ボッチが駆使する過去と未来、彼女らが求める彼との未来〜ゲーム化した世界では、時間跳躍するのが結局はハーレムに近いようです〜
序章4
「ありがと、また来てね」
「……ども」
人生山あり谷あり過ごしてきた風格を漂わせる老店主に軽く頭を下げ、古本屋を後にする。
本を読むような殊勝な習慣があるわけではないが、あの店主の落着く雰囲気についつい次回も足を向けたくなる。
何というか、あの良いも悪いもすべてを含めて包み込んでくれるオーラ。
だって店内で本を手に取り眺めていた時も、見守るような暖かい視線を感じるんだもん。
きっと色々経験してきたんだろう。
本を買う以外にも、何か学べるところがあるのではないかとの思いが心のどこかにあるんだと思う。
他者と交わる機会がほぼ0に等しいボッチにとって、こうして社会の先達から学べる機会は貴重なのだ。
あの雰囲気を肌で感じ学べるのなら、わざわざ足を運んで一冊の本にお金を払うとしてもお釣が来るだろう。
うむ、貴重な社会経験である。
……決して嘘をついたことが尾を引いてるから言い訳めいたこと言ってるとかではないんだよ?
友達とかがいたらあんな即バレしそうな嘘吐かなくても済んだのに……とか全然思ってないんだよ?
はぁ、独りで何の弁解を繰り広げてんだか。
独り者特有の脳内会話を展開し終える。
ふと首を上げると、空に黒いカーテンが引かれ始めていることに気づく。
もうこんなに暗くなってるのか……。
思った以上に本屋に長居してしまっていたようだ。
今度はデジタルな安物の腕時計に視線を落す。
『10月11日 (木) PM 4:59』……とすると少なくとも40分以上は店内にいたのか。
そこまで大きくない古本屋だ、なかなか本を買わないくせして長居されるというのは気のいいものではないだろう。
……そうするとあの店主が注いでいた視線の意味も変わって来る。
俺は近くにあった小雑貨屋のガラス扉を見やる。
そのガラスには一人の青年の姿が映っている。
世の中全てのことを疑っていそうな濁り気のある目、髪は少しだけ目にかかる位だがどこか陰気さを思わせる。
ストライクッ!!
そこそこ背はあるのだが猫背気味に曲っていて、それが性格のひん曲がり具合を連想させる。
ストライクッ、ツー!!
それらすべてを合せ見た結果、そのイケメン(当社比)青年から醸し出されるなんとも胡散臭い雰囲気。
ストライクッ、スリー!! バッターアウト!!
そしてもしもの場合にかけられる店主からの温かな言葉を想像する……。
『大丈夫、若いんだ、今からでもまだやり直せるよ――だから、そのカバンの中、ちょっと出してみようか』
その後青年は何とか白黒の車から舞い降りた正義の執行人に誤解を訴えるも、生来の口下手が災いして……
『うん、分かった、君の言いたいことはわかったから――だから、正直に言おうか。お店の人も、謝ってくれたら事を大きくしないって言ってくれてるし』
俺の人生ゲームセット!!
クソっ。
あの店主め。
穏やかな風格漂わせる人格者を装って、実は未来ある青年を絶望させることに愉悦を感じる性格破綻者だったとは。
まったく、俺じゃなければ危うく見逃すところだったぜ。
俺は学校では独りであれこれとしなければならなかったからな、嘘を見抜くのには一日の長がある。
皆さんも一家に一人、火渡影時をいかがでしょう。
幸運な壺や絶対将来値上がりすると謳って土地の購入を勧めて来る人達には、この火渡影時、絶大な効力を発揮します!!
彼らを一人残らず職業安定所の常連にすることをお約束しましょう!!
