死なない奴等の愚行

山口五日

第13話 豪快な傭兵ユイカとダン

 ひとしきり笑うと女は再度俺に杯を差し出して来たので仕方なく受け取り、俺を含めて三人で乾杯をする。飲んでみると、確かに賞品にするだけの味だった。


 記憶を失う前の自分も酒を嗜んでいたのか、酒を美味いと感じる事ができる。


「どうやら酒が飲めない訳じゃないみたいだな。安心したぜ。ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。私は副団長をやってるユイカだ。戦場での仕事だったら、だいたい私が出張るからね。一緒に仕事をする機会が多いと思うから、よろしくな!」
「俺はダンだ。新人教育担当だ。見た感じ、お前はモンスターとかと戦ったりとか荒事とは縁のない生活をしてたっぽいな。まあ安心しろ。俺が鍛えれば三回死に瀕して、何万もの軍を壊滅させるくらいには成長するからよ」


 百回死に瀕したとしても、敵軍を壊滅させられる気はまるでしない。
 暫く俺はイモータルの仕事には関わらないと思うけど、いずれ戦場で戦う事になるのかと思うと今から憂鬱で仕方ない。できる限り危ない目には遭いたくないものだ。


 そんな俺の不安を払拭するかのように、二人は豪快に笑いながら話し掛けて来る。


「ダンに鍛えて貰えば大丈夫だ。イモータルの中には農家や商人だった奴も多いしな。ダンに教えて貰った訳じゃないけど、料理担当のクレアだって料理人だったのに今や一人で悪魔を倒せるほどだ」


 そういえばドラゴンの解体包丁で悪魔と戦ったって言ってたな……料理担当のはずなのに。


「クレアは俺より300歳近く年上だからな。そんだけ生きていれば、いくらでも鍛えられるだろ。だが、俺の訓練を受ければ一年で立派に戦えるようにしてやるぞ!」


 やっぱり見た目から年齢は判断できない。
 ダンの見た目はオッサンよりも少し年上……四十代くらいに見える。そしてクレアは俺よりも少し年上、おそらく二十代前半といったところだろう。だが、クレアの方がダンよりも三百歳も上…………うーん、俺も今はその仲間入りを果たしているはずなんだけど実感が湧かない。


「ユイカ、ダン、よろしく。ユイカは副団長って呼んだ方がいいか?」
「ユイカでいいよ。傭兵団の頭をやっていたからというだけで副団長をやらされているだけだしね。もし、しっかりと副団長を決めるならこっちのダンの方が向いてる。魔法抜きで戦ったら私は勝てないよ」
「そうなのか?」


 ダンは酒を飲むのを一度やめて目を瞑り唸る。


「確かに魔法は使えないが、戦闘となれば俺は強い。純粋な殺し合いともなればイモータルの中でも強いかもしれん。だが、不死身としての戦い方となれば不死身歴の長い奴等の方が上手だ。俺はまだ百年ちょっとの若造だし、未だに戦い方は普通の人間の戦い方だ」


 そこまで話すと一息吐き、酒を一口飲む。それに合わせて俺もまだ杯に残っている酒を飲み干した。


「あー、酒の席で真面目な話をするのは嫌だが、簡単に説明するぞ。戦いではな、死を覚悟した捨て身の攻撃っていうのが一番恐ろしいんだ。不死身の俺達はそれが可能だが、不死身歴の長さで再生速度が全然違う。例えば俺が爆弾を抱えて木っ端微塵になったとする。すると完全復活するのに五分は掛かるだろうな」
「五分でも復活するなら充分だと思うけどな……」
「復活中は無防備だ。その間に封印魔法を掛けられたらマズい。だが、団長なら木っ端微塵になっても一瞬で再生する。ユイカも数秒で復活できるだろ?」
「そうだね。まあ、数秒でも無防備になるから、足を失うような怪我は負わないようにはしてるよ。槍で突き刺されても、そのまま前進して相手の首を撥ねるくらいはするけどね」


 それは相手からしてはかなりの恐怖だろう。


 なんとなく荒々しい戦い方をするユイカが想像できてしまったので、冗談半分で俺は思った事を口にする。


「そんな戦い方ができるなら、自分の首が撥ねられても相手に噛みつきそうだな」
「さすがに首だけじゃ私は戦えねえよ! というか、それは爺さんの専売特許だな」
「首だけで戦えるのは、いくらイモータルでもあの人だけだな」
「はははっ、さすがに無理だよなー…………え?」


 居るの? 首だけで戦う人?

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