異世界へ行く準備をする世界~他人を気にせずのびのびと過ごします~

山口五日

第2話 誰もいない快適な世界

「……さて、どうするか」


 一人きりの世界。それは俺にとっては夢の世界だ。


 ただ、いざそういう世界に来た時、いったい何をすればいいのだろうか分からなかった。


「とりあえず家に帰るか」


 家に帰ろうとして駅に向かう……が、すぐに足を止める。


「電車は動いてないよな」


 人がいないのであれば交通機関は使えない。
自宅の最寄りの駅は二駅先なので歩いて帰る事もできるが……ん?


 運送業者の車と思われるバンを見つける。それは運転席側のドアが開いていて、車内を覗いてみるとキーがついたままだった。


 そういえば俺がいた世界をコピーしたとか言ってたよな。コピーしたタイミング次第で、こんなふうになっていても不思議じゃないか。


「あ、動く」


 試しにキーを回してみるとエンジンが掛かった。


「……俺しか居ないんだし、いいよな?」


 そのまま車を使わせて貰う事にした。大学生の頃に免許を取ってから、一度も運転をする機会がなかったが、他に走っている車はないのでなんとか家まで行く事はできるだろう。


 ちなみに神様の配慮か、走行中の車は取り除いたらしい。路肩に停車する車は見られるが、車道にそれ以外の車はなかった。おかげで安全重視のノロノロ運転だったが、あまり時間を掛けずに到着する事ができた。


「家の中は別に変化はないか」


 とりあえずテレビを点けてみる……電源は入るが番組は何処の局も映らない。


 次にスマホ。机の上に置かれていた。これも電源は入ってもインターネットに繋がらなければ、電話やメールの機能を使う事はできない。日時を確認すると、日付は俺が死んだと思われる8月17日だった。


「俺が居た元の世界には繋がらないって事か……」


 電気や水道は問題ない。だが、外部、この世界の外の情報を得る事はできないようだ。


「とりあえず生活するのに問題はないか……たぶん」


 コンビニやスーパーに行けば食料も手に入る。
 怖いのは病気をした時だが、そこら辺はどうなのだろうか。薬は手に入るが、重い病気にかかってしまえば対処する方法が分からない……まあ、その時はその時だ。


 これは異世界へ行く為の準備をする世界の試運転でもあるのだ。創造神も俺が死んでいく様子を黙って見ているなんて事はしないだろう……しないよな?


 怪我や病気をしないよう気を付けよう。


 そして、もう一つ問題がある。それは与えられた自由時間をどうするか。そういえばどれだけの期間を自由に過ごしていいのか聞いていなかった。


 一週間? 二週間? それとも一ヵ月…………一年とか放置される事はないよな?


 …………まあ、今は深く考えるのをよそう。俺一人だけなら水や食料の消費は抑えられるし、どれだけ長くても飢え死には防げるだろう。たぶん。


 それよりも何をするかだ…………いざ自由な時間を貰っても、何をしようか思いつかないな。ちょっと考えて書き出してみるか。




・ゲーム
・DVD鑑賞
・読書
・旅行




「……これぐらいか?」


 小一時間くらい考えてみたが、これくらいしかなかった。思ったよりも少ないな……。


 他に何かやりたい事はないのか俺?


「でも、実際俺がしたいと思えるのはこれくらいなんだよな……」


 誰かに誘われて色んな事をしてきたが、それはどれも付き合いが悪いと思われたくないから。相手に合わせて行動していたに過ぎない。


 心からやりたいと思えるのは、こうしたものくらいなのだ……。


 だが、よく考えてみれば、ゲーム、DVD、本……膨大な数がある。それこそ、どれだけ時間があっても足りないくらいだ。そう考えると、非常に有効的な時間の使い方ではないだろうか。


「……よし。そうとなれば早速かっぱらってこよう」


 誰も居ないので支払いはしなくていいよな? というか、できないし。


 それから先程の車を乗り回してレンタルショップなどを巡った。とりあえずプレイしてみたいな、観たいな、読みたいなと気になっていた作品を集めた。書店では特に読みたい本が多かったので、一度に運ぶ事が難しく、バックヤードから台車を拝借して車へと運んだ。


 ついでに食料の確保もしようとスーパーにも寄る。冷蔵庫も機能していて、とりあえず生鮮食品も大丈夫そうだ。今後食べられなくなるかもしれないので、肉とか魚は今のうちにたらふく食べよう。


 本日は刺身に焼き肉でパーティーだ。今から気分はウキウキだ。


 そんなふうに合法的にタダで(注・世界に一人しかいない場合以外はしっかりお金を払いましょう!)手に入れた。


 部屋に運ぶのが面倒であったが、なんとか部屋に運び込んだ。


 そして早速読書を開始する。


 …………………………。


 ……………………。


………………。


「……ん? もう夕方か。飯の支度でもするか……と言っても肉を焼くだけだけどな。あとは焼き肉のたれと醤油とワサビがあればいいし」


 調理は焼くだけ。贅沢に焼肉と刺身で腹を満たすと、読書を再開する。


 生きていた時には給料がそこまで高くなかったので、肉と刺身だけで腹を満たすのは、実は密かに憧れていた事だった。安いスーパーの肉と刺身だが、それでも幸福感に俺は満たされる。


 ただ、食後に一つだけ思うのは……米は炊いておくべきだった。ああと瑞々しい野菜も。


 焼肉と刺身で満腹になろうと思って用意していなかったのだが、満腹になっても無性に米と野菜が食べたいと思った。


 極端過ぎる食事をしたせいかバランスのとれた食事を体が欲していた。次から気を付けよう。






 ――それから自分の好きな事をやる日々が続いた。


 この世界に来てから四ヵ月ほど経っただろうか。正直、正確な日数は分からない。なぜなら、この世界はずっと8月17日で止まっていたからだ。


 スマホの日付が変わらない……というだけなら、スマホ自体の問題かもしれないが、この世界で過ごして四日目くらいで気付いた。色々と店で頂戴した商品が減っていないのだ。


 その瞬間を目撃したわけではないので確かな事は言えないが、0時を迎えると8月17日の元の状態に戻るのだと思う。


 ただし、拝借したDVDや車は元の場所に戻るわけではないので、完全に元に戻るというわけではないようだ。


 この仕組みのおかげで、刺身が未だに食べられている。この仕組みが維持されている限りは、食料に困る事はないだろう。


 ちなみにゴミ捨て場にゴミを持って行けば、次の朝を迎えると綺麗さっぱり消えている。


 本当によくできた世界だと思う。創造神には感謝だ。


 そして本日は俺が世界に来て、最初に居た場所である会社の最寄りの駅前にあるメインストリートに来ていた。たまにはゲームセンターで遊ぼうかと思い、大きなゲームセンターがあるメインストリートに来たのだ。


 だが、珍しく俺は急遽予定を変更する事になる。


『久し振りだね。一ノ瀬康太君』


 およそ四ヵ月ぶりに創造神の声が頭に響いた。

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