死なない奴等の愚行
第35話 自分で散らかしたものは自分で片づけます
サラの怒りの形相を見て逃げた方がいいか、と一瞬思ったが相手の方が行動は早かった。
「お前、何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「げふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
さすが不死身の傭兵団の一員である。一見非戦闘員に見えるサラから繰り出された跳び蹴りを、まともに受けてしまい体を壁に打ち付けた。さすがに宿屋の倒壊を引き起こすほどではなかったが、少し壁が破損する。
周囲は「おお、良い蹴りが入ったな」「あの蹴りは中々お目に掛かれねえぜ」「いったい何をしたんだ新入り?」「サラの下着を盗んだ」「あー、それだ」などと俺の心配は一切してくれない。そりゃ、不死身だから死ぬ事はないけどさ! それと不思議じゃないってどういう事だゴラァ!
一部の団員に怒りを覚えたが、それよりも目の前のサラだ。
拳を握って構える彼女は俺に追撃を仕掛けるつもりらしい。痛いのは嫌なので、追撃を回避する為に彼女の怒りの原因を突き止めなければ。
「ど、どうしてそんなに怒ってんだ? 俺、何かしたか?」
全然覚えがないが、彼女がここまで怒るという事は何かしてしまったんだろう。
すると肩で息をしながらサラは怒りの原因を話し始めた。
「さっき衛兵が来て苦情を言われたんだ。イモータルの団員と思われる人が血だらけで歩いている姿が目撃されて、ゾンビが街の中を歩いているって話が流れて住民が酷く怯えているとな。戦場での活躍は知っておりますが、もう少し配慮して貰えませんかって、それだけ言って帰った。だがな、言葉には裏があるんだ。本当に言いたかったのは、何度目ですかいい加減にして下さい……だ。私は何度も謝ってるんだよ……」
それは申し訳ない事をした。彼女の苦労は痛いほど分かるので、正直ダンのせいでもあるが謝ろうとするのだが、まだ話は終わりじゃなかった。
「だがな、ゾンビ騒ぎなんてどうでもいいくらいの事が起きたんだよ」
「え?」
ゾンビ騒ぎがどうでもよくなる事? それが俺に関係しているのか? だが、血だらけで街を歩いた以外で何かした覚えは全くない。強いて言うならフェルか。フェルの裸を見た事を怒っているのか? だとしたら不可抗力だし、断固抗議したいところだ。
だが、そうではなかった。
「街の近くの森で凶暴なモンスターが現れたらしい。普段はもっと街から離れたところに生息するモンスターらしいんだが、何故か街の近辺に現れた。モンスターに警戒しながら調べてみると、森のあちこちに人間のものと思われる肉片が散らばっていたという話だ。それも複数人と思われるほどの大量のな。そのモンスター、人の血の匂いに引かれる習性があるらしくて、原因はそれだろうと……いったい誰の肉片なんだろうな?」
「…………」
俺を咎めるようにジッと見るサラの目から逃れるように顔を逸らした。
「誰の、肉片なんだろうな?」
顔を息の掛かるほどの距離まで近付けてジッと俺を見続けるサラ。
サラは美人でこんな至近距離に顔があってドキドキする……なんて事はない。今は眼鏡の奥にある冷たく、暗く、躊躇いもなく人を殺せそうな目が恐ろしくてドキドキしている。ドキドキし過ぎて吐きそうだ。
俺はなんとか声を絞り出す。
「……ダ、ダンが、そのままで良いって言った」
せめてダンに非がある事をサラに告げるが、彼女の様子は変わりなかった。
「散らかしたのはケルベロスだろう……散らかしたものは責任持って片付けろ!」
まるで子供に遊んだものは自分で片付けなさいと言っているようだが、そこに母親のような慈愛はない。あるのは責任取って片付けないと殺すぞという殺意しかなかった。
このままではマズイと思い、誰か助けてくれないかと食堂を見渡すが誰も目を合わせてくれない。わざとらしく「なんか外で飲みたくなったなー」「あー、そういえば、俺良い店を見つけたんだー」などと会話して出て行ってしまう。
薄情者め! でも、まだ俺にはユーマが……ユーマ?
