捨てる人あれば、拾うワン公あり
第9話 ナエは模擬戦をします
意識を失った酔っ払いが、ゲルニドの指示で職員によって運ばれて行く。
「申し訳ない、迷惑をかけた。こいつは罰金に、無償依頼を受けさせる。罰金から少ないだろうが慰謝料を支払わせて貰おう。それで手を打ってはくれないか?」
「ふむ、まあ儂らに被害はなかったが、貰えるものは貰っておこうかのう。それで試験はどうするのじゃ?」
「トラブルはあったが、やらせて貰おう。今ので魔力が心許ないという訳ではないだろう? まあ、あれでもう魔法が使えないとなれば、その時点で登録は認められないが……」
「あれぐらいの魔法なら、魔力の減りは大した事ないぜ!」
その返事に他にも使える魔法があるのかと舌を巻く。魔法は使えても一つしか使えない者が多い。それにも関わらず、ナエの口振りだと魔法を複数使えそうだ。ゲルニドはそう思いながら、模擬戦の相手を探す。
「そうか、分かった。それじゃあ改めて誰か模擬戦の相手になる奴はいないか?」
 呼びかけに応じて  先程のように手を挙げるが、ナエの魔法を見て酒代目当てで軽い気持ちで引き受けようとした者は、割に合わないと判断したのか手を挙げなかった。
    ゲルニドは手を挙げた者の中からナエの模擬戦の相手に適した者を指名する。
「そうだな……おい、サネーヤ。お前が相手してくれるか?」
「分かったわ」
    ゲルニドが指名したのは線の細い女性。木製の杖持ち、白いローブを身に付けた女性で、魔法を主とした戦いをするように見える。
「サネーヤは魔法を使って魔物を討伐する。ガキもそうだろう? 同じ戦闘スタイルで模擬戦をした方が、実力がはっきり分かる。それじゃあ、こっちに来てくれ」
案内された先には、地下へと続く階段が設けられていた。階段を下りるにつれて声や金属音が聞こえて来る。
「この先はどうなっておるのじゃ?」
「地下は戦闘訓練ができるよう、訓練場があるんだ。そこで模擬戦を行う」
つまり階段の先から聞こえて来るのは、訓練をしているギルドの会員のものかとレイラは納得する。
階段を下り切ると、そこには複数人が同時に武器の素振りしても、問題ないほどの空間が広がっていた。何人かのギルド会員が武器を手にして素振りや、模擬戦をしている。
「今から魔法を使った模擬戦をやるから、少し場所を空けてくれ」
そう近くにいた会員に声をかけ、訓練を中断させて模擬戦を行う場所を確保する。
また、ゲルニドが声を掛けた者以外も、いったい誰が模擬戦をするのかと周囲の者も気になり、訓練の手を止めて模擬戦を観戦しようとしていた。
ナエとサネーヤの二人が位置につくのを見て、少なからず周囲の会員達は驚いているようだ。
「あんな子供と模擬戦を? ギルドの登録希望者か?」
「相手はサネーヤって事は、あの子も魔法が使えるのか?」
「それにしても……あんな小さいんじゃ……」
口々に驚き、不安などの感情がチラつく言葉が聞こえて来る。それらを無視して模擬戦の準備を進めていく。
「模擬戦なんだが、二人とも戦闘方法は魔法だ。そこで、その場から動かずに魔法を撃ち合うというのはどうだ? その場から動いたら負けだ」
「私はいいわよ」
「私もいいぜ」
模擬戦の内容に同意したので、ゲルニドは二人から離れて模擬戦の開始を告げる。
「それじゃあ……始め!」
「《グランドーボール》」
先手はサネーヤ。球体状の土の塊を放つ魔法。土の塊といっても硬度は高く、まともに当たれば無傷では済まない。
初見の魔法であったが、ナエは落ち着いていた。ジェノス達との訓練や魔物との実戦で経験を積んだ。更にオワリビトと相対した時と比べれば慌てるほどではない。
「《グランドウォール》《ファイヤーアロー》」
「なっ!」
《グランドウォール》によって土壁が出現し、《グランドボール》を防いだ。まだそれだけなら最初の攻撃を落ち着いて防いだと評価するだけで済んだ。だが、間髪入れず《ファイヤーアロー》を放った事はゲルニドとサネーヤを驚かせた。
