死なない奴等の愚行

山口五日

第43話 準備完了だけど不安がいっぱいです

 魔道具の説明を博士は引き続き行っていく。
 パペットくんのように、まともなものであればいいんだが……。


「さて、そしてタスキ掛けした色の異なるボールだが、魔力を込めて敵に投げて使うものだ。色によって効果が違う。総じて名前をドッキリボールという。まず赤が爆発する」
「爆発!?」
「そうだ。爆発くらいで驚いちゃいけない。もっと凄いものがあるぞ。例えば青だが、これは一瞬で周囲を凍らせることができる。紫は毒の煙幕を発生させる。吸えば全身が麻痺して、やがて死に至る。茶色は半径五メートル、深さ十メートルの落とし穴を作る。他には」
「待った! なんか色々物騒だけど大丈夫だよな? 魔力込めて、すぐ爆発したりしないよな?」


 爆発したり、凍ったり、毒の煙が発生したりと物騒な紹介をされて不安になった。そんなものを体に巻いていて大丈夫なのだろうか。何かの弾みで誤作動を起こせばひとたまりもない。


 博士は俺の質問に対して鼻で笑う。


「安心しなさい。ちゃんと考えている。魔力を込めてから効果が発揮されるまで猶予を設けている」
「時間?」
「ああ。魔力を込めてから発動するまでに時間が掛かるようになっている。これで問題ないはずだ」
「……時間ってどれくらい?」
「一秒」
「短いわっ!」


 何が問題ないだ! 胸を張ってんじゃねえ! あと自信に満ち溢れた顔をするな!
 こいつ一秒で充分だと思っているのか? そんな短いんじゃ、魔力を込めるのと同時に投げられたとしても、自分の身が無事かどうか怪しい。


「もっと長く時間を設定しろよ!」
「それ以上だと込めた魔力が外に放出されて、効果が発揮されないんだ」
「じゃあ完成させるな! 一秒じゃ発動した時に投げた当人も巻き込まれるだろ!」
「大丈夫だ。不死身なのだから、回復する」
「不死身だから大丈夫的な思考を一度改めてくれ!」


 一般人が使う事を想定して作ってくれよ……。


 この魔道具、ドッキリボールは駄目だ。赤のドッキリボールを使えば、下手をすると目の前で爆発してしまうし、青を投げれば自分が凍ってしまう。


 ドッキリボールは絶対に使用しない。敵と戦うよりも、自分の身が危険だ。


「ドッキリボールはいいから。鉈の魔道具の事を詳しく説明してくれ」
「んん? まだドッキリボールは黒と銀が残ってるぞ?」
「こんな危ないもの使ってたまるか! いいから鉈と筒を!」


 俺がそう言うと、博士は渋々だが鉈の魔道具の説明を始める。


「これはスラッシュくん。魔力を込める事で、風魔法が発動して斬れ味が良くなる」
「……それだけ?」
「それだけではないぞ!」


 だよなー。
 博士の目が何かを言いたそうに訴えていたので、それだけでない事を薄々感じた。正直、斬れ味が良くなるぐらいで留めて欲しかった。きっと機能を追加した事でリスクがあるに違いない。


「この鉈は斬れ味が良くなるだけではないんだ! 風魔法によって自身を加速させる! 複雑な動きはできないが、直線的な移動であれば敵は動きを捉える事はできないだろう!」


 と、それだけなら良いが、それだけで終わらないのが博士だ。


「加速が制御できるかは、ケルベロス君しだいだ。ちなみにユーマ君も使ったが、見事に加速を制御できずに岩にぶつかって木っ端微塵に」
「返却します!」


 博士、いい加減にしろよ! どれだけ加速するんだよ、ちゃんと使えるものを作ってくれ!


 俺は腰の鉈を外して返そうとするが、再び博士に腕を掴まれる。


「いいから! 持っておきなさい! 大丈夫! 大丈夫だから!」
「死なないから大丈夫って言うんだろ! それ大丈夫じゃないからな!」


 こんな物騒なものは外して……くそっ! ジジイ、意外と力があるな! 掴まれた腕が動かせない! なら、早速パペットくんで身体能力を高めてやる。


 そう思った時だった。敵の様子を見張っていた兵から張り詰めた声が響き渡る。


「敵が動いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 その途端、緊張が走り慌ただしくなる。
 いよいよ戦いが始まるのだ。さすがに博士と押し問答をしている場合ではない。ここは俺が折れて鉈は持って行こう……魔道具の力は使わないようにすればいいんだ。


 俺は初陣の緊張からか、ガンを握る手の力を強めていた。

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