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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第33話 天使の不法投棄がばれたようです

 レイラが気付いたオワリビトのほんの少しの変化。それは指摘されてようやく分かる些細な変化だ。


「ほんのちょっとじゃが……小さくなっておるの」
「……言われてみれば、最初より小さくなってるな」


 レイラやナエが小さくなったと口にし、ジェノスは改めてオワリビトの姿を見て、最初と比べて小さくなっている事を実感する。


 そして、それに気付いたのはこの場にいるジェノス達だけではない。天界でも、その変化に気付いていた。






 ――天界。世界を覗く事ができる水溜まりを神、カイン、ドゥーラは見ていた。


「……これは、いったい」
「《ミソロジィ・シールド》にそのような力があった……という訳では……」


 カインがオワリビトの変化に首を捻るのを見て、ドゥーラはそのような可能性を示唆した。
 元は自身の魔法であったが、オワリビト相手に使った事はない。もしかしたら……と口にしてみたが、カインは首を横に振る。


「それは違うね。確かに凄い魔法だし、ワンワンの魔力も膨大だ。だけど普通の人がどんな魔法を使っても、そこまでの効果は見込めないはずだよ。はずだけど……実際オワリビトの体が小さくなってるんだよね……ん? いや、体が小さくなっているだけじゃない? オワリビトの力が弱まってる……? これって……いったいどうなって……」


 ドゥーラの言葉を否定しようとしたカインだったが、異様な光景に何が起きているのか理解ができず、考えが纏まらない。自身では何が起きているのか理解できない、そう判断したカインは神へと視線を向ける。


「神様……いったい何が起きているんでしょうか? 幾つもの世界でオワリビトが人を滅ぼしていくのを見て来ましたが……あのような事は初めてです」
「………………ワンワンは」


 カインに問われた神は何も言わず水面に映るワンワンを暫く見てから、一つの結論を出した。


「……私たちと同じ」
「同じ? 同じというと……まさか、天使と同じ存在という事ですか?」
「……違う。天使ではない……だけど感じる…………カイン……何かした?」
「い、いえっ! 何もしていません! …………僕は、ですが……」


 カインは神に問われた時、何もしていないと断言する。だが、すぐにライヌの顔が脳裏を過ぎり、彼なら何かした可能性は大いにあると嫌な予感がした。


 だが、そんなカインの不安はすぐに晴れる事になる。


「……違う……誰の手も加えられてない…………ワンワン…………穢れのない、綺麗な魂……」
「そ、それは……どういう……?」
「ワンワンは……元々天界の住人に相応しい…………清い魂……だから……」
「それは……僕達とワンワンは似たような魂だから、オワリビトに有効という事でしょうか?」
「…………そう」


 ライヌに自身で勝手に掛けていた疑いが晴れ、カインは胸を撫でおろす。また、ワンワンの魔法がオワリビトに有効という事が分かり、希望が見えてきたような気がした。しかし、ライヌはすぐにある事に気付く。


 確かにワンワンの攻撃であれば、オワリビトに有効だ。倒す事もできるかもしれない。だが、それは攻撃ができればの話。


 ドゥーラは深く溜息を吐いて、目を瞑る。その表情からは後悔が感じ取れた。


「こうなると分かっていれば、攻撃手段も渡せたのだが……」


 ワンワンは攻撃手段を持っていない。ドゥーラが授けたステータスや魔法は攻撃に関してのものでは一切ない。それはワンワンに人を傷付けるようなものは与えたくない。そんな思いからだ。その思いをジェノス達も汲んで、ワンワンには攻撃に関する魔法は一切覚えさせていない。


 だが、こうした状況になった今、ドゥーラは自分がした事は間違いだったと生前の自分を呪った。


「ドゥーラ、君が責任を感じる事はないよ」
「しかし……攻撃手段の一つや二つ渡しておけば……」
「あの時の君は、オワリビトの事は知らなかった。普通の人や魔物を相手なら、あれで充分だったはずだ。それに」
「ワンワンには……誰かを傷つける力……駄目」
「神様もそうおっしゃられているからね」


 カインと神の言葉を聞いて、それ以上ドゥーラは自分の行いを責めるような事は言わなかった。そういった自分の行いをライヌとカインが評価してくれて天使に、そして神も名前を与えてくれた事を思い出したのだ。


