ボッチが駆使する過去と未来、彼女らが求める彼との未来〜ゲーム化した世界では、時間跳躍するのが結局はハーレムに近いようです〜
1章 こんにちは、未来
その後、校舎を出る際にも幾つかの死体に出くわした。
それらは腕が一本欠けたもの、両足がないもの、他、四肢全てがもげているものなど、俺の精神衛生レベルを引き下げるバリエーションに事欠かないものばかりだった。
壁や床を血が飛沫となって汚している。
暫く歩くと、見慣れた職員室、偶にちらと目にする用務員室などがあった。
何とか自分の所属する学校の校舎であると確信を持つ。
だが、中を覗いてもそこに生者は一人もいなくて……。
窓から差し込む光の色と相まって、怪談にでも出て来そうな不気味な校舎の様相を呈している。
そして外から見た外観は、まるで世紀末にて置き去りになった廃校舎だった。
『喧嘩上等!!』などの文字の代わりに、単なる血があちらこちらにシミとなって壁を模様づけている。
「さて、と……――っ!!」
今いる校舎を出て、3年生が使う校舎へと足を向けようとした時、ふと頭の中に機械の音声が鳴った。
<未来へ渡航後 5分 が経過しました。――残り滞在時間 25分 です>
何だ、この頭の中に直接語り掛けて来るタイプは!?
これは、テレパシーか!?
誰かが俺に念を送って――なわけないか。
自分で即座にその考えを棄却して、歩きながら考え込む。
俺自身が『機械の音声』という風に評した通り、これは特定の誰か、というよりはゲームであるガイドのようなものだろう。
それか、システムボイスみたいなもんか。
そして、その告げられた内容を鑑みるに、いよいよこの世界がゲームみたいにモンスターや魔法なんかが現実化したと考えた方がよさそうだ。
夢なら夢で、楽しめばいいじゃないか。
だって人間だもの……。
……うん、適当な考えは一度封印して、真剣に考えよう。
俺は、今、未来にいると。
――そんなファンタジー要素が溢れる現実世界で、SF要素も混じって未来に来ている、ということなのだろうか?
え、じゃあ、もしかしたら、あの夢っぽかった俺の死も、実は現実だったりして……。
いやいや、そんなことはないでしょう。
そんなことは、無いでしょうよ。
そんな、ことは…………。
…………………………マジか。
俺は今起こっていること、そして夢のような中で見たあの、ヤンキー染みたオッサンやヒョロっちぃ男に刺された光景を思い起こす。
あれ、現実かも知れないのかぁ。
「そうすると……よくはわからないが、そんなに暢気にブラブラしてもいられないってことか」
確認するかのように独りごちると、俺は向かう先を変更することにした。
夢の中の世界のような出来事だったが、そこで同じように告げられた言葉を思い出す。
『<『第一項、第二項』が確定。『第三項』――【到達未来可能性】を算定します……80%。同時に【渡航距離】算定……6日間。算定した渡航時間が限界値を迎えました。限界値を渡航時間とみなします>』
そして、自身が装着している腕時計に目を落とす。
『10月17日 (水) PM 0:33』。
俺がいるのは、6日後の10月17日。
そして滞在していられるのは、30分間、か。
その30分が経過すれば、俺は、現実世界に戻ることが出来る。
そして、おそらくは保健室にいる筈だ。
もし俺が死んだかもしれない、そして何故か生きている、更に言えば未来にまで来ちゃっているというとんでも状況に置かれている、としたら。
何が起きているか、情報収集は必須。
そんな中、この未来(仮)で動き回れるのは30分、いや、もう25分か。
時間は貴重だ。
行動は絞った方がいいな。
一旦整理しよう。
①もしかしたら、俺、一回死んでるかも。それが事実なら、現実世界がモンスターやら何やらが出現して、おかしな世界になっている、というのも事実に。
②保健室で寝たら、よく分らん声が聞えて、何かの能力か、未来(仮)にいた。
③現状、凄惨な死体を除き、人らしき人は見当たらず。だが、謎のヤバそうな遠吠えは聞えた。生物はいるらしい。
④ということは、ここは、もしかしたら、モンスター達が出現した世界の6日後、じゃね?
⑤結論:あれ? …………人類、駆逐されてね?
