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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第25話 自分達のことを色々話しました

「只者じゃねえとは思ってたが……体がない? リビングデッドアーマーか?」


 リビングデッドアーマーは鎧に悪霊が宿った魔物。
 珍しい魔物で知る者は少ないが、さすがギルドマスターをしているだけあって、魔物の知識は豊富のようだ。レイラもそれについては「よく知ってるのう」と感嘆の声を漏らす。


 だが、当然レイラは魔物ではないので首を横に振り、否定する。


「儂は魔物ではないのじゃ。本来の儂は魂だけ存在して、【憑依】というスキルで鎧に取り憑いているのじゃ」
「魂だけ? 【憑依】? 悪いが、俺に理解できるように説明してくれないか?」
「ああ……儂らの事を色々と説明しておきたいからのう。順序立ててゆっくり説明するのじゃ。まずはワンワンの事から説明しよう」


 頭を元に戻して話す。レイラは、ナエ、クロ、ジェノス、そして自分はワンワンによって聖域に呼び寄せられた事を。当然ワンワンの【廃品回収者】の事も分かる範囲で説明する。
 ゲルニド達を連れて行く事を決めた際に、ワンワンや自分達の事を隠さずに話しておく事にしたのだ。


 一緒に行動するのに隠し事をしなくてはならないというのは、息苦しいものだ。


 ゲルニド達なら話しても、外には漏らさない。そうジェノスが太鼓判を押すので、レイラとクロも伝える事に異議はなかった。
 ただ、いきなり全員に伝えるのではなく、代表格であるゲルニドにだけ最初は伝えようという事になった。全てを伝えるには、あまりにも情報量が多過ぎる。


 実際、ゲルニドはレイラの話し終えると、頭痛を堪えるように表情を歪めていた。


「なんというか……凄いとしか言いようがないな。ワンワンの魔法やスキルは凄いものだとは思ってたが、レイラが三百年以上前の英雄とは……。まあ、エンシェントドラゴン、神、天使、オワリビトなんて存在を聞いたら、些細な事のように思えるけどな……」
「じゃろうな。いきなりこのような話をされても、信じられんかのう?」
「普通だったら信じられない。だが、そんな嘘を言う必要はない。ワンワンの力は規格外なのは実際目にしてるしな。とりあえず信じよう」
「うむ、まあ信じられなくてもいい。じゃが、今後ともに行動するなら、こういった事は起きても不思議ではない。覚悟はしておいて欲しいのじゃ。それと仲間に今の話をするのはいいが、それ以外の者には決して話してはならぬぞ」
「ああ、分かった。心しておく。他の奴等には俺から適当に機会を見て説明しておこう」


 盗賊は全体的に頭の出来はそこまで良くないとゲルニドは言う。おそらく今聞いた話をそのまますれば、半分も理解できずに忘れてしまうらしいので、重要な事だけ伝えると言う。


「さて、そろそろワンワンとナエのところへ戻るとするかのう。距離的には問題ないのじゃが、守護霊じゃからか側にいないとどうも落ち着かぬ」
「ああ、そうだったな。それじゃあ、本の翻訳は頼んだ……ん?」


 ゲルニドは扉の方に視線を向けた。こちらに向かって慌ただしい足音が聞こえたのだ。そして、ノックをされずに勢いよく扉が開いて、血相を変えた職員が駆け込んで来る。


「ギルドマスター、レイラさん大変です! 昨日の酔っ払って絡んで来た人が、ワンワンくんとナエちゃんにっ!」
「っ! 先に行くぞ!」


 レイラは二人の身に危険が及んでいるのが分かると、すぐさま部屋を飛び出した。少し遅れてゲルニドも部屋を飛び出す。


「馬鹿が! どうして一度で懲りない! また酔っ払っているのか?」
「い、いえ、お酒は飲んでいないようでした。素面で『てめえらのせいで、罰則を受ける事になっちまっただろ!』と突っかかって……」
「他の職員は? あいつぐらいなら腕っぷしいい奴二、三人で止められるだろ? 無理なら他の会員の手を借りて」
「それが、一人じゃないんです。十人以上仲間を引き連れて現れて……」


