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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

天界 世界と話す神様

「……! …………!! ……………………!」
「「「…………」」」


 オワリビトとの戦いが終わり、ライヌが天界へと帰還した。それから三人の天使は神の様子を見守っている。


 先程から神は光を強くしたり、弱くしたり、色が変わったりしていた。ライヌが戻って来た時にはこのような状態だったので、カインとドゥーラに尋ねる。


「なあ、神様は何をしてんだ?」
「世界と交渉をしているみたいなんだ」
「世界と交渉を? オワリビトに関してか?」
「そうだろうね。このままだと、またいつ現れるか分からないし……」


 先程、現れたオワリビトは全部で三体。それだけで済んだが、今後世界は自身を脅かそうとする人間や魔族を消す為に、これからもオワリビトを生み出すだろう。


 神はワンワンを守る為に、世界と交渉しているのだろうとライヌは推察した。


「やっぱり人間と魔族を戦争なんてできねえぐらいに痛めつけた方が良かったか?」
「それは絶対にやっちゃ駄目っ! 今、平和的にその問題を解決しようとしてるんだから大人しくしてくれ!」
「分かってる、冗談だ。それに俺はあの世界から締め出されちまったからな……」
「僕達天使や神様。天界の住人が他の世界で行動するのはできないからね。それは各世界の共通の規則。少しでも活動できただけでも良しとしよう」
「……一つよろしいか?」


 二人の遣り取りを聞いていたドゥーラが不意に口を開く。


「ん? どうしたんだい?」
「いや、申し訳ないんだが……根本的なところがまだ理解できていないのだ」
「根本的なところ?」
「世界について……と言えばいいだろうか。今、神様が世界と交渉しているようだが、神は世界を管理しているような立場ではないのか?」
「ああ、そうか。普通はそういう認識だよね。一度、そこのところを説明しておこうか……」


 オワリビトは世界の意思で生み出される。そして今のライヌとカインの話から、ライヌが戻って来たのも世界の意思。ドゥーラはまだ天界に来てから日が浅くまだ知らない事が多く、世界の仕組みに関しても把握し切れていない。


「まずは、ドゥーラの誤った認識を正そうかな」
「誤った認識?」
「そうだよ。おそらくエンシェントドラゴンだった君だけでなく、他の世界に干渉する事のない人は神様は世界を見守るような存在だと思っているよね。確かに神様は世界を見たり、手助けをしたりする事もある。だけどね、神様は天界という世界の住人の一人でしかない。言ってしまえば世界が違うだけで、君のいた世界の人間や魔族と変わりないんだ」
「っ! 神様は我々と変わりない存在という事ですか? い、いや、それはいくらなんでも……」
「ああ、確かにその力は普通の人と比べれば異常だよ。ただ、それは世界が関係しているんだ」


 分かり易いようにとカインが二回手を打ち鳴らすと、三人の周りに様々な球体が現れる。百は余裕で越えるであろう球体の内、カインの目の前にある真っ白な球体に視線を向けた。


「これが天界だ」
「天界……もしや、他のものは……」
「ああ、他の世界だよ。勿論これは世界そのものじゃないよ。模型だからね」
「ちなみにワンワンの世界はこれだな! ワンワン達の世界は中界って呼ばれてんな」


 ライヌが頭上に浮かんでいる緑色の球体を指さす。中界と呼ばれたその世界は、その名の通り他の世界の丁度真ん中に位置していた。


「世界は上位、中位、下位と分類されてんだ。この世界の位階によって人が変わるな。当然天界は上位だ。あとは同じ上位だと冥界なんかもある。簡単に説明すると、冥界は死後必ず行く世界だ。そこで新たな姿を与えられて別の世界へと飛ばされる。まあ、ドゥーラのような場合もあるがな」
「そうそう、さすがにライヌもそれぐらいは分かってたか」
「おいおい、さすがに覚えてるっての」
「じゃあ、そのままドゥーラに世界の事を説明してあげてよ」
「おう、任せろ。ええっと……こいつがワンワンを捨てやがってクソ野郎どもが住んでる世界で……こっちの黒っぽいのが冥界で……」
「ライヌ個々の世界の事はいいから。今は世界がどういったものかを教えてあげて。あと口悪いよ」


 百以上あろう世界を紹介しようとしたライヌを止める。ライヌは自分がいかに覚えているかを見せたかったようだが、カインの言葉に従って改めて説明を始めた。


「ええっと……どこまで話した? 世界が上位、中位、下位があるって話したか。よし、じゃあその続きからだ。この位階の振り分けはどうやってされてるかっていうと、まず下位は意思を持たない世界だ。いつの間にか生まれて、やがて確実に消える世界だな」
「確実に?」
「そうだ。世界に自分を維持しようという意思がないからな。何もない空っぽな世界で、そこに生まれる生物が好き勝手やってやがて滅ぶ。時々、世界が自我を持ってオワリビトを生み出して存続する事もあるが、そうなったらその世界は中位だ」


