捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第11話 風の羽でお買い物

 魔物ギルドを後にしたワンワン達は次に風の羽へと向かった。魔物を売った際に足りなかった分のお金を受け取りにいく為だ。場所をギルドの職員からも聞いている。


「よし、それじゃあ今度は風の羽に行くとしようかのう。最終日に色々と買い揃えるつもりじゃったが、そこで買い揃えられるなら買ってしまおう。そうすれば最終日は時間ができるからの。ギルドで魔物を使った調理法を少しは覚えられるじゃろう。まあ、他に空いた時間があれば行ってもいいけどのう」
「ああ、ありがたいぜ」
「わうっ! 美味しい料理いっぱい食べたいね!」


 獣のような見た目の魔物であれば、普通の獣と同じような調理方法でも問題はない。だが、時には従来の獣とは大きく異なる姿をした魔物がいる。また、時には見た目が獣のようであっても、特殊な処理をしなければ食用に向かないものもあるのだ。


 料理が上手いナエが魔物の調理方法を覚えれば確実に料理の幅が広がるだろう。ワンワンもナエの料理が一層美味しくなると思って楽しみにしている。


 魔物ギルドを出て十分ほど歩いたところで、風の羽の看板を掲げる建物に辿り着いた。


「ここが風の羽じゃな。かなり大きいのう」
「そうだな……あんな大金をポンッと出せるはずだぜ」


 他の建物よりも一段と大きかった。魔物ギルドのドラゴンを模した骨のオブジェも目立っていたが、風の羽は建物のただ大きいというだけでかなり存在感があった。


 店の大きさに驚きながらも入店する。
 風の羽は外観通り中も広かった。そして売られている商品も様々だ。野菜などの食料、それに剣や槍といった武器。アクセサリーなども売られている。その光景にワンワンだけでなく、ナエまでも目を輝かせていた。


 そんな二人にレイラは「後で店内を見て回ろうかのう」と言って、近くにいた従業員をつかまえ、街の外で魔物を売った事を告げる。すると事前に何か聞いていたのかすぐに呼びに行ってくれたのだった。


 一分も経たずに街の外で買い取ってくれた男が現れる。急いで来てくれたようで額に汗が滲んでいた。


「おおっ! お待ちしておりましたよ!」
「先程振りじゃのう。ええと……すまん、そういえば名前を聞いておらんかったのう」
「そういえば、まだ名乗っておりませんでしたね。申し訳ございません。私はこの風の羽の店主ネリオと申します」
「儂はレイラじゃ、よろしく頼む。金の他に、ギルドカードも盗まれた為、改めてギルドに登録しに行ったのじゃ。時間が掛かってしまってのう……もしや待たせてしまったか? 何か予定があったのであれば、すまぬ」
「いえいえ! お気になさらないでくださいっ! こちらの都合でご足労いただいたのですから。今、残りの金を用意しますので、応接室に来ていただけますでしょうか?」
「うむ……あ、そうじゃ。商品を見てもいいかのう。色々欲しいものがあるんじゃ。儂としては金は充分貰ったから、残り支払いは商品でもいいんじゃが……ああ、勿論足りんかったら金は払うぞ」


 店内をキョロキョロと見るワンワンとナエ。一刻も早く店内を見て回りたいという気持ちが伝わって来たので、ネリオにそのようにレイラは提案をした。


「はい、それでも構いませんよ。うちは色々取り扱っておりますので……良ければご案内いたしましょう」
「いやいや、それは悪いのじゃ。これほどの大きな店の店主ともなれば忙しいじゃろう。余計な仕事を増やす訳にはいかぬ」
「気になさらないでください。ユグドラシルベアーを売っていただいたお礼と思ってください。実は既に解体をして、各部位を各所に売る手配をしているのですが…………今の時点でかなり儲けさせていただいております」


 ユグドラシルベアーは店主の想像以上の価値があったらしく、これまで繋がりのなかったところにも売る事ができたらしい。今後の商売に大きな影響をもたらしてくれたと喜び、少しでも金や商品を渡すというだけでなく別の形で感謝を伝えたいと言う。


