捨てる人あれば、拾うワン公あり
第32話 戦いと、その後に備えて
「ボス、よくぞご無事でぇ! いやぁ……本当に良かったぁ!」
「「「ボス! お帰りなさいっ!」」」
ゴリンコを始めとするジェノスの仲間達が、歓喜の声を上げながらジェノスを迎える。多くの者が目に涙を浮かべていた。自分達のボスとの再会ほど望んでいた事はないだろう。
「慕われとるのう……」
「……うるせえ」
レイラの言葉にぶっきらぼうにジェノスはそう返すと、一人一人に目を向けてから口を開いた。
「昨日カーラから話は聞いた。お前ら……よく生きていてくれた!」
「「「ボスゥゥゥゥぅゥゥゥゥッ!」」」
ジェノスの言葉に、とうとう涙腺が決壊し涙を流した。
「暑苦しいぜ……」
「わうっ、なんだか嬉しそうだよ!」
「そうじゃのう……みんなジェノスと再会できて嬉しいんじゃろ。じゃが、いつまでもこうしている訳にはいかないのじゃ」
ここに来たのはジェノスとの再会をさせる為ではない。
ユグドラシルゴーレムと戦う為、戦力を確保する為にここに来たのだ。
「お前ら、泣いてんじゃねえ! 仕事だ!」
ジェノスが一喝すると、先程の騒がしさが嘘のように静まった。
各々が真剣な表情でジェノスに視線を向ける。一言も聞き逃さないように、という意志が感じられた。
「これからユグドラシルゴーレムっていう魔物と戦う。いつもの貴族の馬車とはまったく違う獲物だ。奴隷として、この店の商品として戦う事になるから報酬もそんな多くは出ねえだろ。正直、命の危険もある、割に合わねえ仕事だ…………それでもこの仕事、乗ってくれるか?」
「「「おうっ!」」」
次の瞬間、自身の装備を取りに全員が一斉に駆け出した。
誰一人として迷う事はなかった。ジェノスの言葉に全員が賛同したのだ。
「凄いのう……【カリスマ】なんていうスキルでも持っておるんじゃないか?」
「そんなのスキルは持ってねえ。ああ、それとゴリンコ」
ジェノスは非戦闘員である為、この場に残っていたゴリンコに声を掛ける。
「へい、何でしょう?」
「出発の準備をしといてくれ。ゲルニドに言って、武器や薬の運搬として荷馬車を一台動かせるようにしておいた」
「そいつはぁ……街を出るって事ですかい? まだ、魔族の奴隷は見つかっていやせんが」
「今は出入りのチェックが甘い。堂々と外に出れるチャンスだ。当然奴隷を探しに行った奴等も回収する。場所はこいつのスキルで大まかに分かるからな」
そう言ってレイラの体である黒い鎧を叩く。
森の中にいたクロとジェノスを探す時に使った【尋ね人】のスキルだ。これを使えば周辺の街に散らばっている者と合流も可能だろう。
「そんなスキルをお持ちで……でも、ゲルニドさんは? ゲルニドさんはギルドを離れられないって……傭兵ギルドが」
「それも解決できる。今回の騒ぎで概ねな……」
というのも傭兵ギルドが今回のユグドラシルゴーレムの接近に伴い、戦いもせず、街を守ろうともせず、街の外に逃げる人の護衛という名目で逃げてしまったのだ。
全員が逃げてしまう腰抜けではないが、レイラが解読した資料の情報を他のギルドに共有したところ、真っ先に傭兵ギルドは街の外への避難の方針を取ってしまったのだ。
人格は問題あるものの、少しは戦力として期待できる。誰もがそう思っていたのだが、結果として傭兵ギルドに所属する者の大半がギルドの方針にこれ幸いにと乗って逃げてしまった。しかもギルドマスターが真っ先に。これには呆れるしかなかった。
この事は多くの一般人にも知れ渡る事だろう。
「全てが終わって戻って来ても、とても魔物ギルドに文句言ってる場合じゃねえだろう。それに魔物ギルドの戦力として勇者クロも参加してるとなれば……ユグドラシルゴーレムを討伐した時には、傭兵ギルドの小せえ文句の一つや二つどうにかなる」
人間と魔族の戦いの最前線で戦う勇者。いくら傭兵ギルドを国が優遇しているにしても、傭兵ギルドの一つや二つ潰してでも勇者と敵対はしたくないだろう。
