死なない奴等の愚行

山口五日

第61話 語られないことで妄想を膨らませるのもいいと思う

 ミニスカドレスを纏ったマヤは嬉しそうに先程の変身を振り返る。


「うんーケルベロスの言っていたようにー、こうした方が可愛いねー」
「あ、はい、気に入ってくれたようで…………ところで、その恰好は?」
「これー? これはねー私のー勝負服みたいなものー。もう随分着てないねー。本気で戦う事なんてないしー。可愛いでしょー?」
「可愛いな…………ギリギリだけど」
「ギリギリ?」


 いかん、年齢からしてその恰好がギリギリだという心の声が少しだけ漏れてしまった。いや、正直ギリギリというのもだいぶ配慮している。正直なところアウトだ。それもスリーアウトだ。攻守交替。


 そんな本音がばれてしまうとマヤが怒りかねないので慌てて誤魔化そうと知恵を働かせる。


「い、いや、その、……サイズがギリギリだなと。そんなにスカートが短いんじゃ」
「んー? スカート? 短い方が可愛いでしょー」
「ちょ!?」


 唐突にマヤはスカートの裾を持ち上げたのだ。もろに下着が見えているのだが、気にする様子もなく「んー、短すぎって訳じゃないよねー」とスカートの長さを気にしている。いや、もうスカートの意味がない。


「ちょ、ちょっとマヤ! 見えてるから!」
「見えてるー? 何がー?」
「下着だ! 下着!」
「下着……あーそうそう、パンツも変えたのー。可愛いでしょー」
「知るか!」


 パンツまであの一瞬で変えるなんて芸が細かいなぁ、なんて感想を言えばいいのか!?
 ちなみに今の彼女が履いているのは水色と白の縞々だ。縞パンだ。可愛い……のか? 分からないが、あまり見るのも悪いので顔は逸らす。目は……ごめん。男なんだ。チラチラと向けてしまうくらいは許してくれ。


 本人は気にしていないから許してくれるだろうが、なんというか罪悪感がある。


 それにしても、ここまで羞恥心がないとは。のんびりとした性格だとが思っていたけど、異性の目に対しても緩慢とは思いもしなかった…………。


 と思っていたのだが、これは彼女個人だけに言える事ではないと気付く。よく思い出すとマリアと風呂でばったり出会った時も、このように羞恥心がまるでなかった。そう、このように異性に対しての警戒心がなかったり、羞恥心を覚えなかったりするのは長生きしすぎの不老不死の特性なのだ。


 ……それなら堂々と見ても別にいいのか? むしろ目を逸らしたりする方が、性の対象として意識してると思われるかもしれない。


 だから俺は逸らしていた顔を彼女に向けた。……でも、あまり直視するのには抵抗があるので彼女の顔を見るようにする。いや、これまで培ってきた常識をそう簡単には捨てられないんですわ。


「知るかってー、そんなキツイ言い方しなくてもー」


 口を尖らせて抗議するマヤ。そんなに癇癪を起すような人でないとは思うが、一応機嫌を損ねないようにしておこう。


「いや、だって元々履いていたのなんて知らないし」
「あーそっかー、そうだよねー」


 なるほど、と頷く。
 うん、納得してくれたようで何よりだ。でも、そろそろスカートの裾から手を放さない? いつまで丸出しにしてるの? 目の毒……いや眼福だけども、理性が揺らぐというか、自制心のタガが外れそうというか……うん、ちょっと暴走しそうです。


 俺が暴走する前に、お腹を冷やすとでも言ってスカートから手を放して貰うか?


「えっとねー、元々履いてたのはーこっちー」
「…………」


 いつまでもスカートを下ろさない彼女に理性が煮え滾りそうになっていると、理性が一瞬で蒸発してしまい、煮え滾る理性がなくなり、無心となった。


 今の俺は無心の状態に至っていた。


 彼女は縞パンになる前のものに戻したのだ。縞パンの代わりにそこにあるパンツは紐だった。辛うじて隠すべきところは隠しているが、それ以外は紐。それも黒で華美な刺繍が施されていて、とてもアダルティ。先程の縞パンよりも目を引き付けられるものだが、無心となった原因はそれじゃない。


 それは一瞬だった。


 彼女は下着が変わる一瞬、下着がない状態が生じたのだ。
 そして、その状態を俺は見た。見てしまった………………こうして俺は暫く無心状態を維持する事ができたのだった。


 何を見たのかは詳細には語らないでおく。

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