 自分の行いを悪く言う事は、目の前の天使と神を悪く言っているようなものだと気付いた。


「……そう言って貰えると救われる。だが、このままではオワリビトを倒せないのでは? ライヌ殿はまだ新手のオワリビトと戦っていてワンワンのところに戻って来るには時間が掛かる……このままオワリビトが小さくなり続けて、やがて消えるという事はないのか?」


 自分を責めるような事は言わなくなったが、ワンワンを心配する気持ちは変わらない。


 未だに《ミソロジィ・シールド》の光の膜に拳を撃ち込むオワリビトの姿を見て、最良な結果を口にする。だが、それに対してカインは眉間に皺を寄せていた。


「……さすがに防御の魔法で倒すまではいかないと思うよ。オワリビトも馬鹿じゃない。自分の身に起きている事もそろそろ気付くだろうしね」


 そうなればライヌが戻るまで、ワンワンが《ミソロジィ・シールド》を張り続ける事になる。


 だが、そのライヌは新たに現れたオワリビトにてこずっていた。ライヌの方が優勢であり、負ける事はない。だが、最初に現れたオワリビトより一回り大きい巨体を裏切る俊敏さに、追いかけっこ状態になってしまっている。


 《ヘル・フレア》で炎上している聖域の中での鬼ごっこ状態だ。


「放置する訳にもいけないから仕方ないけど……もう少し上手く立ち回って欲しいよ……。それにワンワンの事しか頭にないのか……先に行っちゃったクロも止めてくれないし……」




 新たなオワリビト現れると、すぐに逃げ出してライヌはそれを追い駆けて行ってしまった。おかげでワンワン達を心配して一足先に走って行ってしまったクロは一人で戻っている。引き上げられているステータスが間もなく戻るので、多少時間は掛かるが大した時間を掛けずに辿り着くだろう。だが、今ワンワン達と合流するのは危険だ。


「クロは今、ワンワン達のもとへと戻ろうとしている。だけど今戻れば間違いなくオワリビトは彼女を攻撃するだろうね。《ミソロジィ・シールド》は……」
「むう……二箇所同時に守る事はできないな……」


 自身の使っていた魔法なので、どのような効果があるのか熟知しているドゥーラ。クロに対して《ミソロジィ・シールド》は使えない事が嫌でも理解できてしまい、唸り声を上げた。


 ワンワンが他の魔法を使えば、もしかすると足止め、あるいは攻撃を防ぐ事ができるかもしれない。だが、《ミソロジィ・シールド》ほどの強力な魔法でなければ、いくらワンワンの魔力がオワリビトに有効でも完全には止められないだろう。


「レイラと違って神様が直接呼び掛けて状況を説明する事はできない。そうなるとワンワン達でどうにかクロを助けつつ、ライヌが戻るまでの時間を稼がないと……」
「神様、レイラに私やカイン殿を人形に【憑依】させるというのは……」
「……不可能……世界に、拒まれてしまった……ライヌの魂を……聖域に捨てたのがばれて……」
「そうですか……」
「というか【廃品回収者】で回収できたから、もしや……とは思っていたんですが、ライヌの魂を捨てたという認識だったんですね……」


 ライヌが少々不憫に思えてしまうカイン。後でしっかり神に回収して貰えるのだろうか、そんな心配をしてしまう。


 気を取り直してワンワン達のもとにいるオワリビトの話に戻る。


「ライヌのように僕達を送れないとなると、やはりワンワン達だけで対処して貰わないと駄目ですね」
「………………大丈夫……かもしれない」
「大丈夫、とは? ワンワンのもとへ儂ら送る事ができるのですか?」
「……違う……別の方法…………んっ」


 一瞬だけ神の光が強まった。それは【神の思し召し】のスキルを介してレイラに連絡をした時に見られる光景だ。


「……これで……大丈夫…………だと思う」


 レイラへの連絡を終えた神はそう呟く。安心したような声音にカインとドゥーラも何を伝えたのかは分からないが、不思議と張り詰めていた気が緩んでしまう。


 そして二人は神がいったいどのような指示をしたのかを確認する為に、ワンワン達を映し出す水面に目を落とすのだった。






 ――オワリビトの変化に、首を傾げるジェノス達。


「オワリビトが小さく……どうなってるんだ? 《ミソロジィ・シールド》の力か?」
「儂は魔法に関しては分からぬ。ジェノスの方が詳し、のじゃあっ!?」
「うおっ、どうした!?」
「またか……」


 神からの連絡を受けて、再び悲鳴を上げて頭を抱えるレイラ。
 ジェノスは三度目という事もあって慣れていたが、初めて見たナエは驚くのだった。         

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