捨てる人あれば、拾うワン公あり
第1話 聖域脱出
炎上する聖域から脱出しようと走り続けるワンワン達。だが、実際走っているのはクロとジェノスだ。
ナエのステータスを三倍以上高める《ゲランダル》でクロとジェノスは強化され、ナエとワンワンはそれぞれにおぶられていた。ワンワンとナエは魔力切れを起こして意識を失っている。
ワンワンは世界樹に対して火から守る魔法、《リウビアエクス》をかけて莫大な魔力を消費した為。ナエは既に魔力が限界を感じつつも脱出の為に、《ゲランダル》を二人にかけて魔力が尽きてしまったのだ。
「ジェノスさん! 私がワンワンくんも背負うよ! その方が多少速いでしょう?」
「そうかもしれねえが、いざ魔物が出た時に咄嗟に手が出せねえとナエやワンワンが危ねえだろ。俺のステータスでも《ゲランダル》のおかげで充分速い。火が追いつく前には聖域を出れるはずだ。このまま行くぞ!」
ステータスはクロの方が遥かに上だが、元々ジェノスも一般人にしては高い方だ。それに今は《ゲランダル》によって強化されている。効果の継続時間の十分間で聖域を出るまでは叶わなくても、火の手からは充分に逃れる事はできる。
「でも、魔物の気配が全然ないね……いつもだったらとっくに一匹や二匹遭遇しているはずなのに……」
「魔物も逃げてんじゃねえか? そうなると聖域の周囲の街は大騒ぎかもな……いや、そもそも聖域が燃えてる時点で大騒ぎか」
「そうじゃな。街にまで魔物が行かなければいいがのう……」
「おい、喋っても大丈夫なのか?」
「う、うむ……ちと目を開けていると酔うが……目を瞑ればなんとかのう……」
ジェノスの言葉に弱々しい声で応じるレイラ。彼女はジェノス達の速さに合わせて飛んでいた。いや、合わせているというよりは、引っ張られているというのが正しい。レイラはワンワンの守護霊で一定の距離から離れられない。その為、ワンワンがある程度離れると、体が引っ張られるとの事。
それを利用してレイラは移動している訳なのだが、これほどの速度での移動には慣れておらず気持ち悪くなってしまうのだった。暫く目を瞑って黙っていたが、多少は良くなったようだ。
「鎧に【憑依】を使った時の方が速かったと思うが……」
「あれは、そんなに長い時間ではなかったからのう。短時間で済んだうえ、久し振りの戦闘でテンションが上がってたしのう……。まあ、それよりも今後の事じゃが…………何処かあてはあるのかのう?」
「…………正直、まだ考え中だ」
「むっ、幾つか候補があるのかのう?」
「ああ、とりあえずな。金は問題ないから何処かの街で暫く宿をとる事はできる」
ワンワンの【廃品回収者】で回収した魔物の死体、他にも読み終わった本など不要なものかつ、価値のあるものが多くある。これらを売れば数日どころか、一年は余裕で不自由なく暮らせる。
金銭面は問題ない。問題ないのだが……ジェノスを悩ませる最大の問題があった。
「俺やクロは顔が知られてる可能性が高い。中立国と言ってもクロは勇者だ。顔や名前は確実に知られてる。ばれたら人間側が戦場へと戻そうと押し寄せて来るだろうな。そんで俺は」
「死刑場から突如消えた元盗賊団の首領……懸賞金が懸けられているかどうかは分からぬが……手配書が出回っていれば即捕まるだろうのう。下手をすれば儂らも」
「…………だろうな。だから俺は聖域を出たら、お前らと別れ」
「駄目だよ。ワンワンくんが悲しむ」
最後まで言わずにクロが却下する。
それにレイラは苦笑し、ジェノスは溜息を吐きながら「分かっている」と呟く。ジェノスとしてもワンワンとは離れたくはないのだ。
ジェノスはあくまでも今のは案の一つと言いながら、他の案を出す。
「現実的なのは聖域と同じように人が訪れないような場所に住む。だが、これは外に出たワンワンは喜ばないだろう」
