死なない奴等の愚行

山口五日

第85話 覚醒せしデュラハン!

「デュラ爺さん!?」


 デュラ爺さんの首のない体が突然発光する。ただ、慌てふためいているのは俺だけで博士とマヤは「おおっ、久し振りに見れるのかっ!」「あー、凄い久し振りー」と慌てずに懐かしい、と思うくらいに留まる。


 ユーリも同じだ。「海だと不利だからねぇ」と言って苦笑している。


 よく分からないが、とりあえずデュラの胴体に起きているこの状態は以前にもあったという事は分かる。とりあえず心配する必要はなさそうだ。


 そしてデュラの体が一段と強く発光した後に、光は収まった。
 あまりに強烈な光に閉じていた目をそっと開けて、デュラ爺さんを確認する。そして恐る恐る開けていた目を限界まで見開いて、目の前の光景に俺は釘付けになった。


「三十年振りだな」
「そうねー」
「私はもっと前に見たきりねぇ」


 博士とマヤ、そしていつの間にか船上に打ち上っているユーリが懐古的な空気に包まれているようだが、俺はとてもそんな空気に馴染めなかった。


 突如として現れた目の前の光景に色々思う事はあるが、驚きが大きく俺はなんとも反応できないでした。だが、そういった様々な思いがひしめき合う事で、絞り出たように、ポツリと一言だけ口から漏れる。


「な、なんか強そうになってる!?」


 …………滅茶苦茶馬鹿っぽい一言だと自分でも思う。だけど実際そうなのだから仕方ない。


 デュラの今の姿、それはまさしくデュラハンそのものだった。全身を覆う漆黒の甲冑、そして背丈と同じぐらい大剣を背負っている。甲冑も剣も黒だが、非常に繊細な美しい彫刻が施されていて、光の当たる角度によって彫られたものが露わになるのだ。決して素朴という訳でなく、確かな美が備わっている甲冑と大剣だ。


 そして最も違うのがデュラ爺さんの纏う雰囲気だ。
 今ここにあるのは胴体だけだが、首があった時と同様の温厚そうな柔らかい雰囲気を纏っていた。だが、今はどうだろうか。心臓が止まりそうになるほどの寒気……実際に気温が下がったとかいう訳ではない。甲冑で体を覆ったデュラ爺さんの放つ気配がそうさせるのだ。自分の陥っている状態がなんなのか、本能的に理解する。


 この寒気は恐怖によるものだ。そして恐怖を抱いた理由、それはデュラ爺さんの放つ死の気配だ。デュラハンのは本来、首と胴体が切り離された不死身……というより死を具現化している、死を司るモンスターだ。今のデュラ爺さんはおそらく本来の姿なのだろう。


 デュラ爺さんの胴体は背負っていた大剣の柄を握ると、船を蹴って高々と跳び上がった。大きく揺れる船にふらつきながらも、デュラ爺さんを目で追う。すると、宙で停止し、大剣を両手で握りしめて構えている姿が見えた。
 ただ剣を構えているだけでないという事は魔力の流れを意識していれば分かる。人の魔力の流れは簡単には分からないものだが、デュラ爺さんはあくまでモンスターだ。隠し立てるのなら分からないかもしれないが、本人は特に隠す気はないようでよく分かる。


 デュラ爺さんの魔力の動きは異常だった。全身の魔力が激しく活性していて、今にも体内から溢れ出すのではないかと思えるほどだ。そして、その活性している魔力は大剣に集中していた。魔力が一か所に集中した事で黒い光が大剣から迸っている。


「……マヤくん」
「はいー、分かってますよー」
「船に乗って正解だったかも」
「え?」


 デュラ爺さんを見る事に意識を向けていると、博士とマヤが何か準備を始めていた。収納魔法で博士は魔道具らしいものを出し、マヤは呪文を唱え始めている。


「ケルベロス、何処かに掴ってた方がいいよぉ」


 そしてユーリも俺に警告を告げて来たので、これから何が起こるのかと不安になる。


「な、何が起きるんだよ」
「デュラ爺さんがちょっとばかし本気を出すみたい」
「本気を? いや、それって」


 「どんな事が起きるんだ?」と尋ねる必要はなくなった。
 デュラ爺さんが大剣を振り下ろした瞬間、本気を目の当たりにする事となったのだ。


 振り下ろした大剣から、凄まじい轟音を響かせながら黒い光が放たれる。まるで黒い雷を思わせる光は、やがて海に突き刺さったそして…………海が消えた。

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