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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第27話 忘れていたサプライズ

 傭兵ギルドから抗議が来たと話を聞いた後、レイラがナエを、カーラがワンワンを背負って宿へと帰った。ゲルニドが来る前までは何とか起きていたナエも既に寝てしまっていて、部屋に到着すると二人をベッドに寝かせる。


「ふうっ……運んでくれて助かったぞ、カーラ」
「いえいえ、これくらい大した事ではありませんから……ところで、明日からどうされるんですか?」
「……とりあえず街の外には出ないでおこうと思うのじゃ」


 本当は少し街の外で魔物の討伐や、薬草の採取をしようと思っていた。だが、ゲルニドから傭兵ギルドの連中に、傭兵ギルドの会員を攻撃した相手だと難癖をつけて来る可能性があるとして、念の為人目がないところへは行かないようにと言われたのだ。


 ギルドで絡んできた程度の連中であれば、ワンワンとナエでも対処できるだろう。だが、人同士の諍いほど醜いものはない。そんなものは可能な限り見せたくないと、レイラは暫くは街の中で過ごす事にしていた。


「面倒な事になりましたね……」
「そうじゃな。他の魔物ギルドの会員は大丈夫かのう」
「いくら向こうが対人戦闘が得意といっても、魔物相手の戦闘のプロですから。襲ってくるような事はして来ないと思いますけど……」
「そうであってくれるとよいが……。なんとか傭兵ギルドの訴えを退ける事ができればいいんじゃがな……」


 ゲルニドの口振りだと、傭兵ギルドの言葉を退ける事は難しいだろう。
 他のギルドも傭兵ギルドに対してあまり良く思っていないが、敵対したら何をしてくるか分からないので恐れている。そのような状況下で、同じギルドの立場では解決はできそうにない。


 そこで、レイラはこの辺りを治めている領主に訴えてみたらどうかと提案してみた。だが、訴えたところで、何もしてくれないだろうとゲルニドは言った。
 この国は昔から傭兵が多く、人間の国と魔族の国それぞれの国に戦力として赴いている。どちらの国からも自分達に与するよう強要されないのは、こうした傭兵による戦力の提供をしているからだ。


 国自体が戦争に巻き込まれないのは傭兵のおかげであり、傭兵が集まる傭兵ギルドに対してあまり強く言えないとの事。それに一部の街では傭兵ギルドだけあれば問題ないとして、他のギルドを追い出してしまう事もあるらしい。


 その話を聞いた時、レイラは呆れた。そもそも傭兵、魔物、採取、魔法などギルドを分けているのは、それぞれの専門を突き詰める事によって知識や技術を高め、効率を上げる為だ。一つのギルドで同じ質で仕事をするのは困難だろう。


「ゲルニドさんも一緒に行ければいいですけどね……」
「そうじゃのう……」


 今回の問題にゲルニドはチェルノに残る可能性が大いにある。彼も仲間からの人望が厚い為、もしかすると自分も残ると言い出す者が現れるかもしれない。ジェノスにとって大切な仲間達、叶うなら誰一人欠ける事なく連れて行きたいとレイラは思うのであった。


 それからカーラは店に帰って行くと、レイラは【憑依】を解除して鎧から抜け出しワンワンとナエの可愛らしい寝顔に癒されてから眠りについた。


「――というような事を昨夜ゲルニドから聞いたのじゃ」


 翌朝、宿で朝食をとりながらレイラは昨日のゲルニドから聞いた傭兵ギルドの話をした。あまり子供の二人にこのような事を話すのは気乗りしなかったが、二人にも傭兵ギルドには注意をして欲しかったので伝える事にした。


「昨日のあれは、わざと突っかかって来たって事か?」
「おそらくのう……。ゲルニドが酔っ払いの男に話を聞いたら、酒場で愚痴を言っておったら傭兵ギルドの者達が声を掛けて来たそうじゃ。それと儂らが魔物を売っていたところを見ていたようじゃし、あわよくば儂らから金を巻き上げようとしたのかもしれぬ」
「酷い奴等だな」
「まったくじゃ。じゃから街の外で絡まれたら厄介じゃし、街を散策しようとおもうんじゃがどうじゃ? 奴等も人目のあるところでは目立つような事をして来ないじゃろう」