閉鎖的な場所から折角出れたのに、またこれまでのように隠れるようにして生活しないといけない。それはワンワンにとっては苦痛のはずだ。みんなで一緒に暮らせるという点では良いかもしれないが、できるだけワンワンが望むような環境が良い。
「他にはなんとか街に姿に住む。俺とクロが変装をして……まあ、これも現実的じゃないな。最初は上手くいったとしてもいずれボロが出る。というか村ならまだしも、街だったら入る前に身分を確認されるから気付かれるだろうな」
「では、今ジェノスが言った村はどうじゃ? 門番がおらぬ村であれば問題なかろう。多少栄えた街と比べれば不便かもしれぬが、人と交わらない生活よりはマシじゃろう」
身元の確認をされずに村には入る事ができる。それに街から離れていれば情報にも疎く、ジェノスやクロの事は知られていない可能性が高い。
レイラの提案は一考する価値があると思ったが、ジェノスは静かに首を横に振る。
「俺も最初はそう思ったんだが、よく考えれば駄目だ」
「ぬ? どうしてじゃ?」
「人の少ない村にこんな一団が住み込んだら絶対に目立つぞ」
「あー、確かにそうじゃのう。家族…………と言っても、正直納得して貰うのは難しいかもしれぬ」
ワンワン達にとっては全員家族だと思っている。
しかし、まるで似ていない者達を見て、全員がワンワン達を家族だと納得してくれるのは難しいだろう。
「村っていうのはよそ者を好奇な目で見るもんだが、俺達は警戒も込めて見られるだろう。いったい何処から来たのか、これまで何をしていたのか……質問攻めにされるうえ、村に住まわせてくれねえかもな」
「前途多難じゃのう……」
「ううむ……おい、クロ。俺が離れる事を速攻で却下したんだ。何か良い案があるんだろうな?」
「えっ、私!?」
半ば八つ当たり気味にクロに案を求めるジェノス。
こういった頭を使う話は向いていないと、話を聞くだけで特に何も考えていなかったクロは必死に思考を働かせる。
そして、なんとか一つの案を絞り出すのだった。
「えっと……私達の事を知らなくて、よそ者でも受け入れてくれる懐の広い街を探したらいいんじゃない、かな?」
「「…………」」
「これでも一生懸命考えたんだよ!」
二人が何も言わず、哀れみさえも感じられる視線を向けるので、クロは涙目だった。
「私があんまり頭が良くないの分かってるでしょ! それなのに意見を求めてさ! どうせ聞いても大した事を言わないんだろうって分かってたでしょ? でも、頑張って考えたんだよ!」
「わ、悪かった……だが、とりあえず聖域からでも勉強はするぞ。今のでもっとお前は勉強をしないといけないとよく分かったからな」
「ジェノスさんの鬼っ!」
引き続き聖域の外でもクロの勉強会が行われる事が決まったところで、再度ジェノスとレイラは移住先の話に戻る。
だが、やはりそう簡単には良い移住先が思いつかない。このままだとワンワンには申し訳ないが、人が滅多に来ないような森の奥などで暮らす事になりそうであった。
「……ふうっ、駄目だな。クロが言っていたように、俺達の事を知らない街でもありゃいいんだが……」
「そんなものある訳ないじゃろ。クロは当然として、ジェノスもそれなりに有名な盗賊だったんじゃろ? そんな二人をまるで知らない街なんて、ある訳が…………のじゃ?」
「? どうしたレイラ?」
「いや、何か思い出しそうになってのう……うむむむむむむむ、のじゃっ! そうじゃ、思い出したぞ!」
「何を思い出したって言うんだ? まさか、良い移住先があるのか?」
期待を込めてレイラを見つめるジェノス。その視線にレイラは微笑んで答えた。
「そうなのじゃ、とっておきの場所があるのじゃ!」
「それは何処だ?」
「どんなところなの、レイラちゃん?」
レイラの発言に、クロまでその場所を早く聞きたいと急かす。
驚く二人を見て満足そうに頷きながら、そのとっておきの場所とやらを口にする。
「それはのう……魔族の国じゃ!」
「「…………」」
無言の二人。だが、気持ちは二人とも一緒だった。「マジ?」と。
