死なない奴等の愚行

山口五日

第70話 死なない馬鹿どもは連鎖する

「イモータルの団員なのか?」
「そうだよ! まあ、普段はぷらぷらしてるけどねぇ」
「それって大丈夫なのか? 死ななくても歳はとるだろ?」
「ああ、私は元々不老なんだよ」


 そういえば人魚って食べると不老不死になるとか伝説があるよな…………この知識はたぶんこの世界だな。そもそも人魚自体が伝説の存在だ。こんなふうに普通に話している事が不思議な気分だ。


「私のような人は何人か居るよ。デュラのような団長から離れても大丈夫だけど一緒に行動する人も居るけど」
「そうか、デュラの爺さんも元々不老不死みたいなものだからな」


 元々が不老というのは珍しいと思ったが、意外と身近に居た。
 まあ、よく考えてみると、イモータルの全員が不老不死という時点で珍しいもののパレードだ。その珍しいものの一人は俺でもある訳で…………人魚くらい、そこまで珍しくないのか? 価値観がおかしくなっているような気がするけど、気にしないでおこう。


「それで、どうしてユーリがここに?」
「どうしてって、そりゃケルベロスを探しにきたんだよ。団長に言われて」
「探してくれてるのか!?」
「え、う、うん……どうしてそんな驚いてるの? 探すに決まってるでしょ、団員が居なくなれば……」
「そんな常識があるとは思ってなくて……」
「あるよ! さすがにそれぐらいの常識!」


 ユーリは普段はイモータルとは離れているから知らないのかもしれない。あの死なないんだからオッケーと思っている、常識という枠を木っ端微塵にしてしまった非常識の暴れん坊達を。


「それに、今イモータルはケルベロスを探そうとして大変なんだよ?」
「? 大変?」


 俺をそんなに熱心に探してくれているのか? いや、正直そんなの想像できない。何かトラブルがあったとしか……。


「正確に言うとフェルとケルベロスが原因でと言うべきかなぁ」
「フェル?」


 どうしてフェルが出て来るんだと思ったが、そういえばフェルは俺もろとも海に飛び込んだのだ。もしかしてフェルも俺と同じように漂流を? 確かにかなり酔っ払っていたし、例え泳げていたとしても、あの状態では普段のように泳ぐ事は困難なのかもしれない。




「フェルも行方不明なのか?」
「ん? フェルは行方不明じゃないよ?」


 どうしてそう思ったのとばかりに首を傾げられて、俺もつられて首を傾げてしまう。
 二人して首を傾げて暫くしてユーリは何かに気付いたようで謝って来た。


「あ、ごめん。原因とは言ったけど、フェルの場合はケルベロスのように何処かに流された訳じゃないんだけど、大変な状況にした原因が二人にはあるんだよ」
「? どういう事だ? 俺とフェルが原因って…………海に飛び込んだ事か?」
「それ!」


 あの時の共通点といえばそれぐらいだがビンゴのようだ。だが、どうしてそれがイモータルを大変な状況に陥らせているのか。というか、そもそも大変と言ってはいるが、具体的にどのように大変なんだろうか。


 その俺の疑問はすぐに解消される。正直解消されたくはなった。常識を知らないとは思っていたが、これほど馬鹿だったとは……。


「私も見た訳じゃなきてサラから聞いたんだけどぉ、二人が飛び込んだのを見た他の団員達が『ん? 今誰か飛び込んでったな。よし! 俺達も飛び込もうぜ!』『いいな! 最近暑かったし!』『え、何、海で遊ぶの? 私も行く!』『あっはっは! ふらつくけど問題ないわ! さあレッツゴー!』『今日は酒じゃなくて海で溺れたい気分なのぉ!』と……飛び込んでいったらしいよ。そして飛び込んだ大抵が酔っ払っているせいで上手く泳げずに海を漂って……しかも夜だから回収も難しくてね…………現在二十七名が行方不明」


 イモータルが確か百五十人も居ないから……五分の一くらいが、酔っ払って海に飛び込んで行方不明。そんな傭兵団はきっと前代未聞だろう。


 何してるの……この傭兵団……。


 身内の愚行に頭が痛くなる。おそらくサラはこの何十倍もの頭痛を覚えている事だろう。

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