死なない奴等の愚行
第48話 オッサン参上
首が刎ねられた後、それをキャッチするなどと普通では考えもしない事を実行しようと身構え、自分の首を斬られるのを待った。
だが、その時が訪れることはなかった。
まだ使っていない黒いドッキリボールが光り出したのだ。俺の魔力を勝手に吸っているようで、魔力が流出する感覚がある。
「この期に及んで悪足掻きか!」
剣を振り下ろしながら男は叫んだ。
いや、俺は何もしていない。それにこの黒いドッキリボールはどのような効果があるのか、俺が途中で説明を聞くのを打ち切ってしまって知らない。
黒いドッキリボールの光が一層強くなった時、俺を守るように魔法陣が現れる。
「っ!」
魔法陣が盾となり俺に斬ろうとしていた男の体が吹っ飛ばされた。
このドッキリボールは盾になるのか、と思ったがそうではなかった。あくまでこれは副次的な効果でしかない。魔法陣から一人の男が飛び出して来た。
「よくやったなケルベロス。俺の想像以上だぜ」
「オッサン!?」
魔法陣から現れたのはゼンだった。
「こんなものを用意していたなら一応教えといてくれよ博士……。いきなり転移の魔法陣が現れてビビったぜ」
黒のドッキリボールは、おそらくだが持っている者の緊急時に特定の人物の目の前に救助に来て貰う為の転移の魔法陣を出現させる事ができるらしい。こんな保険があったのならちゃんと教えていて欲しかった。いや、俺が打ち切っちゃったんだけど……。
「イモータルの団長、ゼンだな……」
「ん? そういうあんたは敵の司令官さんか?」
「……そうだ」
毅然としているが、オッサンが現れた事で明らかに動揺していた。構えていた剣も今は下ろしている。いくら警戒したところで無駄だとばかりに。
「意外と戦えるんだなー、って思ってたけど、まさか敵の司令官まで辿り着けていたなんてな……。うん、実戦投入してみて良かった良かった」
「…………」
自分のやった事は正しかった、と満足そうに笑うゼンを殴りたくなったが今は我慢だ。
既に毒煙は消え、周囲を取り囲む敵兵が一人増えている事に僅かながら驚いていた。だが、動揺とまではいかず、軽く首を傾げたり、訝しむような目を向けて来る程度だ。
ゼンは囲まれている事を気にする様子はなく、敵の司令官にまるで世間話をするかのような軽い口調で話し掛ける。
「なあ、司令官さんよ……今回はこれでお開きにするつもりはないか?」
「お開き? 兵を退けと?」
「そうそう。どうせいつものちょっかいだろ? そろそろ退くべきだと思うね、俺は」
「…………いや、まだだ。お前達の強さは知っているが、数は少ない。数で押せばまだまだ戦える」
どうやら微塵も逃げるつもりはないらしい。下ろしていた剣を再び構え、今にも斬りかかって来そうだ。
そんな司令官の反応にオッサンは溜息を吐く。
「そういうところだよなー、そっちの国は。前にも引き際じゃないかって言ったら、まだ戦えるって言うんだ。無駄に死ぬだけなのに、限りある命なんだからもうちょっと真剣に考えようや」
「我らの命は国のもの。ならば国の為に死ぬのは当然の事」
「…………はあ」
駄目だこりゃと肩を竦めるオッサンは収納魔法で剣を取り出す。それは何の変哲もない、魔道具でもないただの剣。
「それじゃあ、やるか」
「っ! はあああああっ!」
オッサンはその場から動かず、雄叫びを上げながら迫る司令官をジッと待った。そして頭に向けて振り下ろされる剣に対して全く反応しない。
「あ、ケルベロス。あとは俺がやるから」
「前を見ろ!」
馬鹿か! 言われなくてもオッサンに任せるつもりだったから、ちゃんと前を見ろ!