魔法を連続使用する場合、少なくとも数秒の間が空いてしまうものなのだ。魔法を使って魔力が減る事により、体内の魔力に乱れが生じる。魔力が安定しないと、再び魔法が使えないものなのである。
だが、それは平均的な魔力の場合だ。ナエの魔力は1,000以上あり、高い為に魔力が減った際の乱れが少ないのだ。
「くうっ……《グランドウォール》!」
ナエの魔法が届く直前で、なんとか魔法が使えるようになり防ぐサネーヤだったが、ナエの魔法はそれで終わりではなかった。
「《ファイヤーアロー》《ファイヤーアロー》《ファイヤーアロー》!」
「ええっ!?」
間髪入れずに魔法を三回連続使用。覚えやすい初級の魔法ではあるが、それは異常だった。
サネーヤは相手は子供と思うのをやめた。相手は自分より格上の存在だと認識して自分の中で、最も強力な魔法を使う事にする。
「これならどう? ……《ファイヤーレイン》!」
無数の火の礫がナエに向かって放たれる。《ファイヤーアロー》は火の礫の前に消失した。
ナエに迫り来る《ファイヤーレイン》。あれを防げるのかと周囲は固唾を飲んで見守るが、次の瞬間レイラとワンワンを除いた全員が自身の目を疑う。
「私も行くぜ! 《ファイヤーレイン》!」
「嘘っ!?」
《ファイヤーレイン》はサネーヤが、たまたま出会った凄腕の魔法の使い手から教えて貰ったもので、使い手は多くない。チェルノの魔物ギルドでは、少なくともサネーヤしか使えないものだ。
だが、ナエも使ってみせた。そのうえ火の礫の数はサネーヤから上回っている。
「そ、そんなっ!? きゃあっ!」
自身の《ファイヤーレイン》と《グランドウォール》で出した土壁では防ぎ切れなかった。
サネーヤは咄嗟に後ろに跳んで避ける。それにより勝負は決した。
「そこまで! ……まさか《ファイヤーレイン》を使えるとはな。ギルドには《ファイヤーボール》や《ファイヤーアロー》といった初歩的な魔法は教えてはいるが……それに魔法の連射まで……」
「驚いているところ悪いがのう。結果はどうなのじゃ? 登録はして貰えるのかのう?」
「ああ……文句なしだ」
「やったぜ!」
「やったぁ! 凄いよ、ナエ!」
「おうっ! ありがとうなワンワン!」
喜ぶナエ。その無邪気に喜ぶ姿は、子供らしさを感じさせた。
そんな姿を見ながらサネーヤはこのような子供が先程まで大人顔負けの魔法を放っていたのかと思い、呆れて溜息を吐く。
「ふうっ……凄いわね。あんなに魔法を使えるなんて……とんでもない子ね……痛っ」
「おい、大丈夫か? 魔法が当たったのか?」
「ううん、ちょっと避けた時に足を捻っちゃったみたい……。少し休めば問題ないわ」
「誰か回復魔法が使えないのか?」
「回復魔法って……そんなの使って貰うほどの重傷じゃないわよ。どれだけお金がかかると思ってるの?」
「そんなにかかるのか?」
「そういえば……ステータスを確認するのも金がかかると聞いたが……」
ナエとレイラの言葉を聞いて、呆れた目でゲルニドは二人に向けた。
「何処の田舎から出て来たのか知らんが、ギルドで教えられるような魔法以外の情報は基本的に秘匿されているからな。使い手が限られていて競争相手もいないから、高い金を要求されるんだ」
「そうなのか…………昔はそんな事はなかったのじゃがのう」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何でもない。それとその足じゃったら儂が治してやろう」
「回復魔法が使えるのか!?」
「魔法ではないのじゃ。【回復力向上】というスキルでのう。人の回復力を向上させて、怪我の治りを早めるのじゃ。ほれ、足を見せてみるのじゃ」
そう言ってサネーヤは靴を脱いで素足を晒すと、レイラは足に触れる。そして触れた部分が光り始め、一分ほどで手を離す。
「どうかのう?」
「……えっ、痛くない! 治っちゃった……」
「……お前達、いったい何者なんだ? 魔法にスキル……正直規格外だぞ?」
「普通じゃよ。それよりも登録の手続きを頼むのじゃ」
「言いたくないのか……まあ、いい。ほら上に戻るぞ」
それ以上ゲルニドは何も聞かず、会員証の発行の為、訓練場を後にするのだった。
