死なない奴等の愚行

山口五日

第82話 封印された団員がいるそうです

「……封印されてるって本当なのか?」
「うん……見た感じね。私は魔法とかの知識はそこまでないから詳しくは分からないけど」


 ユーリから海底に封印されてしまっている事を聞いて、慌ててオッサンを呼びに行った。
 事情を説明するとすぐに来てくれ、ユーリから詳しい説明を受けている。


「封印自体は珍しくない…………まあ長い時間生きて来たからな。俺も何度も受けた事がある」
「いや、でも海底に封印されるなんて聞いた事がないよ」
「誰かが封印して、海底に沈めたとか……」
「ううん。あの感じだと海底に縫い付けられているかのように封印がされてた。あの場所で、封印をされたようにしか見えなかったけど……」


 ああでもない、こうでもないと団長とユーリが話し合う。
 だが、いまいち海底で封印をされた事に、オッサンは疑問を感じていて首を捻っていた。封印されて念入りに海に沈められたり、地面に埋められたりした経験はあるらしい。だが、わざわざ海に潜って封印をするというのは、経験した事もなければ、誰かがそのような事をされたというのも聞いた事がないようだ。


「相当用心深い奴がやったのか……それとも何らかの魔道具が誤って発動してしまったとか? もしくは…………とにかく一度見てみないと分からねえな。マヤと博士にでも行って貰うか……」
「それが良いだろうね。じゃあ、準備ができたら教えてよ。案内するから」
「ああ………………うーん……」
「団長?」


 ユーリにそう言われて早速準備をしようとオッサンは歩き出そうとした。だが、すぐに足を止めると。無精髭が生えた顎を撫でながら、思案する表情を見せる。


「サラが元に戻るなり、行方不明の団員がもう少し見つかって余裕がある時にでも行けばいいかもな。とりあえず海底に封印されている奴は放置して……」
「いや、すぐにでもどうにかしてやれよ」


 海底で封印されているというのは大変な事だと思うのだが、そこまで事態は急を要していないのだろうか。


「だってよ、マヤと博士はどっちも今は海賊の方に行ってんだ。海賊の数は多くてな、あまり戦力を削りたくない。それに、もしかすると自力でどうにかなるかもしれんだろ。俺だって自力で封印を解いた事くらいあるぞ」


 なるほど。自力で封印を解いた経験があるのか……だが、詳細を聞かないと納得してはいけない。そう、これまで俺の中で蓄積された経験が囁く。


「……ちなみに封印を自力で解くまで、どれくらい掛かった?」
「えっと……一ヵ月くらいか」
「一ヵ月も海底に沈んでろって言うのか!?」


 封印をされている状態で一ヵ月も放置されるなんて、どんな気分なのだろう。あまり考えたくもない。ここは一刻も早く助けてあげるべきだ、そう思っているとユーリが賛同してくれる。


「ケルベロスの言う通り、今すぐどうにかしてあげるべきよっ! だって、放置なんてしてたら…………封印されている事を絶対忘れちゃうものっ!」


 賛同してくれてはいるが、彼女も彼女で酷い。普通忘れるか、仲間が封印されている事? おい、団長。「確かに……」とか言うな、同意するな。


 結局忘れてしまう事を懸念して、すぐに救出に向かう事になった。


「じゃあマヤと博士に来て貰うか……。そうだケルベロス。お前も救出に行ってこい」
「? どうしてだ?」
「実際、封印なんてされているところ見た事ないだろ? 折角だから見て来いよ」
「…………ああ」


 窮地に陥っている仲間を教材のように扱うオッサンの精神構造どうなっているんだと思った。だが、確かに封印という言葉は幾度も耳にしていたものの、実際には見た事がなかったので素直に同行する事にする。


 それと酒乱サラ担当としての役割を、堂々とサボれるので渡りに船とも思った。


 それからマヤと博士を団長が呼び出す。海底で封印されている事を聞くと二人は興味津々と目を輝かせる。どのような魔法が、あるいは魔道具が使われているのか気になるようだ。


 二人の知的好奇心が刺激され、おかしな暴走をしないようにと俺は心の中で祈るのだった。

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