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捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第9話 ジェノスに懐くワンワン

 面識のあるクロが中心となって何が起きたのか説明した。ただし、盗賊団“強欲の放浪者”の首領と分かりナエはワンワンの力の事を話すのは不安だった。だが、クロに大丈夫だと説得されて【廃品回収者】の事を含めて伝える。


 そうしてジェノスはようやく自分が死んでいない事を理解した。


「そうか……俺はまだ生きてるんだな」
「そうだよ。ワンワンくんのおかげでね」
「【廃品回収者】なんて聞いた事がねえが……ありがとうな、ワンワン」
「どういたしまして!」


 ワンワンは笑顔で元気がいい。早くもジェノスに打ち解けたようだ。いや、そもそもワンワンには警戒心というものは皆無だった。
 そんな彼を心配そうに見つめるナエが、ジェノスの方を一瞥して呟く。


「“強欲の放浪者”の首領か……」


 “強欲の放浪者”という盗賊団は各国に活動の幅を広げている盗賊団。街の外で出会った時は決して逆わず、金品を渡す。どれだけの護衛を雇っていようと、そうしなければ命はないとされるほどの武闘派の盗賊団。


 盗賊団の首領には懸賞金が掛かっていて、その額は15,000,000シェン。通常盗賊を一人捕縛、殺害で100,000~200,000ほど。それだけでも一ヵ月生活できる。そして名の知れた懸賞首はだいたい5,000,000もいけば高額だ。掛けられた賞金の額から、どれだけ危険視されている存在か窺い知る事ができる。


「ああ、言っておくが元首領が正しい」
「元?」


 ジェノスから訂正が入り、ナエは首を傾げる。
 するとジェノスは険しい表情となった。それはまるで怒りを表に出さないよう必死に内側で留めようとしているふうに見える。


「思い出すたびに腸が煮え繰り返る話だ……。数日前に仲間に裏切られてな……傭兵と結託されて衛兵に突き出された。そんで、公開処刑をされるとこだったんだ」


 公開処刑。莫大な懸賞金が掛けられていた盗賊団の首領にとってはおかしくない話だ。大きな街の広場には処刑専用の舞台が用意されている。大罪人の処刑は一種の催しなのだ。


 しかし、その当人と手の届くほど間近で会話するとなると、処刑という言葉は本来の重みを取り戻す。ナエも何と言えばいいのか分からず口を閉ざす。しかし、クロは違った。


「あっ、奇遇だね。私も仲間に裏切られたんだよ」
「ん? 勇者もか? 公開処刑か?」
「私は悪い事してないから! 普通に仲間に裏切られて呪いを掛けられたんだよ!」
「呪いかよ……それは下手すると俺より酷くないか?」
「公開処刑よりはマシだよー」


 二人揃って笑い声を上げるのを目にして、ナエは少しでも気遣ってしまった自分を後悔する。


「変なところで共感すんなよ……。それにしても公開処刑か……。なあ、直前って言ってたけど、具体的にどのタイミングで回収されたんだ? 牢屋で処刑を待っていたのか?」
「ん? 直前は直前だ。でけぇ斧が首に向かって振り下ろされた時だ」
「真っ最中じゃねえか……」


 困り顔で頭を乱暴に掻くナエ。そんな彼女にクロとジェノスはどうしてそのような反応になるのか分からず首を傾げた。


「え、えっと……ナエちゃん、どうしたの?」
「いや、私やクロと違って、大勢の前から消えたんだぞ。騒ぎになるだろうぜ」


 ジェノスが来る直前に話していた事だ。これまでナエやクロの場合は少人数の前から消えただけなので問題ない。だが、大量のものが街中から一斉に消えればさすがに目立つ。今回は大量に消失した訳ではないが、多くの衆人観衆の前から人が消えたのだ。懸念していた【廃品回収者】によって騒ぎになるかもしれない


 クロはナエの言いたい事を理解し最初は慌てた素振りを見せるが、すぐに平静を取り戻す。


「……でもさ、異変に気付いたとしても、不都合はないと思うよ。誰もワンワンのせいとは思わないだろうし。ちょっとした騒ぎになるとは思うけど……」


 騒ぎにはなるだろうが、クロの言う通り原因がワンワンの【廃品回収者】であるという事は誰にも分からないだろう。指摘されてナエも大騒動になったところで特に問題ない事に気付く。


 クロの気付きから、そもそも捨てたものを回収しても問題はないはずだという考えに至る二人だった。そして、そんな二人の遣り取りが落ち着いたところを見計らってジェノスは声を掛けた。


「そんで、俺をどうする気だ?」
「「…………」」


 その問い掛けにナエとクロは互いの意見を窺うように顔を見合わせる。そして、ワンワンの方に目を向けるのだった。それはまるで選択を託すかのようにも見える。いや、実際ワンワンの意思を尊重しようとしているのだ。


