捨てる人あれば、拾うワン公あり
第33話 勝利の目印を
ユグドラシルゴーレムが肉眼で確認できる距離にある小高い丘。そこに魔物ギルドを始めとする戦力が集結していた。
チェルノにいた魔物ギルドに所属する会員が百人少々、採取ギルド、魔法ギルドである程度は戦える勇士が数人、傭兵ギルドの逃げ出さなかった真っ当な者が十数人、街の衛兵と軍人が五十人少々。そしてジェノスを始めとするゴリンコから提供された奴隷が二十数名。総勢二百人ほどである。
「わうぅぅぅぅ、大きい……」
「あれが魔物か? マジか?」
「こいつは……想像以上にでかいのう……」
ワンワン達を始めとする者達が、初めて目にしたユグドラシルゴーレムに圧倒されていた。ゲルニドが見つけた絵には人の形で描かれていたが、あまりにも巨体になったせいか蜘蛛のように八本の足で体を支えて、ゆっくりとこちらに近付いて来ている。
胴体と思われる箇所は、まさしく岩山のように盛り上がっており、山に足がついているようなものであった。理不尽なその存在を前に普通であれば戦う気など失せてしまうだろう。
だが、誰一人として心が折れる者はいなかった。むしろ今にも魔物に向かって飛び出しそうな勢いだ。
「ふむ……上手くスキルが効いているようで何よりじゃ」
レイラの持つスキル【蛮勇】。
これは自身の周囲にいる生物に対して、その生物が敵と認識する対象のステータスが高いほど戦意を高めるというもの。レイラは今できるだけ、このスキルの効果を抑えている。全開で使用したら、おそらく誰もが走り出してしまうからだ。
ワンワンの《シーカー・アイ》でユグドラシルゴーレムのステータスは確認している。
▼ステータス
生命力:20,624
攻撃力:5,684
守備力:952
魔力:1,835
俊敏力:92
知力:165
運命力:1,006
 俊敏力や知力は大した事はない。 守備力もクロであれば素で上回っている。しかし、攻撃力は恐ろしい数値だ。全力の攻撃をその身で受ければ即死だろう。
加えて魔物の武器はあの巨体と、性質だ。
動くだけで甚大な被害が出る。聖域の調査で最初遭遇した軍は近くにいただけで死んでしまった。踏み潰されれば圧死は確実。そのうえ巨体の何処かにあるコアを破壊しなければ倒す事はできない。
「やれやれ……今度神様や天使と話しをする機会があれば、エンシェントドラゴン……確かドゥーラじゃったか? どうしてきっちり倒さなかったのか文句を言ってやりたいのう。さて、とりあえず儂が行くから、適当に魔法をばらまくように言っといてくれるかのう? クロ、ワンワンを背負ってついて来てくれ!」
「ああ……お前ら、配置に付け! 魔法をいつでも使えるようにしろ! 他の奴等もすぐに動けるようにするんだ!」
ゲルニドはレイラの言葉に頷きながら指示を出す。そしてクロはワンワンを背中に背負う。
これからレイラは単身でユグドラシルゴーレムに突っ込む。コアの場所を探る為だ。だが、レイラはワンワンの守護霊であり、あまり遠くまで離れる事はできない。この場からユグドラシルゴーレムまでの距離では、レイラが一人で動くのは厳しい。
その為、レイラが活動できる距離までワンワンも近付くのだ。
「レイラ、この後も役目はあるんだから無理は済んじゃねえぜ。クロもワンワンをよろしくな! 《ゲランタル》!」
ナエは三人に《ゲランタル》をかけた。それと同時にレイラはスキルでステータスを強化していく。
これで準備は整った。
「よしっ、行くのじゃ! クロ、行くぞ!」
「うん、レイラちゃん」
「わうっ! ゴーだよ!」
ユグドラシルゴーレムに向けて駆け出す。近付くにつれてユグドラシルゴーレムの巨体がより大きく感じるようになる。だが、決して怯まず、足を止める事はない。
「安全第一じゃ。あやつに踏み潰されないようにするのじゃぞ」
「うん、気を付けるよ。レイラも気を付けてね」