「分かりやした。魔物を討伐次第、離れられるよう準備を進めておきやす。全員が揃ってレイラさんと契約をさせましたら、すぐに」
「そうだな……チェックがなくても、最低限奴隷には見えるようにしておいた方がいいだろう。傭兵がいねえ分は俺達で、少しでもカバーしたい。顔が割れてる奴にも出張って貰う必要がある。俺みたいに顔を少しでも隠すよう言っておけ。それじゃあ、俺は一度クロのところへ行く。三人はあいつらと契約したら、全員で南門の外で待ってろ!」
「分かったのじゃ、あとで合流じゃ」
ジェノスはフードを被り直して店から出て行くのを見送ると、レイラは膝をついて目線の高さをナエとワンワンに合わせて向き合う。
「二人とも緊張しとらんか? ギルドで言ったように二人の活躍が鍵じゃからのう」
「大丈夫だよ! いっぱい、いっぱい頑張るから!」
「おうっ! 私も頑張るぜ……と言っても離れたところで魔法を使うだけだからな」
「魔法を使うだけといっても、おそらく魔力の出入りが激しくなる。普通ではありえん状態になるのじゃ。何が起こるか分からんのじゃから、気を引き締めるのじゃぞ!」
作戦の一部を打ち明けると、ナエはユグドラシルゴーレムと戦う全員に、ステータスを三倍以上高める事ができる《ゲランタル》を掛ける事になっている。これによって攻撃力300半ばほどの者でも辛うじてユグドラシルゴーレムにダメージを与える事ができる。
だが、魔法の効果は10分間。10分経過すれば再度かけ直さなくてはならない。
正直、全員に《ゲランダル》をかけることさえ魔力は足りない。
そこでレイラのスキルとワンワンの魔力の出番となる。ワンワンの膨大な魔力をレイラの【魔力吸収】で吸い上げ、そのまま【魔力付与】でナエに供給するのだ。
こうしてナエが魔力が尽きる事なく魔法を使う算段となっている。
三人がいるからこそユグドラシルゴーレムと戦う事ができると言っても過言ではない。
そして、その戦いはもう間もなく始まろうとしていた。
「「「ボス! お帰りなさいっ!」」」
ゴリンコを始めとするジェノスの仲間達が、歓喜の声を上げながらジェノスを迎える。多くの者が目に涙を浮かべていた。自分達のボスとの再会ほど望んでいた事はないだろう。
「慕われとるのう……」
「……うるせえ」
レイラの言葉にぶっきらぼうにジェノスはそう返すと、一人一人に目を向けてから口を開いた。
「昨日カーラから話は聞いた。お前ら……よく生きていてくれた!」
「「「ボスゥゥゥゥぅゥゥゥゥッ!」」」
ジェノスの言葉に、とうとう涙腺が決壊し涙を流した。
「暑苦しいぜ……」
「わうっ、なんだか嬉しそうだよ!」
「そうじゃのう……みんなジェノスと再会できて嬉しいんじゃろ。じゃが、いつまでもこうしている訳にはいかないのじゃ」
ここに来たのはジェノスとの再会をさせる為ではない。
ユグドラシルゴーレムと戦う為、戦力を確保する為にここに来たのだ。
「お前ら、泣いてんじゃねえ! 仕事だ!」
ジェノスが一喝すると、先程の騒がしさが嘘のように静まった。
各々が真剣な表情でジェノスに視線を向ける。一言も聞き逃さないように、という意志が感じられた。
「これからユグドラシルゴーレムっていう魔物と戦う。いつもの貴族の馬車とはまったく違う獲物だ。奴隷として、この店の商品として戦う事になるから報酬もそんな多くは出ねえだろ。正直、命の危険もある、割に合わねえ仕事だ…………それでもこの仕事、乗ってくれるか?」
「「「おうっ!」」」
次の瞬間、自身の装備を取りに全員が一斉に駆け出した。
誰一人として迷う事はなかった。ジェノスの言葉に全員が賛同したのだ。
「凄いのう……【カリスマ】なんていうスキルでも持っておるんじゃないか?」
「そんなのスキルは持ってねえ。ああ、それとゴリンコ」
ジェノスは非戦闘員である為、この場に残っていたゴリンコに声を掛ける。
「へい、何でしょう?」
「出発の準備をしといてくれ。ゲルニドに言って、武器や薬の運搬として荷馬車を一台動かせるようにしておいた」