…………うそん。
「…………グルルルルルッ」
「ガルルルルゥ……」
校門を出て右側の道路を進もうとした所、恰も先の嫌ぁな考えを後押しするかのように、見たことのない生物が。
もう鳴き声からして狼系統の生物を凶暴化したような奴らだった。
というか、『鳴き声』なんて言い方だと可愛らしいニュアンスを与えてしまうが、実際は全くそんなことはない。
俺は即座に校門に逆戻りして姿を隠し、盗み見る。
体は虎かライオンかと思われるほどの大きさをしている。
青白い毛並みから覗く体格はしなやかでいて、その牙も合わせて力強さ、獰猛さを思わせる。
口からこぼれ落ちている唾液には何だか赤色の液体が混じっているように見えた。
十中八九あれは本人の血液ではない。
彼等の足元付近には、今にも動きだしそうな鮮血迸る独立した人体の右腕君。
……何だろうなぁ、嫌だなぁ、怖いなぁ。
――そう言えば、今日のラッキーアイテムは『左腕に関するもの』だったな。
うん、別にあの右腕と運命を共にしたくないとか、美味しく頂かれることが脳裏に浮かんだとか、そんなんじゃないから。
人間が魚の骨までバリバリ美味そうに食べる時の如く、俺も骨までバリバリ食われちゃうかもとか、全然思ってないから。
さっと無残な右腕から視線を逸らし、校門の左側道路を窺うと…………。
「シュルルルッ!! シャァァ!!」
「シャッ!! シャルァァ!!」
蛇に手足が生えた、どこかトカゲを連想させるモンスターが長い長い舌を這わせていた。
だがやはりこちらも体の大きさが異常で、巨木の丸太程もありそうな全身だ。
きっと人間も丸呑みOKなのだろうなぁ。
その先には、四肢と首の上が失われた、達磨のような胴体が。
蛇のような、トカゲのようなモンスターが胴体に近づき、舌で一舐め。
――ジュゥゥゥ、という音を立てて触れた部分から溶けて行く。
そして半分ほどまで溶けた肉塊を、大きく開けた口でガブリと一飲み。
まるで人間がステーキを食べる際、ナイフとフォークで食べやすいサイズに切り分け、そうして美味しくいただく動作のように。
……………………。
――おっと、間違えた。
そうだそうだ、俺、今日の占い『他の人の食事を見ておなかが一杯になっちゃうかも!! 食事風景は見ないが吉!!』だったわぁ。
あぶねぇ。
そうだよね、蛇さんも食事はするもんね、うん。
誓って、最近は肉食系モンスターが増えてて餌になる方も大変だなぁとか、俺も『餌』のカテゴリーに入っちゃうなぁとか…………うん、全然思ってないよ?
あの舌、めっちゃ人体溶かすやん! とか、蛇のお腹辺りから酸で溶かしたような音聞えるやん!! とか、これっぽっちも、欠片も思ってないから。
ジュワァァァって、肉を焼く時だけに聞こえる音だと思ってたが、人体を溶かす際にも適用されるらしい。
…………そろそろベジタリアンなモンスター、出て来ないかな。
新しい発見を得て賢くなった俺は、今のは見なかったことにして、首を道路の真正面に。
「ブルルルルッ」
「ブルッ!! ブルルル!!」
――鼻息荒めの牛擬きモンスターが。
胴体は白黒キメて穏やかさを表現してる癖して、猛牛の如く立派な角を二本兼ね備えているというアンバランスさ。
奴らは何か意図したと言うわけでもないだろう。
自然に歩く動作を行っただけ。
だが歩き出したそこに、瞳孔が開ききった人間の頭部が落ちていた。
それを奴らが踏みつけた時――ブチュッ。
――トマトにプレス機をかけたかのような見事さで、赤い汁が飛び散る。
モンスターはチラッと下を覗くと、「あ、またやっちった」位の軽さで首を上げる。
踏んだ奴とは別の牛擬きは、視線を投げただけで、頭部のその後には一切興味を示さない。
へぇ~。
食べないんだ、良かったじゃん。
……………………………………。
俺は視線を下に落とし、しゃがみ込んでそっと頭を抱えた。
――なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
バケモンばっかじゃねぇか!!
えっ、なんでこんな強そうなモンスターばっかりなの!?
俺、食われるか食われるか踏まれるかしか選択肢ないんだけど!?
そういえば今日の占い12位だったわ!!
クソがッ!!
どの道選んでもバットエンド不可避!!
これぞ現実の圧倒的理不尽さ!!
これでモンスターが出現するようになった世界、という確信こそ得られたものの、こんなに早くも目前に死が迫って来るとは!!