「レイラ、頑張ってね!」
「任せとくれ! さあ……山登りをするとしようかのう」
レイラは加速して一気に接近する。そして八本の足の内の一本に取り付き、そのまま上がって行く。
その瞬間からユグドラシルゴーレムの手前に様々な魔法が炸裂する。レイラの存在を気取らせない為の誘導だ。ゴーレムは五感が鈍いので、体に取り付いても気付かれない事がある。
だが、このユグドラシルゴーレムは別格だ。他のゴーレム系の魔物とは異なる能力を秘めているかもしれない。それを考慮して魔法で気を引いている。
ユグドラシルゴーレムは足を止める事はないが、変わらず歩き続けるだけで何かしようとする気配はない。多少揺れるが、レイラはユグドラシルゴーレムの胴体部分へと辿り着く事ができた。
「……向こうみたいじゃのう」
レイラは胴体の上を走り出した。今の彼女は【探し物】のスキルを使っている。これは【尋ね人】と同じような効果で、探し物の方向を報せてくれるスキルだ。これによってコアの場所を絞り込む事ができる。その後は、そこに集中攻撃をする手はずだ。
平坦でなく、常に揺れている足下は普通に歩く事すら難しい。だが、レイラは【反射対応】を使って、揺れに順応し、適確な足運びで走り続けた。
「ふうっ……ふうっ……もう少し先か…………ととっ、通り過ぎたかのう」
【探し物】の反応を頼りに同じ場所を行ったり、来たりしながら場所を絞っていく。やがて走るのをやめて、ゆっくりと歩いて真下に反応がある場所でレイラは足を止めた。
「ここじゃのう…………【軟化】は使えぬか。この岩の体も生物の肉体という認識のようじゃな。まあ、儂の今のステータスなら、なんとかなるじゃろう…………ふんぬっ!」
レイラはドラゴンキラーの大剣を手にして、力強く足下に突き立てる。そこから更に力を込めて、外れないように深く、深く押し込む。
このユグドラシルゴーレムに突き刺したドラゴンキラーが、勝利の目印となるのだ。
チェルノにいた魔物ギルドに所属する会員が百人少々、採取ギルド、魔法ギルドである程度は戦える勇士が数人、傭兵ギルドの逃げ出さなかった真っ当な者が十数人、街の衛兵と軍人が五十人少々。そしてジェノスを始めとするゴリンコから提供された奴隷が二十数名。総勢二百人ほどである。
「わうぅぅぅぅ、大きい……」
「あれが魔物か? マジか?」
「こいつは……想像以上にでかいのう……」
ワンワン達を始めとする者達が、初めて目にしたユグドラシルゴーレムに圧倒されていた。ゲルニドが見つけた絵には人の形で描かれていたが、あまりにも巨体になったせいか蜘蛛のように八本の足で体を支えて、ゆっくりとこちらに近付いて来ている。
胴体と思われる箇所は、まさしく岩山のように盛り上がっており、山に足がついているようなものであった。理不尽なその存在を前に普通であれば戦う気など失せてしまうだろう。
だが、誰一人として心が折れる者はいなかった。むしろ今にも魔物に向かって飛び出しそうな勢いだ。
「ふむ……上手くスキルが効いているようで何よりじゃ」
レイラの持つスキル【蛮勇】。
これは自身の周囲にいる生物に対して、その生物が敵と認識する対象のステータスが高いほど戦意を高めるというもの。レイラは今できるだけ、このスキルの効果を抑えている。全開で使用したら、おそらく誰もが走り出してしまうからだ。
ワンワンの《シーカー・アイ》でユグドラシルゴーレムのステータスは確認している。
▼ステータス
生命力:20,624
攻撃力:5,684
守備力:952
魔力:1,835
俊敏力:92
知力:165
運命力:1,006
 俊敏力や知力は大した事はない。 守備力もクロであれば素で上回っている。しかし、攻撃力は恐ろしい数値だ。全力の攻撃をその身で受ければ即死だろう。
加えて魔物の武器はあの巨体と、性質だ。