※使用上の用法用量:ただし、火渡影時はちょっぴり恥ずかしがり屋です。目を合せないことや口ごもることもあります。雰囲気が怪しい奴のように感じることもあります。
そういう時は携帯の1のボタンに手をかける前に一歩踏みとどまって、温かい目で見守ってあげてください。
…………すいません、店主さん、嘘ですごめんなさい。
全部俺の妄想です。
はぁ、帰るか。
心の中であの人好きしそうな老店主に謝罪し、切り替えて家に向けて足を動かそうとした。
――瞬間。
「――えっ?」
――空を覆い始めていた黒いカーテンに、それを打ち払うかのように大きな光の玉が突如出現した。
それは瞬く間にその範囲を広げ、俺だけでなく周り全ての視界を奪う。
「ッつ、何だ!?」
あまりの眩さに思わず両腕で目を隠す。
だが、閉じた目にその残像が消えるか消えないか程で、目蓋の裏は異常事態が過ぎ去ったことを知らせる。
恐る恐る守るようにして構えていた腕を解き、見えてしまった霊が嘘か幻覚であったことを確認するかのようにその両目を開いた。
「…………は? え? んな!!」
最初こそ目が慣れず視界が戻るのに少々の時間を要した。
しかし、慣れた両目がとらえたものは、俺の脳が一瞬理解するのを拒むほどの光景だった。
先ほどまで黒に染まろうとしていた空一杯に広がっていたのは、毒々しい紫だった。
一滴で生物全てを殺してしまう毒の瓶をぶちまけたような、そんな色をしていた。
それなのに先ほどまでの薄暗さはどこにもなく、紫とピンクの中間のような明りが辺り全体に差し込んでいた。
遥か先にある山の輪郭までこの視界に収めることができる。
今一応5時、だったよな……。
俺はどこか幻覚をもたらす霧にでも包まれた心境で周囲の様子を窺った。
「――って、うぉっ!?」
自分以外人はいなかったはずの通りに、いつの間にか気味の悪い体色をした存在が一体。
10mあるかないかの距離にそいつは立っていた。
「キィシャァ!」
うお、びっくりした。
「驚かすなよ……」
そいつは110~120㎝位の背丈で、人語を発してはいなかった。
今なんて言ったんだろう。
貴様ぁぁ? ちっきしょお? ししゃもぉ?
……分からん。
体を纏うのは薄汚れた布切れ一枚。
こんな突然よく分らない状況になり、よく分らない存在の出現。
突然のアクシデントなんかがあったら、自分はもっと混乱して取り乱すものと思っていたが存外冷静であった。
何ならしっかり目の前の生物(?)の観察すらしている。
黒ずんだ緑色をしていて、なんとも体調の悪そうな色である。
なあんだ、ちょっと驚きはしたけど、意外と自分もしっかりしてるんじゃないか。
「シャ、シャチャウゥ!」
ほらっ、その証拠に。
今の言葉もしっかりと聞き取れたし。うん、社長って言った。
あいつ多分クビを宣告されたんだぜ社長自ら……ごめん、それは適当に考えた。
それにあいつの手にしっかりと握られている、きらりと光を反射するナイフもキチンと見えてる。
おっ、でもその先っぽは何だか赤黒い糊のようなものがべっとりとついてるな。
ははん、おいおい、さては食事中だったな? 口からも赤い液体が零れ落ちてるぜ?
さっき発した奇声の折りに口から零れ落ちたのは……ずばり、羊か何かの動物の肉と見た!!
ふっふっふ、今ならアフリカの人々と視力検査を競っても負ける気がしないぜ。
いや、クイズ番組もいいところまでいけるかもしれない。
自分の潜在能力がここまであったとは、自分の才能が怖くなるぜ!!
死んだばあちゃんも言ってたからな。『影時は天才やねぇ。こりゃ将来が楽しみやわぁ』ってな。
ちなみにそのばあちゃんの部屋に『褒めて伸ばそう 内気な子供を明るくする育て方』との本があった、なんてことは……。
記憶にございません。
その前後の記憶が曖昧でして……。
俺の記憶は俺に都合の良いように忖度してくれるのだ。
ふむ、政治家にも向いてるかもしれん……。
「キッ、シャ、シャッマァ!!」
――さて、そろそろ現実を見ようか。
自分の知識通りとはいかないが、大方想像からは外れない、人ではない姿をした生物。
おそらく、これを見た人の10人中9人はその通称を思い浮かべることが出来るだろう。
そいつの名は――
「へっ、へへ、ど、どうも、ゴブリンさん、本日はどういったご用件で……」
「キッシャァアア!!」
「うっわ!?」
この野郎、人が揉み手して低姿勢でいたら襲ってきやがった!!
日本語が通じやがらねぇ!!
やべぇよ、あのナイフの黒光りするの、絶対血だよ。
あの目は俺のことただの餌か搾取対象としか見てない目だよ。
誰かぁぁぁぁ、ゴブリ〇スレイヤーさん呼んで来てぇぇぇぇぇ!!
