく。勿体ないな……これ、サラが怒るぞ。


 幸いな事にサラの酔いは俺達が海から戻って来ると醒めていた。今は通常運転で、団長を絶賛怒りに満ちた表情で凝視している。うん、やっぱり怒っていた。


 まあ、とにかくこれで完全に酒乱サラ担当から解放されたという訳だ。


 あと、ついでに行方不明だった団員が全員見つかった。封印されていた男性が最後だったようだ。これでイモータルも通常運転を再開できる。


「ケルベロス、呑んどるか?」
「……デュラ爺さん」


 俺が一人座って呑んでいるところにデュラ爺さんが近付いて来た。爺さんは申し訳なさそうな顔をしながら、俺のグラスに酒を注ぐ。どうやら俺を蒼海の死霊騎士ごとボコボコにした事を謝罪しに来たようだ。


「いやぁ、すまんの。迷惑を掛けたみたいで……儂はあの姿になると少々昔を思い出して暴走してしまうんじゃ。面目ない」
「気にするな……とは言えないけど、まあ……博士やマヤよりかはマシだよ」


 あいつら何をしたか説明しただけで、謝罪とか一切しないからな。それどころか被害者の目の前で、嬉々とした様子で自分たちの行いを語るのだから悪質極まりない。謝罪に来てくれたデュラ爺さんの方が何十倍もマシだ。


「だけど、どうしてああなったんだ? 首が取られそうだったみたいな事を言ってたと思うが……」


 デュラ爺さんは俺の質問に対して、自分のグラスに酒を注いで少し口にしてから語り出す。


「うむ……実はの。儂の首も封印され掛けてしまったんじゃ。ちょっと強めに抵抗しなければ、救助した団員と共に封印されていたじゃろうな」
「デュラ爺さんを抑え込むほどの強力な封印だったのか?」
「ああ、よほど強力な封印魔法でなければ儂を封印なんてする事はできないんだがのう……今回はちとマズいと思い、本気を出してしまったんじゃ。いやぁ、あの死霊騎士も封印されていた被害者であったのに、申し訳ない事をしたのう」


 デュラ爺さんは「あやつにも謝罪しなくては」と言って、俺のもとから去って行った。


 どうやら蒼海の死霊騎士やうちの団員の封印は、想像以上に強力だったらしい。
 確か蒼海の死霊騎士が封印されたのが五百年くらい前だったか? それほどの封印魔法を使える魔法使いが、その当時にいたのか…………もしかしてマヤあたりが自分のした事を忘れているなんて事はないだろうか。ありそうだ。


 あとで一度聞いてみてもいいかもしれない。そう思いながらデュラ爺さんに注いで貰った酒を一息で呑んだ。


「ケルベロス……」
「ん?」


 突然背後から声を掛けられた。聞き覚えのある声だが、弱々しく別人に思えた。だが、振り返ってみると、最初に思い浮かんだ俺の知る人物がそこに立っていた。


「シロか……」


 珍しくシロは元気がない。いつもだったら発見と同時に突っ込んで来て俺がダメージを受けるのだが、俯きながら、恐るおそるといった様子で俺に話し掛けて来る。


「あ、あのね……怒ってる?」
「怒ってるって…………何がだ?」
「その、えっと…………海に落としちゃった事」
「……………………ああ!」


 すっかり忘れていた。酒で暴れるサラやデュラ爺さんの本気モード、蒼海の死霊騎士との融合と立て続けにインパクトの強過ぎる出来事が立て続けに起きた為に、忘れかけていた。


 自分が漂流していた事を忘れかけるなんて、どうかとも思うが……。


「その……ごめんね。お酒に酔って楽しくなっちゃって……そのせいでケルベロスやみんなに迷惑を掛けちゃった。本当に、ごめんね……」
「あー……オッサンとかに怒られたのか?」
「うん、ゼンとサラにちょっとだけ……」
「ちょっとだけか……」


 あれをちょっとの説教で済ませていいのかと疑問だが、まあシロの様子からして充分に反省していると見える。


「いいよ、反省してるなら。次からは気を付けろよ」
「え、許してくれるの?」


 普通であれば許しちゃいけないかもしれない。だが、普通ではないのだ。死なない人生に漂流の一つや二つあるだろう。それに謝りに来てくれ、落ち込むほど反省をしているのだ…………謝罪と反省は特定の二人のせいで、自分の中で価値が高騰している気もするが……。


 まあ、とにかくシロは既に充分に反省しているし、彼女に対して俺は怒りはない。


「ああ……謝りに来てくれたうえ、反省もしっかりしているようだしな。それにだ、俺以外に海に突っ込んだ奴等は自己責任だ」


 そう言って俺はシロの頭に手を伸ばし、強めに撫でてやる。


「だから、いつも通りの元気なお前を見せてくれよ」
「…………ケルベロスっ!」


 嬉しそうに座っている俺に低空タックル……いや抱き着いて来た。鳩尾にシロの頭が突き刺さって呑んだ酒がリバースしそうになったが、なんとか耐える。


 うん、やっぱりシロはこうでなくちゃな。元気を取り戻したシロを見て、思わず顔が綻んでしまう自分に気付いた。

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