 ゲルニドはそれを聞いて、どうしてそんな奴に手を貸すのかと呆れてしまった。


 昨日警告しての愚行。そして加担した者も同程度の罰が必要だ。除名処分は当然行うとして、加えて暴力行為を働いたとして衛兵に突き出そうとゲルニドは処分を考えるが、それよりも騒動を早く止めなくてはと急ぐ。


 ワンワンとナエを心配しているという事もあるが、下手をするとこのギルドが消し飛ぶ事を危惧していた。
 オワリビトとの戦いの話を聞いて、聖域を燃やすほどの威力のある魔法をナエが使える事を知っている。もし、そんな魔法を相手に対抗する為に使ってしまったら……想像しただけでゲルニドは頭が痛くなった。


 ゲルニドが現場に到着すると、テーブルが幾つか壊れ、食器の破片が床に散乱しているが、幸い建物は無事だった。


「こ、こんな強いなんて、聞いてねえよ……」
「クソ……楽に金が手に入るって聞いたのによぉ」
「なんで、ガキがあんな魔法使えんだ、おかしいだろ……」


 床に倒れ伏して、呻き声を上げている者が何人かいた。
 先に到着していたレイラ、そしてワンワンとナエは見た限り怪我はしていないようだ。


「二人とも無事だったか?」
「うむ、儂が着くよりも先にナエが対処しておったわ」
「そうなのか?」


 ゲルニドが二人に視線を向けると、誇らしそうに両名ともに胸を張る。


「ああ。ワンワンが魔法で防御してくれたから、攻撃に集中できたんだぜ」
「わうっ! 僕も頑張ったんだよ!」
「そうか、無事なら良かった。それにしても……俺の記憶が確かならうちの会員じゃねえのも混ざってるな」
「ギルドマスター! そいつは傭兵ギルドの奴だぜ!」


 周りにいた一人が、床に転がっている一人の男を指さして声を上げると、面倒臭そうにゲルニドは溜息を吐く。


「別のギルドの奴か……もしかして他の奴等もか? 下手に衛兵に引き渡す訳にはいかないな……。おい、こいつらを牢に入れておいてくれ」


 近くにいた男性職員に指示を出して、縛り上げて連れて行かせた。
 倒れていた全員がギルドの奥へと消えたのを見計らって、レイラはゲルニドに尋ねる。


「魔物ギルドにも牢があるんじゃな」
「ん? まあ、時々こうして馬鹿をやる奴がいたり、盗賊なんかを捕縛してくる場合もあるからな。全員うちのギルドの奴だったら処分は楽だったんだが……」
「なんじゃ? 傭兵ギルドとの関係はあまり良くないのか?」
「面倒な相手ではある……まあ、よそのギルドに自分のところの奴が衛兵に突き出されるなんて、あまりいい気分じゃないだろう。奴等の身分を確認して、向こうのギルドに話を通してから衛兵に渡さんとならん。何があったのか、二人からも少し話を聞かせて貰いたいんだが……いいか?」


 ワンワンとナエはそれからギルドマスターの部屋に移動して、そこで事の成り行きを話した。
 二人でレシピを読んでいると、昨日の酔っ払いを始めとする男達に囲まれたらしい。そして昨日の事を自分達のせいだといちゃもんをつけて来て、詫びとして金貨百枚出せと脅して来たそうだ。


 そんな大金はないと言うと、どうやら誰かが、街に入る前に風の羽のネリオと買い取りをしていたのを見ていたようで、大金を持っているのを知っているようだった。そしてレイラを脅す為の人質にしようと、二人に掴みかかろうとして来たので、ワンワンが咄嗟に《ミソロジィ・シールド》で防ぎ、ナエが魔法で攻撃をしていったそうだ。


「こんな小さいガキに……恥ずかしくないのか……」
「まったくじゃのう……しかし、ワンワンはよく咄嗟に魔法が使えたのう。怖くなかったか?」
「うん、大丈夫だったよ! ナエがね、手を握ってくれたから怖くなかったよ!」


 ワンワンはそう言って笑顔を見せる。そこには恐怖は微塵も感じさせない。それほどナエが心強く、信頼できる存在という事だろう。


「そうか……ナエ、よくワンワンを守ったのう」
「当たり前だろ! ワンワンは私の弟なんだから!」
「ふふふっ、そうかそうか……」


 何とも頼もしいお姉ちゃんだとレイラは思うのだった。

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