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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第12話 買い物が終わったようですが……

 レイラがナエのアクセサリーを選び終えた頃、ワンワンとナエもそれぞれ服を選び終えていた。


 選んだ服を手に試着室へと消えていく。そしてワンワンは着替えるとすぐに飛び出し、ナエは緊張した面持ちで恐るおそるといった様子で試着室から出て来た。


「どう、レイラ? 似合う?」
「ど、どうだ、レイラ。おかしく、ないか? こんなちゃんとした服を着るのは久し振りで……なんか恥ずかしいぜ……」


 ワンワンとナエは二人とも黒を基調とした服を纏っていた。ナエの方はこれまでとは違ってスカートを履いていて、ところどころに花の刺繍やレースで飾られていて可愛らしいが、黒の面積が多くやはり少し地味に見える。


「うむぅ……似合っておるが……それでいいのかのう? 儂はファッションには疎いが、もう少し明るい色のものでも良いのではないか?」


 その言葉にワンワンは激しく首を横に振る。


「ううん! 黒がいいの!」
「のじゃ? ワンワンは黒い色が好きだったかのう?」


 ワンワンが特定の色が好きというのは知らなかったと声を上げるレイラ。するとナエが苦笑しながら黒が譲れない理由を語る。


「実はな、レイラとお揃いがいいって言い出したんだ。それでレイラの鎧に合わせて、黒い服を選んだんだぜ。まあ、折角だし……私も黒にしたんだ」
「そ、そうなのかっ!?」
「わうっ! 一緒だと嬉しいよねっ!」


 屈託のない笑顔を向けるワンワン。その眩しさに思わずレイラは目を細めた。


 先日、ライヌという天使と出会ったが、レイラにとってはワンワンの方が天使らしく見えたのだった。


「ワンワン、お主は本当に良い子じゃのう……。ナエもありがとうなのじゃ」
「わ、私は……ワンワンに付き合っただけだからなっ」
「わうわうっ♪」


 照れたらしく頬を染めてそっぽを向いてしまうナエ。ワンワンは全員同じ色の服を着て嬉しそうである。


「おおっ、そうじゃ。忘れるところじゃった……ほれ、ナエよ。こいつをやろう」


 思わぬサプライズに危うく忘れそうになった選んだアクセサリー、銀の腕輪を渡した。


 ナエは咄嗟に手を出して受け取るが、どうして渡されたのか分からないと困惑した様子で腕輪とレイラを交互に見る。


「えっ、何だよこりゃ?」
「女の子なんじゃからお洒落しないとのう…………日頃、料理や色々と頑張ってくれてる礼じゃ。受け取ってくれ」


 ネリオには聞こえないように、後半の言葉は声を潜めて伝えた。するとナエは慌てて腕輪を突き返そうとする。


「そ、そんな大した事してないぜっ。そんな事で金を使うなんて……」
「気にする事ないのじゃ。子供なんじゃから、財布の中身なんて気にせず素直に受け取ればいいのじゃ。それにのう、これも魔物の支払いに含まれるのじゃ」
「その通りですよ。ちなみに服を入れても、まだこちらでお支払いしようとした額にはとどきませんので、どんどん商品を選んで欲しいところです」
「ほ、本当か? それなら……ありがたく貰うぜ。ありがとうな!」


 レイラ、更にネリオの言葉もあってナエは腕輪を受け取った。そして早速腕輪を付ける。


 レイラが選んだのは花の冠をモチーフにした銀の腕輪で、無数の花が折り重なっているように見える。派手ではないが目を引くデザインで、黒い服のアクセントにもなって似合っていた。


 腕輪を付けたナエはワンワンに感想を求めたり、引き続き買い物をする中でしきりに腕輪を撫で、嬉しそうに頬を緩めていた。普段乱暴な口調のナエだが、こうした姿を見ると可愛らしい女の子である。


 それから、暫く店内を見て回り、必要なものを揃える事ができた。


 選んだ商品は他の店員によって応接室に運んで貰っていたので、そちらに向かうワンワン達。応接室のテーブルの上に、選んだ大量の商品が置かれていた。また、レイラが選んだ二つのネックレスに関してはその中にはない。明後日、追加注文をした分を受け取るまでワンワンとナエに内緒にしておくつもりだ。