 ライヌの話だと下位は意思を持たない世界。中位が意思を持つ世界という事になる。カインがライヌの説明に対して何も言わずに黙っているという事は正しいのだろう。


「それではワンワンや私がいた世界、中界だったな。という事は中位か?」
「そうだ。だがな、ただの中位じゃねえぞ。中位の中でも異質な世界だ」
「異質? 他の世界と何が違うんだ?」
「こんなふうになってんだよ。よっと!」


 今度はライヌが手を打つと世界の模型である球体から光の線が伸びていく。


 その光の線のほとんどは各世界から天界と冥界へと繋がっていった。だが、もう一つ、光の線が集中している世界があった。


「天界、冥界、それから中界に光が集まっている……これは?」
「これは見た通り繋がっている世界を現したもんだ。基本は天界、冥界、そして中界と各世界は繋がってるんだよ。ああ、どうしてこんなふうになっているかは分からねえぞ。神様も知らねえって言ってたし、世界も知らんの一点張りだからな」
「天界や冥界と同様……それでは中界は上位ではないのか?」
「そう思うだろうけど違うんだ。上位に該当するのは、役割を与えられている事なんだ」


 ライヌからカインに説明を引き継いで、カインは再び手を打つ。すると、球体が天界と冥界の二つ以外は全て消えてしまう。その二つはドゥーラの目の前までやって来る。


 白い球体の天界と黒い球体の冥界。その二つを前にカインは説明を始める。


「上位の世界はこの天界と冥界だけなんだ。中位との違いはね、役割がある事だよ。冥界はさっきライヌが言ってたけど、死後に魂のみが送られて、別の姿を与えられて、何処かの世界に送る。これが冥界の役目だね。それで天界……まあ僕達の役割となる訳だけど、僕達は主に中位の世界がオワリビトを出すような事態にならないようにする事だよ。まあ、人を守る為に動くような感じだね。下位の世界の方は、世界の意思とは関係なく完全に自己責任で滅ぶから何もしないんだけど……って、あれ? ドゥーラ、何か言いたそうだけど、どうしたの?」
「いや、その……天界の役割を今初めて知ったのだが…………問題ないか?」
「「……あー」」


 カインとライヌはドゥーラに指摘されて気付く。確かに、最近は全員でワンワンをひたすら見ていて、それらしい仕事はしていない。いや、中界に関しては完璧と断言できるほどしている。だが、ワンワンに夢中で他の世界を最近は見ていなかった。


 一年くらい目を離した事で世界が滅んでいたなんて事はないだろうが、確かに最近は他の世界を確認する事を怠ってしまっていた。


「い、いや、まあ……他の天使もいるしね。うん、まあ大丈夫だよ」
「そ、そうだな。ドゥーラは俺達しか天使と会っていないが、この天界には天使がいっぱいいるからな」


 カインとライヌは必死に取り繕うが、ドゥーラは一度天使として仕事をしようと思うのだった。


「ま、まあ、それは置いておくとして、天界の役割を果たす為に、天使が各世界を見守って他の世界から転生をさせたりして、その世界の改善を図るんだよ。今みたいにオワリビトを出すのをやめて欲しいとかお願いする時には神様の出番だね。神様には世界と会話をする力があるんだ。あるんだけど…………正直、世界は気難しくて自分の判断を曲げないんだよね」
「上位の世界の住人だが、立場的には世界の方が上だからな。世界が決めた規則から逸脱した行為はできないんだ。だから俺が中界で暴れる事ができたのは奇跡だ」
「向こうの世界の住人のスキルによって出現したのなら問題ない……そう思ったんだけど、最後は世界に規則に反していると判断されてしまったみたいだ」
「そうか……世界というのは、我々よりも、神様よりも上位の存在なのだな……」


 自分の思っていた神様の認識を改めるドゥーラ。そして話を聞いていて不安にもなった。おそらく神は中界とオワリビトをこれ以上生み出さないよう、あるいはそれに近い事を要請しているのだろう。だが、世界は気難しい。神からの要請を受け入れない場合は充分にある。


 そんなドゥーラの心中を察したのか、カインは安心させるかのように微笑んだ。


「大丈夫だよ。あそこまで必死な神様は初めてだから、きっとなんとかなるさ」
「そうだろうか……。今の話だと、難しいようだが……」
「確かに今までの事を考えるとね……。でも、中界は上位の世界のように色々な世界と繋がっているせいか分からないけど、話はしっかり聞いてくれるんだ…………ぶっ続けで数日くらい」
「数日!? そ、それは本当に話を聞いてくれているのか?」
「聞いてはいるみたいだよ。ただ、質問が多いらしくて神様は中界と話をするのは疲れるって言ってた」
「たぶん今回も話し合いの結果は数日後だろうな。おそらく世界もその間はオワリビトを生み出す事はしねえだろ。ワンワン達もそれまでに新しい住処を見つけられるといいけどな……」


 ライヌが中界の様子が映る水面へと目を向け、カインとドゥーラもつられて見る。そこにはちょうど聖域を出たワンワン達の姿が映し出されていた。


「神様と中界との話し合いが良い方向で纏まればいいが……」


 ドゥーラはそう心から願うのであった。

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