異世界へ行く準備をする世界~他人を気にせずのびのびと過ごします~

山口五日

第10話 ゴブリンと戦います

「「いただきます」」


 昨夜と同じように厨房で朝食をとる。朝食はトーストにハムエッグだ。


 ただ、朝食といっても既に時間は正午に差し掛かろうとしていた。昨夜のラピスのせいで、すっかり寝坊してしまった。


 昨夜ラピスが裸で俺に跨っていた件。結果としては何もなかった。いや、何もなかったというのは誤解がある。性的な行為は何もなかったと言うべきだ。


 あの後、ラピスに滅茶苦茶マッサージをされた。


 ラピスは俺の魔力を活性化させるツボを刺激して、活動に必要な魔力の補充をしようとしていたのだ。俺に手間を掛けさせないように寝ている時にこっそりするつもりだったらしい。


 ちなみに裸であったのは、肌と肌を接触させた方が魔力の補充が効率よくできるからとの事。服を着て欲しかったが、眠かった事もあってそのまま魔力を活性化させるツボを刺激された。


 ツボを刺激は受ける側としては普通のマッサージだった。魔力を活性化させるツボは全身の様々な箇所にあるらしく癒された。その結果、昼近くまで爆睡だ。


 ただ、一つだけ難点があった。


「んっ……あっ、ひうっ……んんっ! ……ひあうっ、あっ、ああんっ……いうっ!」


「…………」


 仰向け、うつ伏せと変えながら背中、肩、手足など色々なところを揉まれながら、妙に艶めかしい声を出されたのが気になった。


 基本、彼女は声に感情を乗せる事がない。だから余計にその艶っぽい声が色っぽく感じてしまう。


「あっ……こ、これはっ、マスターの、んあぁっ! 魔力の質が……ひやぁっ! んんっ、良くて、ですね……あんっ……私の中にぃ、取り込む時……ひうっ、ひぎぃっ! 暴れるんで、ひやぁぁぁっ……」


 ……という事らしい。


 魔力の補充を終えた後、暗闇の中で浮かび上がるラピスの白い肌が、紅潮していたのが艶めかしく印象的だった。


 あまり見ていると理性が外れかけないと思い、俺は目を閉じて眠りについた。


「マスターどうされましたか? 手が止まっていますが……」


「ん? ああ、いや……今日のこれからの予定を考えていたんだ」


「そうですか……はむっ」


 ラピスはバターを塗ったトーストを大きく口を開けて頬張った。表情は変わらないが、食べている様子から美味しいと思ってくれているのが分かる。


 それに朝食を準備していると、何も言わないもののジッと俺を見ていた。その目は何かを期待するように感じられ、すぐに自分の食事があるのか気にしているのだと分かった。
 マジックドールは食事の必要はない。だが、昨夜の食べっぷりから作った方がいいかどうしようかと考えていた。そして彼女の期待に満ちた目を見て、俺は二人分作る事にしたのだ。


 彼女の前にトーストとハムエッグを乗せた皿を置いた時、顔をほんの僅かに綻ばせたように見えたのは気のせいではないだろう。


 それから朝食を終えると、準備を済ませていよいよ外に出る。建物の外はいつ魔物に襲われてもおかしくない。周囲に魔物はいないかを充分に確認してから外に出た。


「よし、今日はホテルの近くを散策するか。俺は前を注意するから、ラピスは背後を気にしててくれ」


「かしこまりました」


 俺が前を歩き、ラピスがその後ろをついて歩く。ホテルの敷地にはいないようだ。警戒しながら敷地外に出る。


「……とりあえず見える範囲にはいないようだな」


「はい。しかし最低のFランクの魔物でも警戒を怠ってはいけません。個々は弱いですが、数が多い事が特徴です。今のマスターの力なら数体なら相手できると思いますが、仲間を呼ばれたら即時撤退をするべきでしょう」


「分かった。できるだけ逃げ場がないような狭い場所には入らないようにしよう」


 ゆっくり周囲を警戒しながらホテルの周辺の散策を始める。


 そしてホテルを出て十分経たずに、坂の下に一体のゴブリンを見つける。壁に隠れながら坂の上から観察したところ、近くには他の魔物はいない。


「……できればもっと近付いて攻撃を仕掛けたいですね。劣勢と判断するとゴブリンはすぐに仲間を呼びます」


「近付きたいが……。坂の下まで隠れる身を隠せるのは電柱くらいか……」


 ゴブリンが一体だけ。魔物との初戦としては絶好の機会だ。できれば逃したくない。


「盾やマジックバックは置いていく。剣だけ持って一気に近付いて倒す……というのはどうだ?」


「……少々危険はありますが、身軽にしておけば仲間を呼ばれた時にもすぐに逃げられるでしょう。いざという時には剣を捨てて、こちらに戻って来てください。退路は私が確保します」


 ラピスはあまり気乗りしないようだ。できれば俺も安全第一に行動したいが、魔物と一対一で戦う良い機会だ。今回ばかりは少しは無理をしてでも戦ってみたい。いざという時にはラピスの言うように剣を捨ててでも逃げよう。


 俺はマジックバックと盾を地面に置き、剣だけを携えてゴブリンの様子を伺う。こちらを見ていないタイミングで行こう。


「……よしっ」


 俺はゴブリンがこちらに背を向けたタイミングで駆け出した。


 やはり軽トラに乗ってゴブリンを倒した分、魂が強化されているのか体がいつもより軽く感じる。本格的に体を動かしてみると、今までの身体能力との差が実感できた。これならゴブリンが接近に気付く前にかなり距離を縮められる。


「ギッ!?」


 そしてゴブリンが俺に気付いた時には、あと少しで剣が届く距離にまで迫っていた。ゴブリンは仲間を呼ぶのではなく、自身の身を守る為に腰に下げていた錆びた剣に手を伸ばす。


 俺は剣をゴブリンに向かって振り下ろし、ゴブリンは自身の剣で受け止めようとする。


 剣の扱いに関して素人の俺は、不格好ながら力いっぱい剣を振り下ろした。その結果、ゴブリンの剣は容易く折れ、緑の肌を切り裂いた。まるで空振りをしたのかと思えるくらい何も感触がなかった。俺にはそのような力は決してない。この結果は創造神が用意してくれた武器のおかげだろう。


「グギャァッ!」


 深く斬りつけたが血が出る事なく、その場に倒れるゴブリン。
 倒した。不意打ちではあったが初めての魔物との戦いを終える事ができた。


「武器のおかげっていうのもあるが、少し強化されたおかげでゴブリンの身体能力よりは勝っているようだな」


 ゴブリンの動きを見て自分の方が地力は上であると感じた。一対一なら負ける事はないだろう。


 自分の今の実力が、どれだけ戦えるのか、実際に戦ってみてよく分かった。だが、そんな暢気にしている場合ではなかった。


 気付くべきだった。ゴブリンの体が消える事なく、その場に残っている事に。


「ギアァァァァァァァァァァッ!」


「っ! マスター戻ってくださいっ!」


 倒したゴブリンが最後の力を振り絞って悲鳴のような大声を出した。
 その声は何を意味するのか、ラピスはどうして戻るよう言ったのか、すぐに察した。


 仲間を呼んだのだ。

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