「そいつはぁ……街を出るって事ですかい? まだ、魔族の奴隷は見つかっていやせんが」
「今は出入りのチェックが甘い。堂々と外に出れるチャンスだ。当然奴隷を探しに行った奴等も回収する。場所はこいつのスキルで大まかに分かるからな」
そう言ってレイラの体である黒い鎧を叩く。
森の中にいたクロとジェノスを探す時に使った【尋ね人】のスキルだ。これを使えば周辺の街に散らばっている者と合流も可能だろう。
「そんなスキルをお持ちで……でも、ゲルニドさんは? ゲルニドさんはギルドを離れられないって……傭兵ギルドが」
「それも解決できる。今回の騒ぎで概ねな……」
というのも傭兵ギルドが今回のユグドラシルゴーレムの接近に伴い、戦いもせず、街を守ろうともせず、街の外に逃げる人の護衛という名目で逃げてしまったのだ。
全員が逃げてしまう腰抜けではないが、レイラが解読した資料の情報を他のギルドに共有したところ、真っ先に傭兵ギルドは街の外への避難の方針を取ってしまったのだ。
人格は問題あるものの、少しは戦力として期待できる。誰もがそう思っていたのだが、結果として傭兵ギルドに所属する者の大半がギルドの方針にこれ幸いにと乗って逃げてしまった。しかもギルドマスターが真っ先に。これには呆れるしかなかった。
この事は多くの一般人にも知れ渡る事だろう。
「全てが終わって戻って来ても、とても魔物ギルドに文句言ってる場合じゃねえだろう。それに魔物ギルドの戦力として勇者クロも参加してるとなれば……ユグドラシルゴーレムを討伐した時には、傭兵ギルドの小せえ文句の一つや二つどうにかなる」
人間と魔族の戦いの最前線で戦う勇者。いくら傭兵ギルドを国が優遇しているにしても、傭兵ギルドの一つや二つ潰してでも勇者と敵対はしたくないだろう。
「分かりやした。魔物を討伐次第、離れられるよう準備を進めておきやす。全員が揃ってレイラさんと契約をさせましたら、すぐに」
「そうだな……チェックがなくても、最低限奴隷には見えるようにしておいた方がいいだろう。傭兵がいねえ分は俺達で、少しでもカバーしたい。顔が割れてる奴にも出張って貰う必要がある。俺みたいに顔を少しでも隠すよう言っておけ。それじゃあ、俺は一度クロのところへ行く。三人はあいつらと契約したら、全員で南門の外で待ってろ!」
「分かったのじゃ、あとで合流じゃ」
ジェノスはフードを被り直して店から出て行くのを見送ると、レイラは膝をついて目線の高さをナエとワンワンに合わせて向き合う。
「二人とも緊張しとらんか? ギルドで言ったように二人の活躍が鍵じゃからのう」
「大丈夫だよ! いっぱい、いっぱい頑張るから!」
「おうっ! 私も頑張るぜ……と言っても離れたところで魔法を使うだけだからな」
「魔法を使うだけといっても、おそらく魔力の出入りが激しくなる。普通ではありえん状態になるのじゃ。何が起こるか分からんのじゃから、気を引き締めるのじゃぞ!」
作戦の一部を打ち明けると、ナエはユグドラシルゴーレムと戦う全員に、ステータスを三倍以上高める事ができる《ゲランタル》を掛ける事になっている。これによって攻撃力300半ばほどの者でも辛うじてユグドラシルゴーレムにダメージを与える事ができる。
だが、魔法の効果は10分間。10分経過すれば再度かけ直さなくてはならない。
正直、全員に《ゲランダル》をかけることさえ魔力は足りない。
そこでレイラのスキルとワンワンの魔力の出番となる。ワンワンの膨大な魔力をレイラの【魔力吸収】で吸い上げ、そのまま【魔力付与】でナエに供給するのだ。
こうしてナエが魔力が尽きる事なく魔法を使う算段となっている。
三人がいるからこそユグドラシルゴーレムと戦う事ができると言っても過言ではない。
そして、その戦いはもう間もなく始まろうとしていた。
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