余所見をしていい状況ではない。
もはや剣を避けられる状態ではない。剣が頭を割るまであと僅か。もしかすると驚異的な回復力を利用して、あえて剣を受けるつもりなのだろうか。
オッサンの戦略をそのように想像していたが、それは違った。
「遅い」
「っ!」
俺は自分の目を疑った。身動き一つせず、敵の剣を受け入れたようにも見えたのだが、オッサンはいつの間にか司令官の背後に立っていたのだ。
「がはっ……」
敵司令官は血を吐きながら崩れ落ちた。見れば脇腹から大量の血が流れ出ている。背後に回ったのも、斬ったのもまるで見えなかった。魔法を使ったのか……いや、そのようには見えなかった。
これが何百年という時間を生きた不死身の強さなのだろうか。
そしてオッサンはそれだけで終わらず、周囲の敵を次々と斬り捨てていった。
だが、その時が訪れることはなかった。
まだ使っていない黒いドッキリボールが光り出したのだ。俺の魔力を勝手に吸っているようで、魔力が流出する感覚がある。
「この期に及んで悪足掻きか!」
剣を振り下ろしながら男は叫んだ。
いや、俺は何もしていない。それにこの黒いドッキリボールはどのような効果があるのか、俺が途中で説明を聞くのを打ち切ってしまって知らない。
黒いドッキリボールの光が一層強くなった時、俺を守るように魔法陣が現れる。
「っ!」
魔法陣が盾となり俺に斬ろうとしていた男の体が吹っ飛ばされた。
このドッキリボールは盾になるのか、と思ったがそうではなかった。あくまでこれは副次的な効果でしかない。魔法陣から一人の男が飛び出して来た。
「よくやったなケルベロス。俺の想像以上だぜ」
「オッサン!?」
魔法陣から現れたのはゼンだった。
「こんなものを用意していたなら一応教えといてくれよ博士……。いきなり転移の魔法陣が現れてビビったぜ」
黒のドッキリボールは、おそらくだが持っている者の緊急時に特定の人物の目の前に救助に来て貰う為の転移の魔法陣を出現させる事ができるらしい。こんな保険があったのならちゃんと教えていて欲しかった。いや、俺が打ち切っちゃったんだけど……。
「イモータルの団長、ゼンだな……」
「ん? そういうあんたは敵の司令官さんか?」
「……そうだ」
毅然としているが、オッサンが現れた事で明らかに動揺していた。構えていた剣も今は下ろしている。いくら警戒したところで無駄だとばかりに。
「意外と戦えるんだなー、って思ってたけど、まさか敵の司令官まで辿り着けていたなんてな……。うん、実戦投入してみて良かった良かった」
「…………」
自分のやった事は正しかった、と満足そうに笑うゼンを殴りたくなったが今は我慢だ。
既に毒煙は消え、周囲を取り囲む敵兵が一人増えている事に僅かながら驚いていた。だが、動揺とまではいかず、軽く首を傾げたり、訝しむような目を向けて来る程度だ。
ゼンは囲まれている事を気にする様子はなく、敵の司令官にまるで世間話をするかのような軽い口調で話し掛ける。
「なあ、司令官さんよ……今回はこれでお開きにするつもりはないか?」
「お開き? 兵を退けと?」
「そうそう。どうせいつものちょっかいだろ? そろそろ退くべきだと思うね、俺は」
「…………いや、まだだ。お前達の強さは知っているが、数は少ない。数で押せばまだまだ戦える」
どうやら微塵も逃げるつもりはないらしい。下ろしていた剣を再び構え、今にも斬りかかって来そうだ。
そんな司令官の反応にオッサンは溜息を吐く。
「そういうところだよなー、そっちの国は。前にも引き際じゃないかって言ったら、まだ戦えるって言うんだ。無駄に死ぬだけなのに、限りある命なんだからもうちょっと真剣に考えようや」
「我らの命は国のもの。ならば国の為に死ぬのは当然の事」
「…………はあ」
駄目だこりゃと肩を竦めるオッサンは収納魔法で剣を取り出す。それは何の変哲もない、魔道具でもないただの剣。
「それじゃあ、やるか」
「っ! はあああああっ!」
オッサンはその場から動かず、雄叫びを上げながら迫る司令官をジッと待った。そして頭に向けて振り下ろされる剣に対して全く反応しない。
「あ、ケルベロス。あとは俺がやるから」
「前を見ろ!」
馬鹿か! 言われなくてもオッサンに任せるつもりだったから、ちゃんと前を見ろ!
余所見をしていい状況ではない。
もはや剣を避けられる状態ではない。剣が頭を割るまであと僅か。もしかすると驚異的な回復力を利用して、あえて剣を受けるつもりなのだろうか。
オッサンの戦略をそのように想像していたが、それは違った。
「遅い」
「っ!」
俺は自分の目を疑った。身動き一つせず、敵の剣を受け入れたようにも見えたのだが、オッサンはいつの間にか司令官の背後に立っていたのだ。
「がはっ……」
敵司令官は血を吐きながら崩れ落ちた。見れば脇腹から大量の血が流れ出ている。背後に回ったのも、斬ったのもまるで見えなかった。魔法を使ったのか……いや、そのようには見えなかった。
これが何百年という時間を生きた不死身の強さなのだろうか。
そしてオッサンはそれだけで終わらず、周囲の敵を次々と斬り捨てていった。
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