「さてと……とりあえずこれぐらいでいいかのう。ちと多くなってしまったがどうじゃ?」
「これぐらいでしたら、ちょうど残りのお支払い分になりますね……ところで、何処かに家でも借りるつもりなのでしょうか」
「ん? どうしてじゃ?」
「いえ、宿に泊まるのであれば、これほどの生活用品は必要ないかと思ったので……。今後ともご贔屓いただきたく思いますので、良ければお探ししますが……」
「いや、それには及ばぬ。当面は宿屋に泊まる予定じゃからな。それに儂には格納鞄があるしのう。いざ必要になった時になかったなんて事にならんよう念の為に色々と買ったのじゃよ。儂はちと心配性なのじゃ」
「ああ、そうでしたか。暫くチェルノに滞在はされるのですか? その……もし可能であれば、また貴重な魔物の死骸を当店に売っていただきたく思うのですが……」


 なるほど、とレイラは心の中で呟く。彼としても利益があるからこそ、こうして色々と手厚く対応してくれているのだと思った。ただ、それは商人としては正しいと思い、非難する気持ちは少しもない。それに互いに利益があるのであれば、協力的な関係でいられる。


 チェルノには三日間しかいない予定だが、良好な関係を築いておくのも悪くはないと考えて格納鞄を背から降ろし、あるものを取り出した。


「ユグドラシルベアーよりは劣るが、これはどうじゃ? ユグドラシルラビットじゃ」
「ほ、他にも聖域の魔物を倒されたのですかっ!?」


 ユグドラシルベアーよりも弱いが、臆病であり俊敏な動きをして仕留める事は難しい。また、追い込んだとしても仕留めるのは困難な魔物である。多くの強力な魔物が跋扈する聖域を逃げ足だけで生きている訳ではなく、その戦闘力も高いのだ。噛む力は強く、人の腕ぐらいであれば容易に噛み切る。


 俊敏さと力を兼ね揃えた魔物であり、並みのステータスであれば一人では到底敵わない。少なくても四人で互いに背を向け、どの方向から来ても対処できるようにしなければ倒せないだろう。


「どうかのう? 良ければ売っても良いが……」
「いいのですか!? それはありがたい! 是非買い取らせてくださいっ! いやぁ、腕が立つお人だと思っておりましたが……本当に凄いですねぇ!」
「わうっ! レイラは凄いんだよ! オワリビトっていうのも倒しちゃうんだよ!」
「そうですかそうですか!」


 オワリビトは一般には知られていないが、本日二体目の大物に歓喜しているネリオはワンワンの言葉に意味が分からなくても頷いていた。


 ユグドラシルベアーほどではないが、高値で買い取ってくれ、充分過ぎるほどのチェルノでの活動資金を得たワンワン達。金や選んだ商品を格納鞄にしまい、店を出ようとする。


「さてと、それじゃ行くとしようかのう」
「はい。また何かご入用の際は当店にお越しくださいっ!」
「ありがとうのう。ああ、そうじゃお勧めの宿と、奴隷を売っとる店を教えて貰えんか?」
「はいっ! 最高の宿をご紹介させていただきます! それと奴隷を売っている店も…………奴隷? えっ、奴隷商のところへ行くのですか? まさか、二人を売られるので?」
「馬鹿者っ! 売るんじゃない! 買うんじゃ!」
「で、ですよね、いや失礼しました。奴隷商に行かれるとは予想外でして……」


 ペコペコ頭を下げるネリオ。それから彼は幾つか宿を紹介し、またチェルノの街唯一の奴隷商を紹介してくれた。しかし奴隷商の場所を伝えた時、難しい表情を浮かべて唸り声を上げる。


「しかし奴隷商ですか……もしかすると、購入は難しいかもしれませんよ」
「む? どういう事じゃ?」
「いえ……最近奴隷商の店主が代わりまして……。それから店を開けていないようなんですよ」
「店を開けていないじゃと?」
「はい。代わってから奴隷を仕入れてはいたんですが、一度も店を開けてないんですよ。もしや奴隷に店を乗っ取られたんじゃないかと噂されて……まあ、衛兵が確認しに行ってそういった事はなかったんですが。店を開けず、いったい何をしてるんだかとみんな首を捻っていて……そんな訳で今は奴隷を買うのは難しいかもしれません」


 奴隷を買う事はできない。その事実に「どうしよう……」とレイラとナエは思わず顔を見合わせる。


 ちなみに、ワンワンには奴隷を買う事……奴隷の意味すら教えていないので、顔を見合わせる二人を不思議そうに見ていたのであった。

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