「申し訳ない、迷惑をかけた。こいつは罰金に、無償依頼を受けさせる。罰金から少ないだろうが慰謝料を支払わせて貰おう。それで手を打ってはくれないか?」
「ふむ、まあ儂らに被害はなかったが、貰えるものは貰っておこうかのう。それで試験はどうするのじゃ?」
「トラブルはあったが、やらせて貰おう。今ので魔力が心許ないという訳ではないだろう? まあ、あれでもう魔法が使えないとなれば、その時点で登録は認められないが……」
「あれぐらいの魔法なら、魔力の減りは大した事ないぜ!」
その返事に他にも使える魔法があるのかと舌を巻く。魔法は使えても一つしか使えない者が多い。それにも関わらず、ナエの口振りだと魔法を複数使えそうだ。ゲルニドはそう思いながら、模擬戦の相手を探す。
「そうか、分かった。それじゃあ改めて誰か模擬戦の相手になる奴はいないか?」
 呼びかけに応じて  先程のように手を挙げるが、ナエの魔法を見て酒代目当てで軽い気持ちで引き受けようとした者は、割に合わないと判断したのか手を挙げなかった。
    ゲルニドは手を挙げた者の中からナエの模擬戦の相手に適した者を指名する。
「そうだな……おい、サネーヤ。お前が相手してくれるか?」
「分かったわ」
    ゲルニドが指名したのは線の細い女性。木製の杖持ち、白いローブを身に付けた女性で、魔法を主とした戦いをするように見える。
「サネーヤは魔法を使って魔物を討伐する。ガキもそうだろう? 同じ戦闘スタイルで模擬戦をした方が、実力がはっきり分かる。それじゃあ、こっちに来てくれ」
案内された先には、地下へと続く階段が設けられていた。階段を下りるにつれて声や金属音が聞こえて来る。
「この先はどうなっておるのじゃ?」
「地下は戦闘訓練ができるよう、訓練場があるんだ。そこで模擬戦を行う」
つまり階段の先から聞こえて来るのは、訓練をしているギルドの会員のものかとレイラは納得する。
階段を下り切ると、そこには複数人が同時に武器の素振りしても、問題ないほどの空間が広がっていた。何人かのギルド会員が武器を手にして素振りや、模擬戦をしている。
「今から魔法を使った模擬戦をやるから、少し場所を空けてくれ」
そう近くにいた会員に声をかけ、訓練を中断させて模擬戦を行う場所を確保する。
また、ゲルニドが声を掛けた者以外も、いったい誰が模擬戦をするのかと周囲の者も気になり、訓練の手を止めて模擬戦を観戦しようとしていた。
ナエとサネーヤの二人が位置につくのを見て、少なからず周囲の会員達は驚いているようだ。
「あんな子供と模擬戦を? ギルドの登録希望者か?」
「相手はサネーヤって事は、あの子も魔法が使えるのか?」
「それにしても……あんな小さいんじゃ……」
口々に驚き、不安などの感情がチラつく言葉が聞こえて来る。それらを無視して模擬戦の準備を進めていく。
「模擬戦なんだが、二人とも戦闘方法は魔法だ。そこで、その場から動かずに魔法を撃ち合うというのはどうだ? その場から動いたら負けだ」
「私はいいわよ」
「私もいいぜ」
模擬戦の内容に同意したので、ゲルニドは二人から離れて模擬戦の開始を告げる。
「それじゃあ……始め!」
「《グランドーボール》」
先手はサネーヤ。球体状の土の塊を放つ魔法。土の塊といっても硬度は高く、まともに当たれば無傷では済まない。
初見の魔法であったが、ナエは落ち着いていた。ジェノス達との訓練や魔物との実戦で経験を積んだ。更にオワリビトと相対した時と比べれば慌てるほどではない。
「《グランドウォール》《ファイヤーアロー》」
「なっ!」
《グランドウォール》によって土壁が出現し、《グランドボール》を防いだ。まだそれだけなら最初の攻撃を落ち着いて防いだと評価するだけで済んだ。だが、間髪入れず《ファイヤーアロー》を放った事はゲルニドとサネーヤを驚かせた。
魔法を連続使用する場合、少なくとも数秒の間が空いてしまうものなのだ。魔法を使って魔力が減る事により、体内の魔力に乱れが生じる。魔力が安定しないと、再び魔法が使えないものなのである。
