捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

閑話 ジェノスと読書

「……ん? もう朝か」


 外が明るくなっている事に気付き、読んでいた本を閉じて伸びをするジェノス。


「んんっ……少し寝るか……」


 ワンワン達に勉強を教え、自身は魔法書を読む日々をジェノスは過ごしていた。ワンワンに出して貰った本の中から、魔法書を見つけたジェノスはワンワン達にいずれ教えられるように熱心に読み込んでいた。


 強欲の放浪者グリディ・ノーマッドという盗賊団の元首領。
 ならず者の集まりではあるものの、ジェノスは博識であった。知的好奇心が強く、この時から既に沢山の本を読んでいた。本が好きとも言える。襲った商人が本を持っていれば、それ以外のもの、たとえ宝石などの価値が高いものでも目もくれず、本だけを自分のものにしていた。


 本を読み始めたのは、まだ盗賊団の首領ではなくジェノスが傭兵をやっていた時の事だ。盗賊団になる前は何処にでもいるような普通の傭兵だった。


 まだ傭兵としての経験が浅い頃、先輩の傭兵から野営の際のコツを教えて貰った時の事だった。食べられる野草や茸の説明を受けたのだが、ジェノスが見かける植物の中で、説明には出て来なかった植物が幾つかあった。そこで質問してみると、それは聞いた事がないと返って来る。


 先輩の傭兵もまた過去に先輩の傭兵から聞いたのだった。そこでジェノスは聞いた説明は完璧のものではないと悟る。


 そこで先輩の説明では足りなかった部分を調べようと、知り合いの傭兵に声を掛けてみたが誰も知らなかった。そんな中で、ある親しい傭兵から「本でも読んで調べたらどうだ?」と助言を受ける。


 本というのは貴族、あるいは商人など裕福な一部の者しか持たないもので、その考えはなかったジェノス。


 仲間から聞いてみると、高い保証金を払えば多くの本が読める図書館を知る。そこでジェノスは働いて稼ぎ、図書館へと通うようになった。最初は字を読む事ができなかったが、それも本で覚えた。親切な職員がジェノスに何冊か字を覚えるのに最適な本を教えてくれたのだ。


 こうしてジェノスは読めば知識を得られる本の魅力を知り、読書家になった。


 傭兵の中でも類まれな知識人として、貴族から直接護衛の依頼が来るようにもなり、彼の生活は順風満帆そのもの。だが、彼はやがて盗賊となってしまう。その経緯にについては、今は割愛するが、彼の知識は盗賊になっても役に立った。


「三時間は寝れるか……」


 その場で横になり、目を閉じるジェノス。本を読むのに酷使した目を労わるように、眉間のあたりを揉み解す。そして全身から力を抜いて寝ようとする。


 知識を活かし、盗賊としても上手くやれていたジェノス。しかし、手下からの裏切りに遭い、処刑をされそうになった。最初は勿論、腸が煮え繰り返りそうなほど裏切った手下に殺意さえ抱いていた。


 今でも、それに対しての怒りは変わらない。ただ一つだけ感謝している事があった。


 ワンワンと出会えた事だ。ワンワンと出会い、ジェノスは傭兵や盗賊をしていた時には一度も抱く事はなかった、不思議な気持ちに心が満たされていた。ワンワンが喜んでいるとこちらまで嬉しくなるし、逆に悲しんでいると悲しくなる。


 優しく、家族思いなワンワン。ジェノスにもワンワンは純粋な優しさを与えてくれた。
 そんなワンワンはジェノスにとって初めての心の底から大切にしようと思える存在となったのだ。


 それは本当に偶然であり、裏切りのおかげとは決して言えない。だが、こうしてワンワンと出会う事ができたのは事実で、積極的に裏切りに加担していた者達を殺そうと今では思っていなかった。


 復讐心に燃えるよりも、自分の知識を活かしてワンワンに色々と教えた方が良い。復讐心を誤魔化す訳でもなく、本気でジェノスはそう思っている。


 全身から力を抜き、横たわるジェノス。今日は何を教えようか……そう考えながら眠りにつくのだった。

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