もう未来やだ、お家帰る!!
現実に戻して!!
俺の悲痛な叫びを聞き届けてくれたのか、丁度その時警告音のようなものとともに、また脳内にアナウンスが。
おおっ、信じてました!!
して、返答は!?
<未来へ渡航後 10分 が経過しました。――残り滞在時間 20分 です>
――無慈悲っ!!
圧倒的無慈悲っ!!
テメェのことなんざ知らねぇよクソ野郎とばかりに告げられた残酷な残り時間。
未来へ来れる、とか今のところ全然良いことねぇんだけど!!
俺、現状に翻弄されて、未だ何もできず頭抱えてるだけなんですけど!!
後20分もこうしてろと!?
鬼ですか!?
俺はもう未来に絶望しか感じない。
駄目だぁ、お終いだぁ……。
……ついでだ、俺と一緒に世の中全部滅びろと悲観論を頭の中で念じていた。
……だが。
「――ガァァァァァ!!」
またあの咆哮が聞えて来た。
外に出るとよく分るが、とんでもない声量で叫んでいるようだ。
今回のそれは、とりわけ大きさが増しているように感じる。
声自体は離れた所から響いて来るのに、ここら一帯の空気がピリピリしているのが伝わって来る。
そしてふと視線を辺りに巡らせた。
「……おっ?」
あの存在だけで俺を苦しめたモンスター達が、一斉に引き揚げ始めた。
モンスター達は一度だけ揃って声のした方へと首を向けたが、それを終えるとすぐさま離れ始める。
何だろう、声の発信源を中心にして、そこから出来るだけ離れて行くような。
石を水面に投げ込むと、そこを中心に波紋が広がって行くだろう?
あんな感じかな。
できるだけ、モンスター達はあの声とは関わりたくない、とりわけ今回の大声を聞いて、逃げた方がいい、そう感じたような。
……しばらく様子を見ていると、完全に校門からモンスター達の姿は見えなくなった。
生き物の気配も遠のいて感じられなくなる。
俺の姿にすでに気づいていて、あえて油断させるために、という風でもなかった。
「一先ず、目先の危険は回避できたか……」
思わず安堵の息を吐く。
だがそれでもあの周囲の空気が肌にヒリリとする感覚は残っていた。
これから、どうするか……。
声のした方向・大きさからして物凄く遠方、ということもなさそうだ。
頭の中にある市内の地図を記憶の抽斗から引っ張って来る。
方角・届いた声量、そしてモンスター達が逃げて行こうとした方向からして……。
――運動公園か。
おそらく、声の主や爆発音など元凶らは市内の運動公園付近にいる。
駅からは徒歩20分、うちの学校からは10分の距離に県保有の運動公園がある。
広大な土地に、体育館、剣道・柔道場、サッカーやラグビーが出来る運動場などが設置されている。
市民にも開放されており、平日休日関係なくジョギングや運動で汗をかこうと訪れる人達も多い。
付近の学校は運動会・体育祭などをここで催すところも少なくない。
現にうちは年に春・秋の二度、運動公園の施設を借りて、生徒達は運動に汗を流し青春の1ページにそれを刻む。
……ちなみに俺は、入学やクラス替え後、生徒達間の親睦を深める意味合いが強い春のスポーツ大会、3年連続欠席記録の樹立を目指して奮闘中である。
秋はって?
……知らない子ですね。
<未来へ渡航後 15分 が経過しました。――残り滞在時間 15分 です>
考え込む俺の頭に、機械的に告げる声が割込んでくる。
ふむ、丁度半分か。
ここから走って行っても運動公園までには7~8分はかかると思う。
仮に何らかの危険があるとしても、残り時間を調整すればいいんじゃないか?
例えば、目の前に危機が迫って来たとしても、残り1分切っとけば即帰れる。
……まあこの音声や今未来にいる、という仮定を全部信じるなら、だが。
――結局はここから動かなければ安全なんだろうが、それじゃ何も分からない。
冒険心ということではなく、むしろ恐怖心から、俺は声の方へ――運動公園へと向かうことに決める。
だって、こんな訳の分からない状況下で、自分の周囲で何が起こっているか一切分からないんだぜ?