 その提案に二人は頷いた。ワンワンはレイラの話を全て把握した訳ではなさそうだが、傭兵ギルドが悪い事をしているのは理解してくれたようだ。
 そして三人で一緒にいられるのであれば、どのような予定でもワンワンは良かった。ナエはできれば魔物の料理のレシピを見たいらしく、魔物ギルドには必ず寄る事にする。


 こうして本日は、街の散策する事に決まった。


 朝食を食べ終え、まだ街の中で行った事のない方向へとワンワン達は歩き出す。
 チェルノ滞在三日目ではあるが、これまで立ち寄った場所といえば、街に入った時にモンモを買った露店、魔物ギルド、風の羽、ゴリンコの店ぐらいだ。風の羽で必要なものが全て揃ってしまったので仕方ない事だが、折角初めて街に来たのだからもっと色々なものをワンワンに見せたいとレイラは思っていた。


「…………あ」
「ん? どうしたんだぜレイラ?」
「レイラ?」


 突然立ち止まったレイラに気付き、手を繋いで歩いていたワンワンとナエも足を止めて振り返る。


「いや……ちと忘れておった用事を思い出してのう。すまんが先に済ませてもよいかのう?」
「別にいいけどよ……なんだよ?」
「ふふふっ……まあ、今は内緒じゃ」
「「?」」


 レイラとは常に一緒に行動をしていたはずだが、思い当たるものがまるでないので二人は首を傾げた。


 用事を済ませると言って向かったのは風の羽。
 店員に名前を告げて、一昨日注文したものを取りに来たと告げると店員は店の奥へと消え、店主のネリオが現れた。ネリオはレイラに対して先日以上に丁寧な対応をする。どうやらユグドラシルラビットも良い取引ができたようだ。


 ネリオはそれから応接室にレイラ達を案内して、テーブルの上に五つの細長いケースを置いた。


「こちら左から白、黄、赤、緑、青となります」
「そうか。ワンワン、ナエ、何色がよいかのう? 好きな色を選ぶといい」
「選ぶって……いったい何なんだぜ?」
「僕は白!」


 ナエはいったい何なのか知りたそうにしていたが、ワンワンがさっさと答えるのを見て、「……じゃあ、青」と答える。レイラは選んだ色のものが入っているそれぞれの箱を二人の前に置いた。


「さあ、開けてみるのじゃ」
「ああ……これは、ネックレスか?」
「わあ、羽の形をしてる! それと白い石がついてるよ!」
「お揃いのアクセサリーじゃ。石が色違いのものを用意して貰ってのう」


 お揃いと聞いて、五つ用意されている理由にナエは気付いた。


「そうか、あの二人の分もあるのか……。いったい、いつこんなの頼んだんだ?」
「お主達が着替えてる時じゃよ。ワンワン、ナエ、気に入ってくれたかのう?」
「うんっ! ありがとうレイラ!」
「ああ、ありがとうな。羽の装飾もいいけど、石も綺麗だぜ」


 既にワンワンは自分の首にかけ満面の笑顔でお気に召したようだ。またナエも満更ではないようで、首にかけて羽の装飾に触れながら頬を緩めていた。


 ちなみにレイラは緑の石のネックレスを選んだ。
 残りの二つは後日クロとジェノスに渡そうと格納鞄にしまい、ネリオに礼を言って風の羽を後にする。店を出る際にネリオから、また気が向いたら魔物をうちに卸して欲しいと言って来たので、気が向いたらとだけ答えておく。


 まだ格納鞄には聖域の魔物の死体が多く入っているが、傭兵ギルドの事もあるので魔物ギルドの利益になった方がいいと考えていた。ネリオには申し訳ないが、念の為ゲルニドに相談をしてギルドの方に渡すつもりだ。


「ワンワンの白い石、光にあたるとキラキラして綺麗だな」
「ナエの青いのも綺麗だよ!」


 ワンワンとナエは店を出てからも、ネックレスが相当気に入ったようで羽の形をした装飾に触れながら歩いていた。そんな二人の喜ぶ顔を見て、レイラは良い買い物をしたと満足するのだった。


 こうして今度こそ、まだ見ぬチェルノの街を散策する事にする。

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