人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

法国と魔国

「本来ならかなり歩かなければならないのですが、皆さんなら急いでも大丈夫のようですね」

 しばらく様子を見るように歩いていたソレーユが、そう言ってペースを大幅に上げた。
 普通ならすぐに置いていかれるペースだが、ミツキたち4人は普通ではないため、軽々とついていける。

「しばらく歩きますから、その間に質問などあればどうぞ。聞きたいこともあるでしょうから」

「じゃあ私からいい?」

「なんでしょう、邪神さん」

「その言い方やめなさい。メリアよ。っていうか、なんで私の中に邪神がいるなんてわかったの?」

「そんなの、見たからに決まっています。見ればわかるのです」

「法国の人間はみんなそうなわけ?」

「いえ、ハッキリとわかるのは私だけです。ほかの方は、ぼやっとわかるだけと言っておりました」

「ふーん。ねえ、あんたに斬られた時、私は力が抜けた気がしたんだけど、あれってなにかしたの?」

 ソレーユに切断された腕の力は戻ったものの、若干の違和感が残っている。

「当たり前でしょう。私の炎は太陽神様の炎。邪神さんを斬れば斬るほど、その力を失わせられます」

「それほんと!?」

「本当ですが……あまり寄らないでください。私が貴女をこの場で殺さないのは、ミツキ様がいるからなのですから」

 距離を詰められたソレーユは露骨に嫌そうな顔をし、後ずさる。
 ミツキの仲間だから、という理由で手出しこそしないが、メリアのことは嫌いらしい。

「なら、私の中の邪神を祓うこともできるわよね?」

「もちろん出来ますけど、やりませんよ。疲れますから」

「っ……そこをなんとかお願い。邪神を祓える方法なんて、他には知らないの」

「嫌です……と、言いたいですが、別のやり方を教えるのは構いません。帰ってから教えてさしあげますよ」

「わかったわ、ありがとう」

 納得して距離をとったメリアとのやり取りを見ていたヨハンは、少し意外そうに口を開く。

「はー、お前みたいな信者は邪神が憑いてるやつにとにかく冷たいと思ってたが、そうでもないんだな?」

「勘違いのないように言いますが、別に邪神さんは嫌いじゃありません。戦った時に分かりましたが、随分努力家のようですし。ですが、生理的に無理なのです」

「そういうもんかねぇ」

 イマイチ理解はできないようで、ヨハンは首を傾げる。

「理解は必要ありません。それよりも、邪神さん。他にも聞きたいことがあるんですよね」

「あ、そうそう。それなんだけど……」

 ここからの質問は言いづらいことなのか、ちらりとヨハンに視線を送る。

「あ? ああ、俺はちょっと先に行くぞ。お前らのスローペースに合わせるのは、逆に疲れるからな」

 その視線の意味を察したヨハンは、そんな言葉を残して走っていった。

「ヨハンってお人好しよね」

「良い奴だからな。メリア、話ってのは俺のことでいいんだよな?」

「そうよ。ちゃんと説明しなさい」

「なになに? 私にも関係ある話?」

「そうだな……とりあえず、俺は人間じゃないんだ」

「はえ?」

 何を言ってるのかわからない、そんな表情でソフィアは変な声を出してしまった。

「やはり! 太陽神様なのですね!」

「半分正解だ。俺は半人半神なんだよ」

「私もソフィアもわからないし、もっと詳しく説明してほしいわ」

「そうだな、せっかくだし包み隠さず全部話すことにするよ」

 目を爛々と輝かせるソレーユ、しっかりと聞く気のメリア、混乱しているソフィア、そんな3人にミツキは自分の生い立ちを説明し始めた。

 元は人間だったこと、死んで天界に送られ太陽神の権能を渡されたこと、そしてこの世界で異常が起きており、それを解決するために来たこと。
 自分が知っていることの、全てを3人に話した。

「ーーと、こんな感じだ」

「壮絶な人生してるわね」

「お互い様だろ。ソフィアも理解してくれたか?」

「うーん、完璧にわかったわけじゃないけど、それなりに! けどけど、別に何も変わらないよね」

「秘密はこれでなくなったし、ちゃんと仲間になれたわね。だいたい、なんで話さなかったのよ」

「俺は神様です、とか言うわけないだろ」

「それもそっか」

「けどまあ、お前らならそう言ってくれるよな。ありがとう」

「私たちはみんな訳ありだからね」

「ミツキ様、1つだけいいでしょうか?」

「答えられる範囲なら答えるよ」

 内心態度が変わるのではないか、と心配していたミツキが安心していると、ソレーユが何かを聞きたそうに口を開いた。

「ミツキ様が4つの権能を持っている、というのは本当でしょうか」

「嘘はつかない。俺は2つしかまだ使えないけど4つ与えられたって聞いてる」

「では、ミツキ様こそが唯一の太陽神様……ああ、私はなんと幸福なのでしょうか。きっと日頃の祈りが通じたのですね」

 ミツキの回答を聞いたソレーユは、今までに見たこともないほど蕩けた顔をしており、あまりに緩んだ口から唾液が垂れている。

「ソレーユ? 大丈夫か?」

「はっ! 申し訳ありません。つい興奮してしまいました」

 我に返ったソレーユは口元を拭い、表情も元に戻そうとしているようだが、どうしても口元が緩んでしまうようだ。

「じゃあ俺からも聞きたいんだけど、ソレーユは一体……」

「前でヨハンが止まってるわね」

「あ、ほんとだ。着いたのかな」

「ミツキ様、質問はまた後でお聞きします。到着しましたので」

「ああ、わかった」

 どうやらかなり走っていたようで、前方に立ち止まっているヨハンを発見し、4人は合流する。

「よう、ミツキ。ここが目的地か?」

「そうらしいけど、何かあったのか」

「見りゃわかる」

 促された方向を見れば、そこは崖で眼下では広い大地が見渡せる。
 そしてそこには、争う2つの軍勢が見えた。

「これは……」

「スール様がミツキ様の頼みを断ったのは、これが理由です。私たちジュア法国は現在、魔国に侵略されているのです」

「そうか、だから魔国の幹部があんなところにいたんだな」

「あそこまで攻めてくるのは特殊ですが、首都に打撃を与えたかったのでしょう」

「なっるほどなぁ。にしても、かなり押されてるな」

 ヨハンの言う通り、魔国と法国の軍は魔国がかなり押しているように見える。

「頭数が違いますので。向こうはこちらの3倍近い数がいます。さらに魔国は、ウナアーダ側から攻めてきています」

「つまり、これを突破しないとウナアーダには行けないんだな」

「突破とは言うけどな、さすがに数が多すぎるだろ。こりゃきついぞ」

 いくらミツキ達が強者といえど、戦争は質よりも数。
 さらに敵には幹部という手練も最低1人はいる。
 これを覆すのは難しい。

「ご安心ください」

 どうするものか、と考える4人の前にソレーユが歩み出る。

「あの魔国の軍勢を殲滅するために、私が案内役として来たのです。ミツキ様、ソレーユの活躍をとくとご覧ください」

 アピールするようにそう言い、ソレーユは両腰の剣を引き抜き、崖を駆け下りて行った。

「随分好かれてんのな、ミツキ様」

「その呼び方やめろ、鳥肌立つから。ほら俺らも行くぞ」

「あいよっと」

「私も私も、頑張るよ!」

「ソフィアは落ち着いて、崖から転落しないようにするのよ」

 それに続き、4人も崖を下り争いへと身を投じる。

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