 ワンワンはそんな二人の視線に気付いた訳でもなく、自分の意思でジェノスに近付く。ワンワンが近付いて来る意図が分からなかったジェノスは、怪訝な顔をする。


「ん? 何だ? お前が俺の質問に答えてくれるのか?」
「家族になろうよ!」
「…………は? 家族? どういう事だ?」


 突然のワンワンからの提案に戸惑いを隠せないジェノス。「家族になろう」という要求が荒唐無稽で、何か別の意味があるのではないかと疑ってしまう。言葉の意味そのままとは思わず混乱を極めたのだった。


 そして混乱したままのジェノスの手を握ってワンワンは引っ張り出す。


「まずは遊ぼう! ほら早く! 僕の宝物を見せてあげるから!」
「お、おい……」
「あっ、ワンワンくん、ちょっと待って」


 ワンワンを止めて、クロはジェノスの手枷に手を伸ばす。鉄の鎖の拘束具で一般人であれば鍵で外すしかない。だが、【勇者】のスキルによってこれまで高めて来たステータスでは、容易に素手で破壊する事ができた。


 手枷が破壊され自由となった腕を見てジェノスは呆然とする。


「……いいのか?」
「ジェノスさん悪い人じゃないし、それとワンワンくんが遊びたがってるから……」


 もはや手枷は再びつける事が叶わぬほどに壊れてしまったのだが、クロに念を押すように罪人を自由にしていいのかと確認をした。だが、クロが何かを言う前にワンワンはがジェノスにせっつく。


「早く遊ぼうよ!」
「ふふっ、ジェノスさん。ワンワンくんと遊んであげて」
「……ああ」


 ジェノスは納得していない様子だったが、「遊ぼう、遊ぼう」と手を引っ張られるので、それ以上は何も言わずにワンワンに連れて行かれる。


 少し離れたところでワンワンがジェノスと遊ぶのを暫く見てから、ナエは口を開く。


「おい、大丈夫か? 盗賊を自由にして。ワンワンが危ない目に遭ったりしたら……」
「大丈夫、ジェノスさんは悪い人じゃないから……実は、初めて出会った時、ジェノスさんが率いる“強欲の放浪者”に助けられた事があるんだ」
「勇者が?」


 勇者が助けられるほどの危機。いったいどのようなものかとナエは気になったようだ。だが、勇者はその時の事を思い出すように苦笑する。


「まだ駆け出しの頃ね……。最初の頃はさすがに年の割には戦える程度の実力だったんだ。まだ実戦経験も乏しいからステータスもそんなに伸びてなかったし。だけど、【勇者】のスキルであることから頼りにされてしまって、一人でモンスターを討伐しに向かって……まあ、目的の魔物は討伐できたんだけど、その後がね……」


 記憶を探るように一度目を閉じてから再び語り出す。


「情報にはなかった魔物の大群が現れたんだ。虫系のモンスターで次から次へと湧いて来て……死ぬと思ったね。だけど、そこにジェノスさんが現れて助けてくれたんだ。裏切られたって言ってたけど……その時は他の人も気が良さそうな人達ばかりだったんだけどね……」


 いったい、あれから何があったのか。どうして裏切られるような事になってしまったのかと、クロは口にしなかったが気になっているようだった。ただ、自分のように最初から関係がよくなかった状況と違い、良好な関係だったところからの裏切りだ。


 何があったのか詮索はしない方がいいとクロ、そしてナエも思ったのだった。


 それからジェノスはおもちゃ箱化した格納鞄(国宝)から色々と取り出して、ジェノスに自慢しているようだった。どれも普通の人からすれば大したものではない。だが、ジェノスは話を黙って聞いて、時折頷き、ワンワンの宝物を受け取ったりなど、しっかり遊び相手を務めていた。


 暫くしてからワンワンは嬉しそうにナエとクロのもとへと来た。


「ジェノスね! 名前を書いてくれたんだ! ほら!」


 ワンワンが骨を二人に見せる。そこにはワンワンと、名前が彫られていた。それを見て、ナエとクロは目を見開く。


「……オッサン、文字が書けるのか?」
「凄いね……」


 学べる環境がなければ文字を覚えずに一生を終える事がある世界だ。
 自分の名前ならいざ知らず、他人の名前を書けてしまうジェノスに対して、二人は素直に凄いと言葉を漏らす。


「お前ら……いや、ナエは仕方ないかもしれねえが……。クロ、お前は勇者で国の偉い奴とかと接する機会は多かっただろ? 文書での遣り取りもあったんじゃねえのか?」
「ええっと、その……全部他の人に任せてた……」
「お前……」


 これまで文字を学ぶ機会はあっただろうに、と呆れてしまうジェノス。クロは「勇者は戦えればいいんだもんっ!」と言い張るが、自分で読めなくては嘘を吐かれても気付く事はできない。


 こうしたところから仲間に裏切られる隙があったのではないか。そのようにジェノスは思ったが、自分も人の事は言えないと自重した。


「それとね! ジェノスが色んなことを話してくれてね!」


 それからもワンワンは嬉しそうに報告する。
 その話を聞いていて、ナエはジェノスへの警戒を多少は解くのであった。

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