自分の身に何が起きているか分からなければ対策の立てようがない。
誘拐された人が、誘拐犯がどういう人物か、自分が今どういう状況に置かれているかを調べようと行動する心境みたいなものだろうか。
ヤバいと分かれば身の安全を確保に苦心すればいい。
おそらく、今現状問題というか、重要地点というのは運動公園だ。
俺は意を決して校門から足を動かし始めた。
それらは腕が一本欠けたもの、両足がないもの、他、四肢全てがもげているものなど、俺の精神衛生レベルを引き下げるバリエーションに事欠かないものばかりだった。
壁や床を血が飛沫となって汚している。
暫く歩くと、見慣れた職員室、偶にちらと目にする用務員室などがあった。
何とか自分の所属する学校の校舎であると確信を持つ。
だが、中を覗いてもそこに生者は一人もいなくて……。
窓から差し込む光の色と相まって、怪談にでも出て来そうな不気味な校舎の様相を呈している。
そして外から見た外観は、まるで世紀末にて置き去りになった廃校舎だった。
『喧嘩上等!!』などの文字の代わりに、単なる血があちらこちらにシミとなって壁を模様づけている。
「さて、と……――っ!!」
今いる校舎を出て、3年生が使う校舎へと足を向けようとした時、ふと頭の中に機械の音声が鳴った。
<未来へ渡航後 5分 が経過しました。――残り滞在時間 25分 です>
何だ、この頭の中に直接語り掛けて来るタイプは!?
これは、テレパシーか!?
誰かが俺に念を送って――なわけないか。
自分で即座にその考えを棄却して、歩きながら考え込む。
俺自身が『機械の音声』という風に評した通り、これは特定の誰か、というよりはゲームであるガイドのようなものだろう。
それか、システムボイスみたいなもんか。
そして、その告げられた内容を鑑みるに、いよいよこの世界がゲームみたいにモンスターや魔法なんかが現実化したと考えた方がよさそうだ。
夢なら夢で、楽しめばいいじゃないか。
だって人間だもの……。
……うん、適当な考えは一度封印して、真剣に考えよう。
俺は、今、未来にいると。
――そんなファンタジー要素が溢れる現実世界で、SF要素も混じって未来に来ている、ということなのだろうか?
え、じゃあ、もしかしたら、あの夢っぽかった俺の死も、実は現実だったりして……。
いやいや、そんなことはないでしょう。
そんなことは、無いでしょうよ。
そんな、ことは…………。
…………………………マジか。
俺は今起こっていること、そして夢のような中で見たあの、ヤンキー染みたオッサンやヒョロっちぃ男に刺された光景を思い起こす。
あれ、現実かも知れないのかぁ。
「そうすると……よくはわからないが、そんなに暢気にブラブラしてもいられないってことか」
確認するかのように独りごちると、俺は向かう先を変更することにした。
夢の中の世界のような出来事だったが、そこで同じように告げられた言葉を思い出す。
『<『第一項、第二項』が確定。『第三項』――【到達未来可能性】を算定します……80%。同時に【渡航距離】算定……6日間。算定した渡航時間が限界値を迎えました。限界値を渡航時間とみなします>』
そして、自身が装着している腕時計に目を落とす。
『10月17日 (水) PM 0:33』。
俺がいるのは、6日後の10月17日。
そして滞在していられるのは、30分間、か。
その30分が経過すれば、俺は、現実世界に戻ることが出来る。
そして、おそらくは保健室にいる筈だ。
もし俺が死んだかもしれない、そして何故か生きている、更に言えば未来にまで来ちゃっているというとんでも状況に置かれている、としたら。
何が起きているか、情報収集は必須。
そんな中、この未来(仮)で動き回れるのは30分、いや、もう25分か。
時間は貴重だ。
行動は絞った方がいいな。
一旦整理しよう。
①もしかしたら、俺、一回死んでるかも。それが事実なら、現実世界がモンスターやら何やらが出現して、おかしな世界になっている、というのも事実に。
②保健室で寝たら、よく分らん声が聞えて、何かの能力か、未来(仮)にいた。
③現状、凄惨な死体を除き、人らしき人は見当たらず。だが、謎のヤバそうな遠吠えは聞えた。生物はいるらしい。
④ということは、ここは、もしかしたら、モンスター達が出現した世界の6日後、じゃね?
⑤結論:あれ? …………人類、駆逐されてね?
