捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第37話 ワンワン・ナエ・レイラvs謎のゴーレム

 突然目の前に降って来た球状の岩石、そしてその上に座る人型のゴーレム。そのゴーレムは成人男性ほどの大きさで両腕は筒状になっている。


 特徴的な両腕をしているが、この場に居る誰もがその魔物を知らなかった。年長者のレイラでさえその魔物に見覚えがなく警戒する。


「なんだぜ、あれは……。レイラは知ってるか?」


「ふむ……儂も知らぬ魔物じゃ。可能性の一つじゃが、ユグドラシルゴーレムによって作られた魔物なのかもしれん」


「作られっ、おいおいジェノスはそんな事は一言も言ってなかったぜ?」


「読んだ本に書かれてなかったのではないかのう。もしかすると当時は持っていなかった力なのかもしれぬ。長い年月を経て何も変化がない方が難しいものじゃ、儂のスキルのようにな。それに目の前の魔物だけではない。向こうでも何やら厄介なものを相手にしているようじゃ」


 レイラは目を細めてユグドラシルゴーレムの方を見る。岩の巨体の上でドラゴンゴーレムの二体との戦闘が繰り広げられていた。これは偶然現れたというわけではないだろう。


 ユグドラシルゴーレムを守るように現れた魔物に多くの者が動揺していた。
 この場に居るのは魔法による支援が目的としたグループで、魔法の連続使用ができない分、前衛に時間を稼いで貰うのが基本だ。だが、今ここには前衛役となる者はいない。


 しかし、岩石の上に座っていた魔物は動揺するこちらに構う事なく筒状の腕を向ける。


 攻撃の動作だと感じ取り、背を向けて逃げようとする者が何人もいた。それは冷静さが欠けた為に取ってしまった悪手だ。攻撃を当ててくださいと言っているようなもので、魔物は遠慮なくとその一人に腕を向ける。


 だが、中には冷静に自分のできる最善手を取る者もいた。


「《ミソロジィ・シールド》!」


 筒から視認するのが困難な速度で何かが放たれた。そして逃げる者の体を容易く貫く……事はなかった。ワンワンの魔法によって張られた光の膜によって防いだのだ。


「ワンワン、よくやったのじゃ!」


「わうっ、なんか危ない気がしたんだよ!」


「この調子で危ないと思ったら魔法を使うんだぜ!」


 今日ばかりはワンワンには好きに魔法を使うように言っていた。自分の身を守るだけではなく、誰かを助ける為に思う存分好きに魔法を使うようにと。ワンワンの常識外の力を衆目に晒す事になるが、この戦いに参加する以上は出し惜しみしてはいられない。


「あ、転んでる人がいる《ミソロジィ・キュア》!」


「ワンワン! 転んだくらい唾つけときゃ治るぜ!」


「わうぅ、そんな事したら汚いよぉ」


「いいのじゃ! ワンワン、好きに魔法を使えばよい!」


 レイラはナエの言葉を否定するように言う。少々ワンワンの魔法を使うハードルが低いようだが、今は注意してワンワンを委縮させない方がいいと判断したのだ。


 微かに何かを放ったくらいしか分からないほどに速い謎の魔物の攻撃。それだけでも厄介だが、他にも何か攻撃手段があるかもしれない。そう考えると、少しの迷いが命取りになりかねない。だからワンワンには、好きに魔法を使うように言う。


 そしてレイラはゲルニドからこの場を任されている事もあって、今一度統制を図ろうと【蛮勇】のスキルを強く意識しながら声を上げる。


「皆、慌てるでない! あの魔物の攻撃は完璧に防いでおる! この光の膜の中におれば傷一つ負う事がないじゃろう! 儂らは魔法に集中して、あの魔物に向かってぶつければいいのじゃ! 何も恐れる必要はない! 逃げる必要もない! ただ魔法をあれにぶちかますのじゃ!」


 【蛮勇】の効果もあって、レイラの言葉に逃げようとしていた者は一転して強い戦意を魔物に向ける。そして、すぐに攻撃魔法を謎の魔物に向けて放つ。


 普通の魔物であればひとたまりもない魔法の弾幕。だが、魔物は両腕を前に構えると再び何かを放ち、迫り来る魔法を相殺してしまうのだった。


 すると魔法を相殺した直後、地面にパラパラと無数の小石が落ちる。それが筒から放たれたものの正体だ。石の礫を筒から高速で射出する攻撃。レイラはそれを見てすぐに理解するが、タネが分かったところでどうする事もできない。


 目で捉え切れないほどの速さであれば、たとえ石ころであっても恐ろしい威力になる。一般的に用いられる土や火の壁を出す魔法ではまず防げない。


「ワンワン、このまま《ミソロジィ・シールド》を張り続けたられるかのう? ナエに魔力を渡して大変じゃと思うが……」


「うんっ、大丈夫だよ! まだまだ頑張れるよっ!」


「そうか……。ナエ、ユグドラシルゴーレムの拘束はまだもちそうかのう?」


「ああ……どうしてか分からないが、あいつ動かないんだ! だから拘束はまったく緩んでないぜ!」


「そうか……よし、分かったのじゃ。暫くワンワンからの魔力供給はできないから、いざという時はすまぬが自前の魔力でなんとかしてくれ。ただし無理はせぬようにな」


 レイラは自身のスキルを幾つか使ってステータスを高めていく。


 今も数々の魔法を魔物に向けて放つが、防がれてしまいダメージは皆無。このままだとこちらの魔力が尽きてしまう。最悪ナエの使える最も威力のある《ヘルフレア》を使う。だが、あれは最後の手段だ。


 あの魔法は最大出力で放てば、遠くからでも見えるような黒い火柱が空まで届く勢いで発生する。聖域で使った時に遠くから目撃した者がいるに違いない。ナエが聖域を燃やした原因ではないかと疑われてしまう恐れがあるとレイラは考えていた。


 だからレイラはナエの魔法は最後の手段として残し、自身が謎の魔物を相手する事にした。

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