死なない奴等の愚行

山口五日

第90話 色々すっ飛ばしているけど、安心してください。ちゃんと語りますから。

「新しく入団した蒼海の死霊騎士だ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお! 乾杯!」」」」」
「お前ら、呑む口実が欲しいだけだろ!」


 俺の声は誰にも届く事はなく、すっかり飲み会に突入していた。
 まあ、何はともあれ、蒼海の死霊騎士の歓迎会が始まった訳だ。


 …………なんか色々すっ飛ばしている気がする。
 いや、本当になんとなくだが、そんな気がするので少し蒼海の死霊騎士の歓迎に至るまでの事を思い出してみよう。


 まずは……そうだ、蒼海の死霊騎士と俺が融合をしてデュラ爺さんと戦った件だが、惨敗だ。一撃も攻撃を与えられなかった。本当に強い……強過ぎる……融合した状態の俺は初陣の魔道具で全身を固めていた時よりも強いのだが、呆気なく負けた。


 いや、あれは勝てる気がしない。あれだけ強くて不老不死って…………地上最強の生物だろ、あれ。


 ちなみに今、俺は蒼海の死霊騎士の中から出ている。
 壇上でオッサンと酒を飲み交わしているのは……いや、あれ呑めてないな。足下がびちゃびちゃだ。中に誰も入っていないのだから当たり前だ。だけどオッサンに呑めと言われて仕方なく飲む仕草をしているらしい。


 今、こうして甲冑の外に俺は出ているが、融合が解けている訳ではない。


 デュラ爺さんにボコボコにされた後、俺と蒼海の死霊騎士を融合させた博士とマヤに詳しく話を聞いたのだが、奴等が言うにはモンスターとの融合は普通ありえない事らしい。通常であれば得体の知れない新種のモンスターができあがると説明された時には、本気でぶっ殺してやろうかと思った。不老不死であるので不可能だが。


 だが、人間の念によって作られた蒼海の死霊騎士とであれば、融合できるのではないかと考えたらしい。ユーリの話では一人や二人ではない、膨大な数の人の念によって生まれたモンスターだ。比較的モンスターの中でも人間の要素が濃いという事で、成功率が高いはずと踏んだらしい。そして融合の成功を上げる為に博士が蒼海の死霊騎士の体中に、人の精神を清め、あるいは負の念によって構成されたモンスターを消滅させる浄化魔法の魔法陣を描いたとの事。


 そして融合させてみたら見事成功! しかも蒼海の死霊騎士に理性を持たせる事ができた。この事に博士とマヤは素晴らしい発見と言って興奮し、暫くは二人してお祭り騒ぎだった。このように説明を聞くまでに暫く掛かったので、その間は蒼海の死霊騎士にどうやって分離できるか試行錯誤した。


 その結果、分かったのが二人の意思を合わせる事だった。
 俺と蒼海の死霊騎士が離れたいと思うと離れたのだ。俺が最初衝突しそうになった時のようにばらけて、今度は俺を巻き込まないように組み上がった。そして今度は一つになる……なんか語弊がありそうだが、とにかく一つになりたいと思えば再び俺は蒼海の死霊騎士の中に入るのだ。


 どうやら離れてはいるものの融合をした状態を保っているらしい。このような例は今までにないらしく、博士とマヤが言うにはあまり二人が離れてしまうと大変な事が起きる恐れもある。


 という事なので今後蒼海の死霊騎士の扱いをどうするかという事になり、全員で船で話し合いが始まった。そして普段の状態に戻ったデュラ爺さんが「イモータルに入団させればいいではないか」と意見を出して、とりあえずオッサンに相談する事となった。


 そしてイモータルに入れようと、博士とマヤは積極的に動いた。


「多くの人の負の念を背負って生まれた可哀そうなモンスターだ! そろそろ幸せになってもいいだろうっ!」
「この子、ちゃんと理性があるんだよー。でもー、生活能力がないようだしー、それに帰る場所といったら誰も居ない海の底なんだよー。可哀そうだよー」


 と必死に訴えた。


 そして最終的に、不老不死の力は与えずにイモータルに入団する運びとなったのだった。この時、誰よりも喜んだのは博士とマヤだ。だが、騙されてはいけない。二人は蒼海の死霊騎士の為を思った優しさからの行動ではないのだ。


 俺には聞こえていた、二人の心の声が。


 あの二人が団長に伝えたかった本心は同じだ。


「「折角の実験対象を逃す訳にはいかないっ!」」


 オッサンを見る二人の目は、病的なほどの研究意欲に燃えるマッドサイエンティストの目をしていた。オッサンは蒼海の死霊騎士の入団を許可した時に、二人から目を逸らしていたのだが……まさかビビって入団を許可したんじゃないよな、オッサン?

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