…………うそん。
「…………グルルルルルッ」
「ガルルルルゥ……」
校門を出て右側の道路を進もうとした所、恰も先の嫌ぁな考えを後押しするかのように、見たことのない生物が。
もう鳴き声からして狼系統の生物を凶暴化したような奴らだった。
というか、『鳴き声』なんて言い方だと可愛らしいニュアンスを与えてしまうが、実際は全くそんなことはない。
俺は即座に校門に逆戻りして姿を隠し、盗み見る。
体は虎かライオンかと思われるほどの大きさをしている。
青白い毛並みから覗く体格はしなやかでいて、その牙も合わせて力強さ、獰猛さを思わせる。
口からこぼれ落ちている唾液には何だか赤色の液体が混じっているように見えた。
十中八九あれは本人の血液ではない。
彼等の足元付近には、今にも動きだしそうな鮮血迸る独立した人体の右腕君。
……何だろうなぁ、嫌だなぁ、怖いなぁ。
――そう言えば、今日のラッキーアイテムは『左腕に関するもの』だったな。
うん、別にあの右腕と運命を共にしたくないとか、美味しく頂かれることが脳裏に浮かんだとか、そんなんじゃないから。
人間が魚の骨までバリバリ美味そうに食べる時の如く、俺も骨までバリバリ食われちゃうかもとか、全然思ってないから。
さっと無残な右腕から視線を逸らし、校門の左側道路を窺うと…………。
「シュルルルッ!! シャァァ!!」
「シャッ!! シャルァァ!!」
蛇に手足が生えた、どこかトカゲを連想させるモンスターが長い長い舌を這わせていた。
だがやはりこちらも体の大きさが異常で、巨木の丸太程もありそうな全身だ。
きっと人間も丸呑みOKなのだろうなぁ。
その先には、四肢と首の上が失われた、達磨のような胴体が。
蛇のような、トカゲのようなモンスターが胴体に近づき、舌で一舐め。
――ジュゥゥゥ、という音を立てて触れた部分から溶けて行く。
そして半分ほどまで溶けた肉塊を、大きく開けた口でガブリと一飲み。
まるで人間がステーキを食べる際、ナイフとフォークで食べやすいサイズに切り分け、そうして美味しくいただく動作のように。
……………………。
――おっと、間違えた。
そうだそうだ、俺、今日の占い『他の人の食事を見ておなかが一杯になっちゃうかも!! 食事風景は見ないが吉!!』だったわぁ。
あぶねぇ。
そうだよね、蛇さんも食事はするもんね、うん。
誓って、最近は肉食系モンスターが増えてて餌になる方も大変だなぁとか、俺も『餌』のカテゴリーに入っちゃうなぁとか…………うん、全然思ってないよ?
あの舌、めっちゃ人体溶かすやん! とか、蛇のお腹辺りから酸で溶かしたような音聞えるやん!! とか、これっぽっちも、欠片も思ってないから。
ジュワァァァって、肉を焼く時だけに聞こえる音だと思ってたが、人体を溶かす際にも適用されるらしい。
…………そろそろベジタリアンなモンスター、出て来ないかな。
新しい発見を得て賢くなった俺は、今のは見なかったことにして、首を道路の真正面に。
「ブルルルルッ」
「ブルッ!! ブルルル!!」
――鼻息荒めの牛擬きモンスターが。
胴体は白黒キメて穏やかさを表現してる癖して、猛牛の如く立派な角を二本兼ね備えているというアンバランスさ。
奴らは何か意図したと言うわけでもないだろう。
自然に歩く動作を行っただけ。
だが歩き出したそこに、瞳孔が開ききった人間の頭部が落ちていた。
それを奴らが踏みつけた時――ブチュッ。
――トマトにプレス機をかけたかのような見事さで、赤い汁が飛び散る。
モンスターはチラッと下を覗くと、「あ、またやっちった」位の軽さで首を上げる。
踏んだ奴とは別の牛擬きは、視線を投げただけで、頭部のその後には一切興味を示さない。
へぇ~。
食べないんだ、良かったじゃん。
……………………………………。
俺は視線を下に落とし、しゃがみ込んでそっと頭を抱えた。
――なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
バケモンばっかじゃねぇか!!
えっ、なんでこんな強そうなモンスターばっかりなの!?
俺、食われるか食われるか踏まれるかしか選択肢ないんだけど!?
そういえば今日の占い12位だったわ!!
クソがッ!!
どの道選んでもバットエンド不可避!!
これぞ現実の圧倒的理不尽さ!!
これでモンスターが出現するようになった世界、という確信こそ得られたものの、こんなに早くも目前に死が迫って来るとは!!
もう未来やだ、お家帰る!!
現実に戻して!!
