死なない奴等の愚行

山口五日

第4話 ようこそイモータルへ!

「俺が不死身ってどういう事だよ」
「あー、お前意識を失う前の事を覚えてるか?」
「ああ、大男に掴まれて投げられた」


 そうだ。まるで夢のような事だったが、大男に鷲掴みにされて投げられて……意識を失った。おそらく顔面から地面に突撃したのだと思う。


 俺がしっかりと覚えている事を確認すると、オッサンは渋い顔をする。


「……ちっ、覚えてやがったか。忘れてたら助けてやったで済んだのによ」
「おい、何か言ったか?」
「いや、何も。実はその投げた奴がうちの団員なんだよ。イモータル名物、人間投擲って言うんだが、団員を敵の中へ投げ込んでひたすら暴れるというものでな。団員が順番待ちで並んでいるところに、お前が列の先頭に突然現れたもんだから間違えて投げちまったみたいでさ…………慌てて回収したけど死にかけていたから不死身にしたんだ。悪いな」
「…………」
「ん? どうした? てっきり、ふざけんな! って怒鳴るのかと思ったんだが」


 いや、確かに「ふざけんな!」と叫びたかったけど情報が渋滞しているから整理させて欲しい。人間投擲? 突然列の先頭に現れた? 間違えて投げた? 死にかけてたから不死身にした? …………ふむ。


「不死身になった経緯は理解した。問題ない」
「おお、普通だったら怒るなりするところだと思うが、意外と器が大きい奴みたいだな」
「もう考える事を諦めたような表情をしているようにも見えますけど…………話を進めてしまってもいいんですか?」


 いい。人間投擲とかツッコミたい事があるけど、話が進まなそうだし。


 頷いて話の続きを促すと、俺の反応があまりなかったからか団長の口調が軽くなる。


「俺の力を使えれば誰でも不死身になれるんだけどよ、詳しく言うと不死を与える力と不老を与える力があるんだ。この二つの力を与える事で不老不死になる。ただ、不老の力は俺の近くに居ないと働かないんだよ、面倒臭い事に。だから俺から離れると不死の力だけが働いて、老いて体が朽ちたとしても死ねないなんていう悲惨な事態になる」
「ですので不死身になった人はイモータルに入団して貰っています」


 体が朽ちても死ねないのは辛いな……。
 だけど傭兵としてやっていけるだろうか。そもそも俺がこれまで何をしていたのかも覚えていないのに……。あ、そうだ、自分が記憶喪失だという事を話しておいた方がいいか。


「その、言ってなかったんだけど、俺って記憶喪失みたいで何も覚えてないみたいなんだ」
「「記憶喪失?」」


 二人は揃って驚きの声を上げる。


「じゃあ、自分の名前とか、あの場に突然現れた理由も覚えていないのか?」
「記憶喪失だと私の魔法では治せませんね……。不死の力でも……難しいでしょう。今、戻っていないという事は記憶喪失の状態が正常な状態と判断されているのだと思われます」
「記憶喪失の奴を不死身にしたのは何百年も生きていて初めてだな。誰か治せる奴居たかな……」
「記憶喪失が治せる奴が居るのか?」
「治せる可能性があるってだけだ。期待はするなよ……治せる可能性があるのはマヤと博士か。サラに会わせた後に行ってみるか」


 どうやら記憶が戻る可能性があるようだ。突然投げられるは、不死身になるはで驚きの連発だったが、嬉しい情報を得る事ができた。


「で、とりあえずイモータルに入るって事でいいか? こっちの不手際で不死身にしちまったんだから、暫くは働かなくていいからよ」
「ああ……いくら老いても死ねないなんていうのは嫌だからな」


 俺がイモータルへの入団の意思を告げると、オッサンはニカッと笑い手を差し出す。


「よし! それじゃあ、よろしくな! 俺はゼン、一応イモータルの団長だ!」
「ふふっ、じゃあ私も改めて自己紹介を。イモータルの治療担当のマリアです。よろしくね」
「俺は……あーよろしく」


 自己紹介しようにも名前すら覚えていないので、軽く頭を下げながら差し出された手を握る。
 なんとなくそんな気がしたが、やっぱりオッサンが団長だったか。
 不死の力と不老の力を与えるゼンの率いる不死身の傭兵団イモータル。そんなところでやっていけるか不安になったが、まあ頑張るしかないか。


「それでオッサン、俺はこれからどうしたらいい?」
「団長って自己紹介したのにオッサン呼びかよ。まあ、いいや。とりあえずイモータルの事を知って貰うのに、新人に説明するのが上手い奴のところに連れて行く」
「……団長」
「ん? どうしたマリア? ……あー、その前に紹介する奴が居る」


 紹介する奴? 誰だ?


 オッサンとマリアさんの視線は俺の背後にある窓へと向けられていた。

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