だが、それは平均的な魔力の場合だ。ナエの魔力は1,000以上あり、高い為に魔力が減った際の乱れが少ないのだ。
「くうっ……《グランドウォール》!」
ナエの魔法が届く直前で、なんとか魔法が使えるようになり防ぐサネーヤだったが、ナエの魔法はそれで終わりではなかった。
「《ファイヤーアロー》《ファイヤーアロー》《ファイヤーアロー》!」
「ええっ!?」
間髪入れずに魔法を三回連続使用。覚えやすい初級の魔法ではあるが、それは異常だった。
サネーヤは相手は子供と思うのをやめた。相手は自分より格上の存在だと認識して自分の中で、最も強力な魔法を使う事にする。
「これならどう? ……《ファイヤーレイン》!」
無数の火の礫がナエに向かって放たれる。《ファイヤーアロー》は火の礫の前に消失した。
ナエに迫り来る《ファイヤーレイン》。あれを防げるのかと周囲は固唾を飲んで見守るが、次の瞬間レイラとワンワンを除いた全員が自身の目を疑う。
「私も行くぜ! 《ファイヤーレイン》!」
「嘘っ!?」
《ファイヤーレイン》はサネーヤが、たまたま出会った凄腕の魔法の使い手から教えて貰ったもので、使い手は多くない。チェルノの魔物ギルドでは、少なくともサネーヤしか使えないものだ。
だが、ナエも使ってみせた。そのうえ火の礫の数はサネーヤから上回っている。
「そ、そんなっ!? きゃあっ!」
自身の《ファイヤーレイン》と《グランドウォール》で出した土壁では防ぎ切れなかった。
サネーヤは咄嗟に後ろに跳んで避ける。それにより勝負は決した。
「そこまで! ……まさか《ファイヤーレイン》を使えるとはな。ギルドには《ファイヤーボール》や《ファイヤーアロー》といった初歩的な魔法は教えてはいるが……それに魔法の連射まで……」
「驚いているところ悪いがのう。結果はどうなのじゃ? 登録はして貰えるのかのう?」
「ああ……文句なしだ」
「やったぜ!」
「やったぁ! 凄いよ、ナエ!」
「おうっ! ありがとうなワンワン!」
喜ぶナエ。その無邪気に喜ぶ姿は、子供らしさを感じさせた。
そんな姿を見ながらサネーヤはこのような子供が先程まで大人顔負けの魔法を放っていたのかと思い、呆れて溜息を吐く。
「ふうっ……凄いわね。あんなに魔法を使えるなんて……とんでもない子ね……痛っ」
「おい、大丈夫か? 魔法が当たったのか?」
「ううん、ちょっと避けた時に足を捻っちゃったみたい……。少し休めば問題ないわ」
「誰か回復魔法が使えないのか?」
「回復魔法って……そんなの使って貰うほどの重傷じゃないわよ。どれだけお金がかかると思ってるの?」
「そんなにかかるのか?」
「そういえば……ステータスを確認するのも金がかかると聞いたが……」
ナエとレイラの言葉を聞いて、呆れた目でゲルニドは二人に向けた。
「何処の田舎から出て来たのか知らんが、ギルドで教えられるような魔法以外の情報は基本的に秘匿されているからな。使い手が限られていて競争相手もいないから、高い金を要求されるんだ」
「そうなのか…………昔はそんな事はなかったのじゃがのう」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何でもない。それとその足じゃったら儂が治してやろう」
「回復魔法が使えるのか!?」
「魔法ではないのじゃ。【回復力向上】というスキルでのう。人の回復力を向上させて、怪我の治りを早めるのじゃ。ほれ、足を見せてみるのじゃ」
そう言ってサネーヤは靴を脱いで素足を晒すと、レイラは足に触れる。そして触れた部分が光り始め、一分ほどで手を離す。
「どうかのう?」
「……えっ、痛くない! 治っちゃった……」
「……お前達、いったい何者なんだ? 魔法にスキル……正直規格外だぞ?」
「普通じゃよ。それよりも登録の手続きを頼むのじゃ」
「言いたくないのか……まあ、いい。ほら上に戻るぞ」
それ以上ゲルニドは何も聞かず、会員証の発行の為、訓練場を後にするのだった。
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