先程まで居たはずのテーブルにユーマの姿はなかった。食堂をくまなく見渡すが、奴の姿は何処にもない。
……あいつ、後で泣かす。
サラは顔を離すが怒りは収まってはおらず、相変わらず俺に殺意に満ちた目を向けたままだ。
「ケルベロスにはこれからイモータルの傭兵としての仕事をして貰う」
「え、で、でも俺は暫く仕事は」
「あん?」
「いえ、何でもないです」
イモータルの責任で不死身になったのだから暫くは仕事しなくてもいい、その約束はなかった事にされた。
「お前、何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「げふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
さすが不死身の傭兵団の一員である。一見非戦闘員に見えるサラから繰り出された跳び蹴りを、まともに受けてしまい体を壁に打ち付けた。さすがに宿屋の倒壊を引き起こすほどではなかったが、少し壁が破損する。
周囲は「おお、良い蹴りが入ったな」「あの蹴りは中々お目に掛かれねえぜ」「いったい何をしたんだ新入り?」「サラの下着を盗んだ」「あー、それだ」などと俺の心配は一切してくれない。そりゃ、不死身だから死ぬ事はないけどさ! それと不思議じゃないってどういう事だゴラァ!
一部の団員に怒りを覚えたが、それよりも目の前のサラだ。
拳を握って構える彼女は俺に追撃を仕掛けるつもりらしい。痛いのは嫌なので、追撃を回避する為に彼女の怒りの原因を突き止めなければ。
「ど、どうしてそんなに怒ってんだ? 俺、何かしたか?」
全然覚えがないが、彼女がここまで怒るという事は何かしてしまったんだろう。
すると肩で息をしながらサラは怒りの原因を話し始めた。
「さっき衛兵が来て苦情を言われたんだ。イモータルの団員と思われる人が血だらけで歩いている姿が目撃されて、ゾンビが街の中を歩いているって話が流れて住民が酷く怯えているとな。戦場での活躍は知っておりますが、もう少し配慮して貰えませんかって、それだけ言って帰った。だがな、言葉には裏があるんだ。本当に言いたかったのは、何度目ですかいい加減にして下さい……だ。私は何度も謝ってるんだよ……」
それは申し訳ない事をした。彼女の苦労は痛いほど分かるので、正直ダンのせいでもあるが謝ろうとするのだが、まだ話は終わりじゃなかった。
「だがな、ゾンビ騒ぎなんてどうでもいいくらいの事が起きたんだよ」
「え?」
ゾンビ騒ぎがどうでもよくなる事? それが俺に関係しているのか? だが、血だらけで街を歩いた以外で何かした覚えは全くない。強いて言うならフェルか。フェルの裸を見た事を怒っているのか? だとしたら不可抗力だし、断固抗議したいところだ。
だが、そうではなかった。
「街の近くの森で凶暴なモンスターが現れたらしい。普段はもっと街から離れたところに生息するモンスターらしいんだが、何故か街の近辺に現れた。モンスターに警戒しながら調べてみると、森のあちこちに人間のものと思われる肉片が散らばっていたという話だ。それも複数人と思われるほどの大量のな。そのモンスター、人の血の匂いに引かれる習性があるらしくて、原因はそれだろうと……いったい誰の肉片なんだろうな?」
「…………」
俺を咎めるようにジッと見るサラの目から逃れるように顔を逸らした。
「誰の、肉片なんだろうな?」
顔を息の掛かるほどの距離まで近付けてジッと俺を見続けるサラ。
サラは美人でこんな至近距離に顔があってドキドキする……なんて事はない。今は眼鏡の奥にある冷たく、暗く、躊躇いもなく人を殺せそうな目が恐ろしくてドキドキしている。ドキドキし過ぎて吐きそうだ。
俺はなんとか声を絞り出す。
「……ダ、ダンが、そのままで良いって言った」
せめてダンに非がある事をサラに告げるが、彼女の様子は変わりなかった。
「散らかしたのはケルベロスだろう……散らかしたものは責任持って片付けろ!」
まるで子供に遊んだものは自分で片付けなさいと言っているようだが、そこに母親のような慈愛はない。あるのは責任取って片付けないと殺すぞという殺意しかなかった。
このままではマズイと思い、誰か助けてくれないかと食堂を見渡すが誰も目を合わせてくれない。わざとらしく「なんか外で飲みたくなったなー」「あー、そういえば、俺良い店を見つけたんだー」などと会話して出て行ってしまう。
薄情者め! でも、まだ俺にはユーマが……ユーマ?
先程まで居たはずのテーブルにユーマの姿はなかった。食堂をくまなく見渡すが、奴の姿は何処にもない。
……あいつ、後で泣かす。
サラは顔を離すが怒りは収まってはおらず、相変わらず俺に殺意に満ちた目を向けたままだ。
「ケルベロスにはこれからイモータルの傭兵としての仕事をして貰う」
「え、で、でも俺は暫く仕事は」
「あん?」
「いえ、何でもないです」
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