「……ども」
人生山あり谷あり過ごしてきた風格を漂わせる老店主に軽く頭を下げ、古本屋を後にする。
本を読むような殊勝な習慣があるわけではないが、あの店主の落着く雰囲気についつい次回も足を向けたくなる。
何というか、あの良いも悪いもすべてを含めて包み込んでくれるオーラ。
だって店内で本を手に取り眺めていた時も、見守るような暖かい視線を感じるんだもん。
きっと色々経験してきたんだろう。
本を買う以外にも、何か学べるところがあるのではないかとの思いが心のどこかにあるんだと思う。
他者と交わる機会がほぼ0に等しいボッチにとって、こうして社会の先達から学べる機会は貴重なのだ。
あの雰囲気を肌で感じ学べるのなら、わざわざ足を運んで一冊の本にお金を払うとしてもお釣が来るだろう。
うむ、貴重な社会経験である。
……決して嘘をついたことが尾を引いてるから言い訳めいたこと言ってるとかではないんだよ?
友達とかがいたらあんな即バレしそうな嘘吐かなくても済んだのに……とか全然思ってないんだよ?
はぁ、独りで何の弁解を繰り広げてんだか。
独り者特有の脳内会話を展開し終える。
ふと首を上げると、空に黒いカーテンが引かれ始めていることに気づく。
もうこんなに暗くなってるのか……。
思った以上に本屋に長居してしまっていたようだ。
今度はデジタルな安物の腕時計に視線を落す。
『10月11日 (木) PM 4:59』……とすると少なくとも40分以上は店内にいたのか。
そこまで大きくない古本屋だ、なかなか本を買わないくせして長居されるというのは気のいいものではないだろう。
……そうするとあの店主が注いでいた視線の意味も変わって来る。
俺は近くにあった小雑貨屋のガラス扉を見やる。
そのガラスには一人の青年の姿が映っている。
世の中全てのことを疑っていそうな濁り気のある目、髪は少しだけ目にかかる位だがどこか陰気さを思わせる。
ストライクッ!!
そこそこ背はあるのだが猫背気味に曲っていて、それが性格のひん曲がり具合を連想させる。
ストライクッ、ツー!!
それらすべてを合せ見た結果、そのイケメン(当社比)青年から醸し出されるなんとも胡散臭い雰囲気。
ストライクッ、スリー!! バッターアウト!!
そしてもしもの場合にかけられる店主からの温かな言葉を想像する……。
『大丈夫、若いんだ、今からでもまだやり直せるよ――だから、そのカバンの中、ちょっと出してみようか』
その後青年は何とか白黒の車から舞い降りた正義の執行人に誤解を訴えるも、生来の口下手が災いして……
『うん、分かった、君の言いたいことはわかったから――だから、正直に言おうか。お店の人も、謝ってくれたら事を大きくしないって言ってくれてるし』
俺の人生ゲームセット!!
クソっ。
あの店主め。
穏やかな風格漂わせる人格者を装って、実は未来ある青年を絶望させることに愉悦を感じる性格破綻者だったとは。
まったく、俺じゃなければ危うく見逃すところだったぜ。
俺は学校では独りであれこれとしなければならなかったからな、嘘を見抜くのには一日の長がある。
皆さんも一家に一人、火渡影時をいかがでしょう。
幸運な壺や絶対将来値上がりすると謳って土地の購入を勧めて来る人達には、この火渡影時、絶大な効力を発揮します!!
彼らを一人残らず職業安定所の常連にすることをお約束しましょう!!