ナエのステータスを三倍以上高める《ゲランダル》でクロとジェノスは強化され、ナエとワンワンはそれぞれにおぶられていた。ワンワンとナエは魔力切れを起こして意識を失っている。
ワンワンは世界樹に対して火から守る魔法、《リウビアエクス》をかけて莫大な魔力を消費した為。ナエは既に魔力が限界を感じつつも脱出の為に、《ゲランダル》を二人にかけて魔力が尽きてしまったのだ。
「ジェノスさん! 私がワンワンくんも背負うよ! その方が多少速いでしょう?」
「そうかもしれねえが、いざ魔物が出た時に咄嗟に手が出せねえとナエやワンワンが危ねえだろ。俺のステータスでも《ゲランダル》のおかげで充分速い。火が追いつく前には聖域を出れるはずだ。このまま行くぞ!」
ステータスはクロの方が遥かに上だが、元々ジェノスも一般人にしては高い方だ。それに今は《ゲランダル》によって強化されている。効果の継続時間の十分間で聖域を出るまでは叶わなくても、火の手からは充分に逃れる事はできる。
「でも、魔物の気配が全然ないね……いつもだったらとっくに一匹や二匹遭遇しているはずなのに……」
「魔物も逃げてんじゃねえか? そうなると聖域の周囲の街は大騒ぎかもな……いや、そもそも聖域が燃えてる時点で大騒ぎか」
「そうじゃな。街にまで魔物が行かなければいいがのう……」
「おい、喋っても大丈夫なのか?」
「う、うむ……ちと目を開けていると酔うが……目を瞑ればなんとかのう……」
ジェノスの言葉に弱々しい声で応じるレイラ。彼女はジェノス達の速さに合わせて飛んでいた。いや、合わせているというよりは、引っ張られているというのが正しい。レイラはワンワンの守護霊で一定の距離から離れられない。その為、ワンワンがある程度離れると、体が引っ張られるとの事。
それを利用してレイラは移動している訳なのだが、これほどの速度での移動には慣れておらず気持ち悪くなってしまうのだった。暫く目を瞑って黙っていたが、多少は良くなったようだ。
「鎧に【憑依】を使った時の方が速かったと思うが……」
「あれは、そんなに長い時間ではなかったからのう。短時間で済んだうえ、久し振りの戦闘でテンションが上がってたしのう……。まあ、それよりも今後の事じゃが…………何処かあてはあるのかのう?」
「…………正直、まだ考え中だ」
「むっ、幾つか候補があるのかのう?」
「ああ、とりあえずな。金は問題ないから何処かの街で暫く宿をとる事はできる」
ワンワンの【廃品回収者】で回収した魔物の死体、他にも読み終わった本など不要なものかつ、価値のあるものが多くある。これらを売れば数日どころか、一年は余裕で不自由なく暮らせる。
金銭面は問題ない。問題ないのだが……ジェノスを悩ませる最大の問題があった。
「俺やクロは顔が知られてる可能性が高い。中立国と言ってもクロは勇者だ。顔や名前は確実に知られてる。ばれたら人間側が戦場へと戻そうと押し寄せて来るだろうな。そんで俺は」
「死刑場から突如消えた元盗賊団の首領……懸賞金が懸けられているかどうかは分からぬが……手配書が出回っていれば即捕まるだろうのう。下手をすれば儂らも」
「…………だろうな。だから俺は聖域を出たら、お前らと別れ」
「駄目だよ。ワンワンくんが悲しむ」
最後まで言わずにクロが却下する。
それにレイラは苦笑し、ジェノスは溜息を吐きながら「分かっている」と呟く。ジェノスとしてもワンワンとは離れたくはないのだ。
ジェノスはあくまでも今のは案の一つと言いながら、他の案を出す。
「現実的なのは聖域と同じように人が訪れないような場所に住む。だが、これは外に出たワンワンは喜ばないだろう」
閉鎖的な場所から折角出れたのに、またこれまでのように隠れるようにして生活しないといけない。それはワンワンにとっては苦痛のはずだ。みんなで一緒に暮らせるという点では良いかもしれないが、できるだけワンワンが望むような環境が良い。
