死なない奴等の愚行

山口五日

第19話 マヤが現れた。状況が悪化した。

「おや? マヤくん、ではないか。君もケルベロスくんを?」
「ええー。記憶喪失を治せるような魔法が、幾つか思い当たるものがあるのでー。あ、申し遅れました。私、魔法戦闘担当のマヤと申しま……あら? ケルベロスさん、どうしました? 顔色が悪いですよ?」


 彼女が、マヤなのか……。


 記憶を取り戻せるかもしれないが、暴走すると街を一つが吹っ飛びかねない危険人物マヤ。そして博士。


 揃っちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 混ぜなくても危険そうなのが揃っちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


 だ、大丈夫なのか? 最悪俺は死なないから大丈夫だ。でも、サーザンがマズいんじゃないか? 敵国に勝っても負けなくても滅ぶんじゃない? お、俺、知らないよ。逃げたくても逃げられないもん。こいつらを放置したイモータルのせい、ひいては団長のオッサンのせいだ。俺は知らない、どうにでもなれ。


 俺は流れに任せる事にした。もう知らん。


 だが、博士はハンドくんや言動でいかにもマッドサイエンティストという感じがして危険だと分かるが、マヤからはあまり危険という印象がない。それでも嫌な予感がビンビンするけど。


 博士は興味深そうにマヤに記憶喪失を治す魔法について尋ねている。


「ほう、記憶喪失を治す魔法というものがあるのか?」
「記憶喪失を治す、という直接的なものではないんですがねー。記憶喪失となった原因が呪いや、精神的なものであるのなら、解呪魔法や心癒魔法でどうにかなると思ったんですが…………どうやらそれらが原因ではないようですねー。まあ、他にも方法はあるますのでーやってみましょうかー」
「他の方法というと?」
「古来からの伝統な方法ですー。強い衝撃を与えて治す、ショック療法をー」
「ほおっ! ワタシも同じ事を考えていたんだ。魔道具も案外叩くと治る事が多いからな。同じように物理的なショックを与える事で治るのではないかと思っていたのだ!」
「そうなんですかー? じゃあ、どういった衝撃が効果的かを少し考えてみましょうか」
「そうだな、ワタシは叩いて治すのが効果的ではないかと思い、これを用意した」
「それはー、金槌ですかー?」
「見た目はな! 勿論、魔道具だ! その名もドンドン君! これは魔力によって対象に与える衝撃を増す事ができるのだ。見ておれ(ドゴン! ミシミシッ、ガラガラガラッ!!)…………どうだ!」
「おおー。軽く叩いただけなのにー、壁が崩れましたねー」
「そうだろう。これで頭を叩けば、おそらく戻るだろうと私は考えている。マヤくんは?」
「私はですねー。窒息魔法を使おうかとー」
「窒息魔法? ふむ……悪いが、少々与える衝撃が弱過ぎではないか?」
「はいー、博士のおっしゃる通りですねー。でも、博士の魔道具で充分ショックは与えられると思いますのでー。私は別の方法を取ろうかとー。ほらー、人って死に掛けると走馬燈を見るじゃないですかー。走馬燈が見れれば、これまでの自分の生い立ちが見られて記憶を取り戻すんじゃないかと。意識を失いそうになったところで魔法を解除。走馬燈が見えていなければ再び窒息魔法を。この方法であれば、意識を取り戻す時間や、傷が治るのを待たずに何度もできますよ」
「おおっ! 確かに、それなら無駄な時間を省けるなっ!」
「はいー。まあ、確かに衝撃は弱いかもしれないのでー、適度にドンドンくんを使いましょうかー」


 ……流れに任せようと思ってたけど、目の前で繰り広げられているのは拷問の打ち合わせだろうか? もしくは、こんな事をされたくなければ記憶を取り戻せという強迫なんだろうか。


 どちらにせよ、こいつらはヤバい。
 ジジイもヤバいが、マヤもヤバい。


 サラはイモータルの中でも大人しい部類と言っていたが、彼女の言った大人しいというのは容疑者の人柄について訊かれた時の発言のようなものだろう。


 内面はかなり危険だ、こいつら。

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