俺の悲痛な叫びを聞き届けてくれたのか、丁度その時警告音のようなものとともに、また脳内にアナウンスが。
おおっ、信じてました!!
して、返答は!?
<未来へ渡航後 10分 が経過しました。――残り滞在時間 20分 です>
――無慈悲っ!!
圧倒的無慈悲っ!!
テメェのことなんざ知らねぇよクソ野郎とばかりに告げられた残酷な残り時間。
未来へ来れる、とか今のところ全然良いことねぇんだけど!!
俺、現状に翻弄されて、未だ何もできず頭抱えてるだけなんですけど!!
後20分もこうしてろと!?
鬼ですか!?
俺はもう未来に絶望しか感じない。
駄目だぁ、お終いだぁ……。
……ついでだ、俺と一緒に世の中全部滅びろと悲観論を頭の中で念じていた。
……だが。
「――ガァァァァァ!!」
またあの咆哮が聞えて来た。
外に出るとよく分るが、とんでもない声量で叫んでいるようだ。
今回のそれは、とりわけ大きさが増しているように感じる。
声自体は離れた所から響いて来るのに、ここら一帯の空気がピリピリしているのが伝わって来る。
そしてふと視線を辺りに巡らせた。
「……おっ?」
あの存在だけで俺を苦しめたモンスター達が、一斉に引き揚げ始めた。
モンスター達は一度だけ揃って声のした方へと首を向けたが、それを終えるとすぐさま離れ始める。
何だろう、声の発信源を中心にして、そこから出来るだけ離れて行くような。
石を水面に投げ込むと、そこを中心に波紋が広がって行くだろう?
あんな感じかな。
できるだけ、モンスター達はあの声とは関わりたくない、とりわけ今回の大声を聞いて、逃げた方がいい、そう感じたような。
……しばらく様子を見ていると、完全に校門からモンスター達の姿は見えなくなった。
生き物の気配も遠のいて感じられなくなる。
俺の姿にすでに気づいていて、あえて油断させるために、という風でもなかった。
「一先ず、目先の危険は回避できたか……」
思わず安堵の息を吐く。
だがそれでもあの周囲の空気が肌にヒリリとする感覚は残っていた。
これから、どうするか……。
声のした方向・大きさからして物凄く遠方、ということもなさそうだ。
頭の中にある市内の地図を記憶の抽斗から引っ張って来る。
方角・届いた声量、そしてモンスター達が逃げて行こうとした方向からして……。
――運動公園か。
おそらく、声の主や爆発音など元凶らは市内の運動公園付近にいる。
駅からは徒歩20分、うちの学校からは10分の距離に県保有の運動公園がある。
広大な土地に、体育館、剣道・柔道場、サッカーやラグビーが出来る運動場などが設置されている。
市民にも開放されており、平日休日関係なくジョギングや運動で汗をかこうと訪れる人達も多い。
付近の学校は運動会・体育祭などをここで催すところも少なくない。
現にうちは年に春・秋の二度、運動公園の施設を借りて、生徒達は運動に汗を流し青春の1ページにそれを刻む。
……ちなみに俺は、入学やクラス替え後、生徒達間の親睦を深める意味合いが強い春のスポーツ大会、3年連続欠席記録の樹立を目指して奮闘中である。
秋はって?
……知らない子ですね。
<未来へ渡航後 15分 が経過しました。――残り滞在時間 15分 です>
考え込む俺の頭に、機械的に告げる声が割込んでくる。
ふむ、丁度半分か。
ここから走って行っても運動公園までには7~8分はかかると思う。
仮に何らかの危険があるとしても、残り時間を調整すればいいんじゃないか?
例えば、目の前に危機が迫って来たとしても、残り1分切っとけば即帰れる。
……まあこの音声や今未来にいる、という仮定を全部信じるなら、だが。
――結局はここから動かなければ安全なんだろうが、それじゃ何も分からない。
冒険心ということではなく、むしろ恐怖心から、俺は声の方へ――運動公園へと向かうことに決める。
だって、こんな訳の分からない状況下で、自分の周囲で何が起こっているか一切分からないんだぜ?
自分の身に何が起きているか分からなければ対策の立てようがない。
誘拐された人が、誘拐犯がどういう人物か、自分が今どういう状況に置かれているかを調べようと行動する心境みたいなものだろうか。
ヤバいと分かれば身の安全を確保に苦心すればいい。
おそらく、今現状問題というか、重要地点というのは運動公園だ。
俺は意を決して校門から足を動かし始めた。
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