「他にはなんとか街に姿に住む。俺とクロが変装をして……まあ、これも現実的じゃないな。最初は上手くいったとしてもいずれボロが出る。というか村ならまだしも、街だったら入る前に身分を確認されるから気付かれるだろうな」
「では、今ジェノスが言った村はどうじゃ? 門番がおらぬ村であれば問題なかろう。多少栄えた街と比べれば不便かもしれぬが、人と交わらない生活よりはマシじゃろう」
身元の確認をされずに村には入る事ができる。それに街から離れていれば情報にも疎く、ジェノスやクロの事は知られていない可能性が高い。
レイラの提案は一考する価値があると思ったが、ジェノスは静かに首を横に振る。
「俺も最初はそう思ったんだが、よく考えれば駄目だ」
「ぬ? どうしてじゃ?」
「人の少ない村にこんな一団が住み込んだら絶対に目立つぞ」
「あー、確かにそうじゃのう。家族…………と言っても、正直納得して貰うのは難しいかもしれぬ」
ワンワン達にとっては全員家族だと思っている。
しかし、まるで似ていない者達を見て、全員がワンワン達を家族だと納得してくれるのは難しいだろう。
「村っていうのはよそ者を好奇な目で見るもんだが、俺達は警戒も込めて見られるだろう。いったい何処から来たのか、これまで何をしていたのか……質問攻めにされるうえ、村に住まわせてくれねえかもな」
「前途多難じゃのう……」
「ううむ……おい、クロ。俺が離れる事を速攻で却下したんだ。何か良い案があるんだろうな?」
「えっ、私!?」
半ば八つ当たり気味にクロに案を求めるジェノス。
こういった頭を使う話は向いていないと、話を聞くだけで特に何も考えていなかったクロは必死に思考を働かせる。
そして、なんとか一つの案を絞り出すのだった。
「えっと……私達の事を知らなくて、よそ者でも受け入れてくれる懐の広い街を探したらいいんじゃない、かな?」
「「…………」」
「これでも一生懸命考えたんだよ!」
二人が何も言わず、哀れみさえも感じられる視線を向けるので、クロは涙目だった。
「私があんまり頭が良くないの分かってるでしょ! それなのに意見を求めてさ! どうせ聞いても大した事を言わないんだろうって分かってたでしょ? でも、頑張って考えたんだよ!」
「わ、悪かった……だが、とりあえず聖域からでも勉強はするぞ。今のでもっとお前は勉強をしないといけないとよく分かったからな」
「ジェノスさんの鬼っ!」
引き続き聖域の外でもクロの勉強会が行われる事が決まったところで、再度ジェノスとレイラは移住先の話に戻る。
だが、やはりそう簡単には良い移住先が思いつかない。このままだとワンワンには申し訳ないが、人が滅多に来ないような森の奥などで暮らす事になりそうであった。
「……ふうっ、駄目だな。クロが言っていたように、俺達の事を知らない街でもありゃいいんだが……」
「そんなものある訳ないじゃろ。クロは当然として、ジェノスもそれなりに有名な盗賊だったんじゃろ? そんな二人をまるで知らない街なんて、ある訳が…………のじゃ?」
「? どうしたレイラ?」
「いや、何か思い出しそうになってのう……うむむむむむむむ、のじゃっ! そうじゃ、思い出したぞ!」
「何を思い出したって言うんだ? まさか、良い移住先があるのか?」
期待を込めてレイラを見つめるジェノス。その視線にレイラは微笑んで答えた。
「そうなのじゃ、とっておきの場所があるのじゃ!」
「それは何処だ?」
「どんなところなの、レイラちゃん?」
レイラの発言に、クロまでその場所を早く聞きたいと急かす。
驚く二人を見て満足そうに頷きながら、そのとっておきの場所とやらを口にする。
「それはのう……魔族の国じゃ!」
「「…………」」
無言の二人。だが、気持ちは二人とも一緒だった。「マジ?」と。
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