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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第34話 ツルハシとハンマー

「目印はバッチリじゃ! あとは頼むぞ!」


 コアがあると思われる箇所にドラゴンキラーを刺すと、待機していたゲルニド達はそれを確認して動きだす。


「よし、目印をつけ終えたようだ。行くぞっ!」


「「「おおおおっ!」」」」


 【蛮勇】で士気がこれ以上ないほどに高まっている中、ゲルニドに号令によって一斉に走り出す。ユグドラシルゴーレムに対して微塵も恐れを抱いている様子はない。


 また、一部の者は今回採掘作業で使われるツルハシを装備している。一点に攻撃力が集中しやすいようにとジェノスがゲルニドに言って用意したものだ。これなら攻撃力の低さを多少は補う事ができる。また、岩の体に対してこれほど適した武器はないだろう。


「《ゲランタル》! 《ゲランダル》! 《ゲランダル》!」


 ナエはその場に留まり、ユグドラシルゴーレムに向かって行く一人一人に魔法を掛けていた。だが、魔力が多いナエでも、二百人ほどの人数に魔法を掛けるのは無理がある。


「《ゲランタル》《ゲランタル》《ゲランタル》《ゲランタル》ゲラ……っ!」


 全身から力が抜けていくのをナエは感じた。魔力を消耗し過ぎた事による症状だ。意識は保っているが、体にはまったく力が入らず倒れそうになっていた。


「おっと……大丈夫かのう?」


「おお……助かったぜ……」」


 転倒しかけた体を優しく抱き締められた。ワンワンを背負いながら戻って来たレイラが、ナエを正面から抱き留めてくれたのだ。


 そのまま【魔力吸収】でワンワンの魔力を吸い、通常ものに使う【魔力付与】を応用してナエへと魔力を流していく。ナエは体がポカポカと温かくなっていくのを感じながら、魔力が回復するのが分かった。


「んんっ…………ふうっ、助かったぜ。魔力がなくなっちまうと、体に力が入らなくなるんだな」


 レイラの腕から離れて一人で立つナエ。魔力が戻った事で、体に力が入るようになったようだ。


「まだ魔法が使えそうかのう?」


「ああ、魔力さえあれば問題ないぜ!」


「そうか……なら無理をさせて悪いが、足止めも頼む」


「分かってるぜ! 《ゲランタル》《ゲランタル》……よし、全員強化完了! それじゃあ、いくぜ! 《アースバインド》!」


 そう唱えた瞬間、ユグドラシルゴーレムが地面に沈んだ。《アースバインド》は大地を変化させて、拘束させる魔法だ。レイラは巨大な落とし穴のように、地面をへこませてユグドラシルゴーレムの巨体を沈ませる。


 沈んでいて見えないものの、土の拘束具が足にまとわりついて、ユグドラシルゴーレムをすぐには動けないようにするのだった。


「今だ! 上に乗れ! 乗れぇ!」


「剣がぶっ刺さってるところに走るんだっ!」


 次々とユグドラシルゴーレムの体に上がって行く。そしてレイラがつけてくれた目印へと走る。


 そして最初に到達したのはクロ、そしてジェノスの二人。


 クロはワンワンをレイラに託した後、ユグドラシルゴーレムの傍で待機していた。先行して攻撃する事もできたが、刺激して後続に危険が及ぶ可能性があったので、他の者が到着してから同じタイミングで上がっていた。


 またジェノスは【強欲】がユグドラシルゴーレムを倒したいという欲求に反応して、ステータスが強化されていた。その為、クロと同じタイミングで目印まで辿り着く事ができた。


 他と比べてステータスが頭一つ抜けている二人は、今回武器を巨大なハンマーにしていた。それを大きく振り被ると、剣の刺さっている箇所へと勢いよく振り下ろす。


「はあっ!」


「むうううんっ!」


 爆発音とも思える激しい衝撃音が轟くと、岩の体が破砕し、周囲に大量の破片が飛び散る。深く突き刺してたはずの目印が抜けてしまうほどだ。


「勇者とあのオッサンに続くぞ!」


「ガキとオッサンに任せてばかりはいられねえな!」


「魔物ギルドの意地見せてやるぜ!」


 二人に触発され、続々と辿り着いた者がツルハシを振るいユグドラシルゴーレムの体を破壊していく。


 ある者はツルハシなどを叩きつけて削り、またある者は削れた岩が邪魔にならないよう運び出すといったように役割ができており、効率よく岩の体を砕いていった。


「まるで坑夫のようじゃのう……」


 遠目でそれを見ながらレイラは思わず呟く。確かにやっている事は到底魔物の討伐のようには見えない。


 そんな事を思いながらも、レイラはワンワンとナエの肩に触れながら【魔力吸収】と【魔力付与】を使って、ナエの魔力を回復する。


「ナエ、大丈夫か? 辛くはないかのう?」


「あ、ああ、大丈夫だ。魔力が減ったり増えたり、不思議な感じがするくらいだ」


「そうか……今のところ順調ではあるが、再生速度もなかなかのものだと聞いておる。《ゲランタル》を何度か掛け直すようじゃろう」


「何度だってやってやる……って言いたいところだが、それはワンワンに聞かねえとな。ここまでで結構魔力を消費しただろ? 大丈夫か?」


「大丈夫だよ! もっといっぱい使っていいよ!」


 万歳のポーズをして元気いっぱいに答えるワンワン。その表情から無理をしているようには感じられないが、いくら魔力を多く持っていても限度がある。


 レイラはゲルニドに用意して貰っていた、赤い液体の入った小瓶をワンワンに渡す。それは魔力回復薬だった。


「ワンワン、こいつを一応飲んでおくのじゃ。少しずつじゃが魔力が回復する」


「わうっ! 分かったよ、いただきます! …………わおぇ」


「ワンワンっ!?」


「大丈夫かワンワン。今まで聞いた事のない声だったぜ!?」


 ワンワンが顔を苦しそうに歪めるのを見て、狼狽える二人。


 一息で飲んだ魔力回復薬の瓶を、ワンワンは恨めしそうに見ていた。


「な、なぁにぃこれぇ……酷いよぉ……マズすぎるよ、うぷ」


「ま、魔法じゃ! 魔法で回復するのじゃ!」


 相当魔力回復薬がマズかったようだ。気持ち悪そうにするワンワンをナエとレイラは心配そうに背中をさする。周囲に居た人もその様子に心配になったのか水を持って来てくれたり、口直しに飴をくれるのだった。


 周囲の温かい優しさもあって、ワンワンは涙目ながらも「ありがとう」と礼を言って、笑顔を見せるまでに回復する。


 その様子に、この場に居た全員がホッと安堵の息を吐くのだった。

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