※使用上の用法用量:ただし、火渡影時はちょっぴり恥ずかしがり屋です。目を合せないことや口ごもることもあります。雰囲気が怪しい奴のように感じることもあります。
そういう時は携帯の1のボタンに手をかける前に一歩踏みとどまって、温かい目で見守ってあげてください。
…………すいません、店主さん、嘘ですごめんなさい。
全部俺の妄想です。
はぁ、帰るか。
心の中であの人好きしそうな老店主に謝罪し、切り替えて家に向けて足を動かそうとした。
――瞬間。
「――えっ?」
――空を覆い始めていた黒いカーテンに、それを打ち払うかのように大きな光の玉が突如出現した。
それは瞬く間にその範囲を広げ、俺だけでなく周り全ての視界を奪う。
「ッつ、何だ!?」
あまりの眩さに思わず両腕で目を隠す。
だが、閉じた目にその残像が消えるか消えないか程で、目蓋の裏は異常事態が過ぎ去ったことを知らせる。
恐る恐る守るようにして構えていた腕を解き、見えてしまった霊が嘘か幻覚であったことを確認するかのようにその両目を開いた。
「…………は? え? んな!!」
最初こそ目が慣れず視界が戻るのに少々の時間を要した。
しかし、慣れた両目がとらえたものは、俺の脳が一瞬理解するのを拒むほどの光景だった。
先ほどまで黒に染まろうとしていた空一杯に広がっていたのは、毒々しい紫だった。
一滴で生物全てを殺してしまう毒の瓶をぶちまけたような、そんな色をしていた。
それなのに先ほどまでの薄暗さはどこにもなく、紫とピンクの中間のような明りが辺り全体に差し込んでいた。
遥か先にある山の輪郭までこの視界に収めることができる。
今一応5時、だったよな……。
俺はどこか幻覚をもたらす霧にでも包まれた心境で周囲の様子を窺った。
「――って、うぉっ!?」
自分以外人はいなかったはずの通りに、いつの間にか気味の悪い体色をした存在が一体。
10mあるかないかの距離にそいつは立っていた。
「キィシャァ!」
うお、びっくりした。
「驚かすなよ……」
そいつは110~120㎝位の背丈で、人語を発してはいなかった。
今なんて言ったんだろう。
貴様ぁぁ? ちっきしょお? ししゃもぉ?
……分からん。
体を纏うのは薄汚れた布切れ一枚。
こんな突然よく分らない状況になり、よく分らない存在の出現。
突然のアクシデントなんかがあったら、自分はもっと混乱して取り乱すものと思っていたが存外冷静であった。
何ならしっかり目の前の生物(?)の観察すらしている。
黒ずんだ緑色をしていて、なんとも体調の悪そうな色である。
なあんだ、ちょっと驚きはしたけど、意外と自分もしっかりしてるんじゃないか。
「シャ、シャチャウゥ!」
ほらっ、その証拠に。
今の言葉もしっかりと聞き取れたし。うん、社長って言った。
あいつ多分クビを宣告されたんだぜ社長自ら……ごめん、それは適当に考えた。
それにあいつの手にしっかりと握られている、きらりと光を反射するナイフもキチンと見えてる。
おっ、でもその先っぽは何だか赤黒い糊のようなものがべっとりとついてるな。
ははん、おいおい、さては食事中だったな? 口からも赤い液体が零れ落ちてるぜ?
さっき発した奇声の折りに口から零れ落ちたのは……ずばり、羊か何かの動物の肉と見た!!
ふっふっふ、今ならアフリカの人々と視力検査を競っても負ける気がしないぜ。
いや、クイズ番組もいいところまでいけるかもしれない。
自分の潜在能力がここまであったとは、自分の才能が怖くなるぜ!!
死んだばあちゃんも言ってたからな。『影時は天才やねぇ。こりゃ将来が楽しみやわぁ』ってな。
ちなみにそのばあちゃんの部屋に『褒めて伸ばそう 内気な子供を明るくする育て方』との本があった、なんてことは……。
記憶にございません。
その前後の記憶が曖昧でして……。
俺の記憶は俺に都合の良いように忖度してくれるのだ。
ふむ、政治家にも向いてるかもしれん……。
「キッ、シャ、シャッマァ!!」
――さて、そろそろ現実を見ようか。
自分の知識通りとはいかないが、大方想像からは外れない、人ではない姿をした生物。
おそらく、これを見た人の10人中9人はその通称を思い浮かべることが出来るだろう。
そいつの名は――
「へっ、へへ、ど、どうも、ゴブリンさん、本日はどういったご用件で……」
「キッシャァアア!!」
「うっわ!?」
この野郎、人が揉み手して低姿勢でいたら襲ってきやがった!!
日本語が通じやがらねぇ!!
やべぇよ、あのナイフの黒光りするの、絶対血だよ。
あの目は俺のことただの餌か搾取対象としか見てない目だよ。
誰かぁぁぁぁ、ゴブリ〇スレイヤーさん呼んで来てぇぇぇぇぇ!!
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