捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第21話 クロとジェノスと合流

 ギルドカードを見せながら、魔物を狩りに行くと説明すれば特に怪しまれる事なく街の外へ出る事ができた。カーラの首輪を見て、もしや奴隷商の営業が再開したのかと聞かれたが、「そうじゃ」とレイラが頷く。それ以上は話は膨らまず終わりだ。


「無事に外に出れて良かったですね」
「ああ、良かった。良かったけどよ……いつまでワンワンを抱えてんだ!」


 先程からカーラはワンワンを抱っこをして離さなかった。
 すっかりカーラはワンワンを気に入っており、彼の髪に顔を埋めたり、頬をずりしたりとやりたい放題だった。ワンワン自身は嫌がっていないので、レイラは何も言わなかったが、ナエは弟を取られたようで面白くないのか声を荒上げる。


「ごめんなさい……ワンワンが可愛くて……」
「だったらワンワンを放せ!」
「も、もう少し……もう少しだけ……ね!」


 もう少しとカーラは言うが、このもう少しはもう三度目だ。
 さすがにこれ以上は我慢はできないとワンワンの両腕をがっちり掴んで、カーラから引き離そうとする。


「もう少しだけって言って、ずっと放さないじゃねえか! ほら、いい加減に放せ!」
「うぅぅぅ、本当にあとちょっとだけぇぇぇっ!」


 二人がワンワンを引っ張り合う。取り合いをされてる当人のワンワンは痛がるわけでもなく、むしろ遊んで貰えていると思っているのか、楽しそうに笑顔を浮かべている。ワンワンの守備力であればこの程度はなんともないのだ。さすがにクロぐらいの攻撃力で全力で引っ張られたら痛みを感じるだろうが、この二人であれば痛くも痒くもない。


 だが、既に森の中に足を踏み入れて、魔物がいつ現れてもおかしくない状況。さすがにレイラが注意する。


「少しは周囲を警戒した方がいいぞ。最近は聖域の魔物も現れるそうじゃからのう。特にカーラ、お主は儂らの中でステータス的には一番劣っておる。いざという時に動けんと大変じゃ。ワンワンをそろそろ放した方がよいのではないかのう?」
「うっ……分かりました…………また後で抱っこさせてくださいね!」


 そう言ってワンワンを解放すると弓を手にする。彼女は昔から弓矢を得意とするらしい。


 念の為ステータスをワンワンの《シーカー・アイ》で確認している。




▼ステータス
生命力:372
攻撃力:75
守備力:65
魔力:97
俊敏力:132
知力:122
運命力:13


▼所有スキル
【魔弓】




 ステータスは運命力が低いが、それ以外は一般的なものだった。唯一目を引くのはスキルだ。
 【魔弓】というスキルは放った矢を魔力を消費した分、威力を高めるというもの。このスキルがあって彼女は昔から弓を使っているらしい。


「ワンワン、ほら手を繋ごうぜ」
「わうっ! 繋ぐ!」
「えっ、ずるいです……私も……」
「これ! お主は両手が合い取らんと矢を放てぬだろう! ナエとワンワンは魔法が使えるからいいのじゃ」
「うううう……羨ましい……」


 肩を落として露骨にがっかりするカーラ。
 しかし、そんなワンワン大好きな彼女だが、ゲルニドが指名しただけあって周囲への警戒は怠らない。また、彼女の何度も傷付き治ったゴツゴツとした指を見れば、弓の修練をどれだけ積んでいたか分かる。聖域の魔物や、魔物の大群が現れない限りは彼女に任せても問題なさそうだ。


 レイラはそのように評価しながら、自身も周囲を警戒する。聖域の魔物に不意を突かれれば、ワンワン以外は無事では済まない。レイラはスキルを発動しなくてはならないし、ナエは魔法を使わないと素のステータスでは太刀打ちできないという欠点があり、不意打ちには弱いのだ。


 だから不意打ちをされないように警戒を続ける。


「ところで、ボスの場所は分かるんですか? レイラさん迷わず歩いているようですが……」
「ん? ああ、そういえば話してなかったのう。【尋ね人】というスキルを使っているんじゃ。特定の人物がいる方向を報せてくれるスキルじゃ。あまり対象の人物が遠くにいると使えぬがのう」


 そうして【尋ね人】のスキルを用いていると、目の前に川が現れた。


「どうやら……この近くにいるようじゃが……」


 【尋ね人】がこの近くにいる事を訴えている。
 方向からしてジェノスは川を越えた先にいるらしく、そこまで深くないのでスキルでステータスを高めて、レイラはワンワンとナエを担いで渡ろうと思った。カーラには自力で歩いて渡って貰うか、自分の体にしがみついて貰うとしよう。


 そうレイラが考えていると、不意にクロの声が聞こえた。


「あ! ワンワンくん! みんな!」


 少し離れた川の水面が盛り上がったと思えば、川の中からクロが飛び出して来た。何も身に付けていない全裸で。


「これクロ! どうして裸なんじゃ!」
「え? ああ、水浴びをしてたから……ほら、ワンワンくんがいないから《ミソロジィ・キュア》かけて貰えないし……」
「だからってのう……男が来たらどうするのじゃ」
「あはは……まあ、その時になったら考えようと……。この時期は暑いってほどじゃないけど、やっぱりずっと外を歩いていると汗かいちゃってさ。それで、そちらは?」


 ワンワン以外に異性がいないからか、全裸である事を気にせず近付いて来るクロ。
 さすがに全裸のまま話を進める気になれず、レイラはクロに服を着て来るよう言った。そして服を着たクロとともにジェノスのところへ向かう。


 ジェノスは木々が生えていない開けた場所で、丸太に腰掛けて本を読んでいた。


「ん? クロ、戻ったのか……ワンワン? 何かあったの…………カーラ?」
「ボ、ボス……本当に無事だったんですね!」


 カーラは目に涙を浮かべ、ジェノスのもとへと駆け寄る。そして立ち上がっていたジェノスに飛びついたのだった。


「おっと……おいおい泣くんじゃねえ。みっともない」
「だ、だって……みんな心配だったんですよ。処刑から逃げたって聞いて探しても、見つかりませんでしたし。死んでしまったのではないかと……」
「悪い……お前らに無事を伝えられたら良かったんだが…………ところで、どうしてワンワン達と一緒にいるんだ?」
「実はのう……」


 レイラはジェノスに説明した。
 奴隷商の店がジェノス側についた強欲の放浪者グリディ・ノーマッドの者達が身を潜めている事。ゲルニドに治療を頼まれた事。現在は貸し出しという形で、奴隷となって元盗賊達は商売をしている事。それから魔族の奴隷を探して貰っている事。全員が魔族の国へ行くジェノスについて行きたいという事。


 全てを聞き終わるまで、ジッとジェノスは聞いていた。
 そして最後にジェノスについて行きたいと言っている事を伝えると、目を瞑って長く息を吐く。


「……魔族の国に行って、正直そこからどうなるか分からないんだぞ。俺達だけならいざという時に、どうにでもなる。だが全員の安全は保障できねえぞ」
「それでも……私達は一緒に、ボスについて行きたいんです! お願いします!」
「…………少し考えさせてくれ。そう時間は掛からねえ」


 こうしてジェノスが時間が欲しいと言うので、ワンワン達はこの場に留まる事にする。
 ちょうどお昼時でもあったので、格納鞄から食材を取り出してナエがお昼ご飯を作り始める。ワンワンとカーラも手伝い、その間にクロ、ジェノス、レイラの三人で話し合いをするのだった。

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