動くだけで甚大な被害が出る。聖域の調査で最初遭遇した軍は近くにいただけで死んでしまった。踏み潰されれば圧死は確実。そのうえ巨体の何処かにあるコアを破壊しなければ倒す事はできない。
「やれやれ……今度神様や天使と話しをする機会があれば、エンシェントドラゴン……確かドゥーラじゃったか? どうしてきっちり倒さなかったのか文句を言ってやりたいのう。さて、とりあえず儂が行くから、適当に魔法をばらまくように言っといてくれるかのう? クロ、ワンワンを背負ってついて来てくれ!」
「ああ……お前ら、配置に付け! 魔法をいつでも使えるようにしろ! 他の奴等もすぐに動けるようにするんだ!」
ゲルニドはレイラの言葉に頷きながら指示を出す。そしてクロはワンワンを背中に背負う。
これからレイラは単身でユグドラシルゴーレムに突っ込む。コアの場所を探る為だ。だが、レイラはワンワンの守護霊であり、あまり遠くまで離れる事はできない。この場からユグドラシルゴーレムまでの距離では、レイラが一人で動くのは厳しい。
その為、レイラが活動できる距離までワンワンも近付くのだ。
「レイラ、この後も役目はあるんだから無理は済んじゃねえぜ。クロもワンワンをよろしくな! 《ゲランタル》!」
ナエは三人に《ゲランタル》をかけた。それと同時にレイラはスキルでステータスを強化していく。
これで準備は整った。
「よしっ、行くのじゃ! クロ、行くぞ!」
「うん、レイラちゃん」
「わうっ! ゴーだよ!」
ユグドラシルゴーレムに向けて駆け出す。近付くにつれてユグドラシルゴーレムの巨体がより大きく感じるようになる。だが、決して怯まず、足を止める事はない。
「安全第一じゃ。あやつに踏み潰されないようにするのじゃぞ」
「うん、気を付けるよ。レイラも気を付けてね」
「レイラ、頑張ってね!」
「任せとくれ! さあ……山登りをするとしようかのう」
レイラは加速して一気に接近する。そして八本の足の内の一本に取り付き、そのまま上がって行く。
その瞬間からユグドラシルゴーレムの手前に様々な魔法が炸裂する。レイラの存在を気取らせない為の誘導だ。ゴーレムは五感が鈍いので、体に取り付いても気付かれない事がある。
だが、このユグドラシルゴーレムは別格だ。他のゴーレム系の魔物とは異なる能力を秘めているかもしれない。それを考慮して魔法で気を引いている。
ユグドラシルゴーレムは足を止める事はないが、変わらず歩き続けるだけで何かしようとする気配はない。多少揺れるが、レイラはユグドラシルゴーレムの胴体部分へと辿り着く事ができた。
「……向こうみたいじゃのう」
レイラは胴体の上を走り出した。今の彼女は【探し物】のスキルを使っている。これは【尋ね人】と同じような効果で、探し物の方向を報せてくれるスキルだ。これによってコアの場所を絞り込む事ができる。その後は、そこに集中攻撃をする手はずだ。
平坦でなく、常に揺れている足下は普通に歩く事すら難しい。だが、レイラは【反射対応】を使って、揺れに順応し、適確な足運びで走り続けた。
「ふうっ……ふうっ……もう少し先か…………ととっ、通り過ぎたかのう」
【探し物】の反応を頼りに同じ場所を行ったり、来たりしながら場所を絞っていく。やがて走るのをやめて、ゆっくりと歩いて真下に反応がある場所でレイラは足を止めた。
「ここじゃのう…………【軟化】は使えぬか。この岩の体も生物の肉体という認識のようじゃな。まあ、儂の今のステータスなら、なんとかなるじゃろう…………ふんぬっ!」
レイラはドラゴンキラーの大剣を手にして、力強く足下に突き立てる。そこから更に力を込めて、外れないように深く、深く押し込む。
このユグドラシルゴーレムに突き刺したドラゴンキラーが、勝利の目印となるのだ。
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