 そこまで感謝されているとは思っていなかったレイラ。ここで案内は不要と断るのも悪いと思い、案内をして貰う事にした。


 購入するものは主に生活用品。【廃品回収者】でこれまで生活に必要なものを取り揃えて来たが、やはり何らかの問題があって捨てられたものが多い。新たな生活をするにあたって、ちゃんとしたものを揃えるつもりだった。


 ネリオに案内されながら購入するものを決めていると、レイラの足が不意に止まる。


「むっ、服も置いているのじゃな」
「ええ、専門店より数はありませんが子供から大人までのサイズを取り揃えております」
「なるほどのう……ワンワン、ナエ。お主らの服も買っておこう」


 二人はナエの手製のボロ布を繋ぎ合わせた服を着ている。ここで普通の服を購入しておこうとレイラは思ったのであった。ここで買わなくても古着屋で買った方が安いとナエは言うが、やはり年頃の女の子という事もあってか服からは目を離さない。


 レイラは一着くらい新品を購入しようと言って、ワンワンとナエの二人を服の方へと背中を押した。ナエは渋々といった様子で服を選び始めるが、次第にワンワンの意見も聞いて楽しそうに服を選んでいく。


 そんなナエを見て、彼女はまだまだ子供だと思うのだった。まだ子供にも関わらず、いつもワンワンの面倒を見て、食事など家事をしているナエ。


 そんなナエにご褒美をあげたいと思った。それに明日は一人で奴隷商のところに行かせる予定だ。何か励みになるような贈り物がしたいと考え、店内を見渡して、あるものを見つける。


「おお、これなんか良さそうじゃ」


 レイラがそう言って近付いて行ったのは様々なアクセサリーが並んだ棚。ナエに似合いそうなアクセサリーをプレゼントしようと棚へと近付く。


「アクセサリーをご所望ですか?」
「ああ、ナエに……あっちの女の子にのう……」
「服も買われるという事は、もしやあの子達はレイラ様がお引き取りになられるのですか?」
「ん? あっ、ああ、そうじゃ! 二人とも身寄りはないらしく、孤児院に最初は連れて行こうかと思ったのじゃが儂に懐いていてのう。自立できるまで儂が面倒を見る事にしたのじゃ」
「なるほど、お優しいのですね」
「いやいや、そんな事はないのじゃ。あはははは……そ、それよりアクセサリーを選ぶのを手伝ってくれぬか? 儂はこういうのに疎くてのう」


 うっかり設定を忘れていたレイラ。二人を引き取るのかとネリオに尋ねられて一瞬意味が分からなかった。すぐに盗賊から二人を救ったという設定を思い出して話を合わせたおかげか、ネリオは特に気にする事もなくアクセサリーを選ぶのを手伝ってくれるのだった。


「そうですね……あちらの男の子はちなみに女の子とは姉弟なのですか?」
「う、うむ、そうじゃ」
「でしたら、こちらはいかがでしょうか?」


 棚に置かれていたアクセサリーを手に取ってレイラに見せる。
 ネリオの手には二つのネックレス。それぞれ小さな鎖を繋げたものに羽の形をした装飾がついている。唯一違うのは羽の装飾に埋め込まれた石が赤と緑である事だ。


「こちらはうちで作っているアクセサリーになるのですが、親しい間柄の人達がお揃いでつけるものになります。女性向けのデザインという訳でもありませんし、折角ですのでお二人にいかがでしょうか」
「ほぉ……お揃いのアクセサリーか。悪くないのう」
「今はこの二つしかありませんが、良ければレイラ様の分もお作りいたしますよ」
「本当かのう。それじゃあ、もう一つ……いや、三つ頼めるかのう?」
「三つ……ですか?」
「うむ、三つじゃ」


 ネリオはどうして三つも追加注文するのか首を傾げているが、特に追及する事はなく明後日までには用意すると言う。また、二つのネックレスも明後日注文したものとまとめて受け取る事にする。


 こうして家族全員分のネックレスの購入を決めたレイラは、それとは別にナエへとプレゼントを考えるのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品