人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

謁見

「鎧は動きにくいわね」

「うー、重いよ〜」

「謁見する間だけだし、我慢しとけ。ほら、そろそろ行かないと」

 白を退けた後、無事に王都に到着したミツキたちは、城へと招待された。
 というのも、フレーリア防衛戦で目覚しい活躍を残した3人を、ソレル王国の国王陛下が直々に労いの言葉をかけたいと言ったらしい。
 これは非常に栄誉なことで、謁見の際には形だけでも良くするため、戦士団の正式な鎧を着ることになった。

「どうだ、騎士に見えるか?」

「違和感ね」

「違和感だね」

「同じ感想持つなよ」

 3人ともバッチリ鎧を着て、ガチャガチャと音を鳴らしながら国王陛下の待つ場所へ向かう。
 巨大な扉の前には数人の兵士と、サクレットが待っていた。

「ちゃんと鎧を着ているな。国王陛下は既に中で待っている。礼儀作法はわかるか?」

「ある程度は」

「一応」

「わかんないよ!」

「それもそうか。国王陛下は細かいことを気にするお人ではない。ちゃんと敬意を持って膝をつけば、それだけでいい」

「わかりました」

「敬意、敬意ね」

「はーい」

「では、扉を開こう」

 それぞれ答えを返し、いよいよ国王陛下へ謁見する時が来た。
 両開きの扉を兵士がゆっくりと開き、赤い絨毯の敷かれた道、そしてその先の玉座に初老の男性が座っている。

「よく来てくれました。フレーリアを救った勇気ある若者よ。私がソレル王国の王、アンリ・モンタン・ソレルです」

 金髪の髪に青色の瞳の女性。
 高貴な人物であるとひと目でわかる容姿だが、それ以上にミツキが驚いたのは、その声を聞いただけで心の底から安堵したことだ。

(包み込まれるような安心感……ウール様とは違う威厳だ)

 天界の最高神ウールは、何倍にも大きく見える厳かな雰囲気を纏っていたが、アンリはそれとは真逆。
 万人を包み込むような温かく、聞いた者を安堵させる声音をしている。
 それでいて威厳は保ち、どこか神々しくも感じるその姿に、ミツキを含めた4人は自然と膝をついて頭を垂れる。

「国王陛下、本日は陛下直々に謁見してくださり、見に余る光栄です」

「気にしないでください。それよりも、ほら、頭を上げて立ってください」

 言われて立ち上がると、アンリも玉座から立ち上がっていた。
 コツ、コツと杖をついて歩くアンリは、だんだんとこちらに近づいてくると、サクレットの目の前で立ち止まる。

「サクレットさん、隊長としての務めは大変でしょうが、これからもよろしくお願いしますね」

「はい、命をかけて王国を守ります」

「死んではいけませんよ。自分の命は大切に」

「はっ!」

 サクレットと言葉を交わしたアンリは、次に隣のミツキの目の前に来る。

「ミツキさん、魔国の幹部とウナアーダの色の騎士を退けたと聞きました。どうかこれからも、王国を守ってください」

「っ、はい!」

「ありがとうございます」

「いえ、そんな……」

 勝手な偏見だが、王族や貴族というのはもっと自己中心的な人物だと思っていた。
 なのに、王であるアンリはどうだ。
 ミツキとしっかりと目を合わせ、丁寧な言葉つかいで話してくれる。

(この人のために、力を尽くしたい)

 そう思ってしまうほど、アンリという人物のオーラは王として相応しいものだ。
 この後メリアとソフィアにも何か言っていたようだが、2人も同じような反応をしていた。
 全員と話し終わったアンリは、少し離れてこちらを向く。

「私は王と呼ばれていますが、優れた頭脳もカリスマも持ちません。ですから、どうかこれからも、皆さんの力を貸してください」

 そう言うとアンリはあろうことか、深々と頭を下げた。
 咄嗟に止めようとした4人だが、どこまでも真摯なアンリの行動を前に、鳥肌が立つほど興奮してしまい、言葉が出ない。
 自国の王にここまでされて、やる気が出ない人間などいないだろう。

「陛下、我ら戦士団は、命尽きるその時まで陛下の手足となり、王国を守りましょう」

 サクレットが1歩前に出て、片膝をつく最敬礼を行い、ミツキたちもそれに合わせる。

「ありがとうございます」

 アンリが嬉しそうに微笑み、このやり取りで謁見は終了して4人は部屋から出た。

「謁見はどうだった?」

「びっくりしました。正直、王様ってもっと偉そうなイメージがあったので」

「私も同じね。王としては知らないけど、あの人について行きたいとは思ったわ」

「うんうん。凄かったね!」

「満足したようで何よりだな。さて、3人は着替えてくるといい。本題がまだ残っているからな」

「そうでしたね。急いで行きます」

「ああ。私は用事があるため同行できないが、ミツキくん達ならば安心して任せられる」

 王都に来た目的は、何も謁見のためだけではない。
 戦士団への正式な加入申請もあるが、それ以上に優先度が高い目的があるのだ。
 ミツキ達は鎧を脱いで、装備を整えると戦士団の兵舎へと向かった。

「ミツキさんですね。お待ちしていました。中へどうぞ」

 兵舎の一室、その扉の前にいた見張りの兵士が、ミツキたちの姿を見ると扉を開ける。
 中に入ると、広く調度品の少ない部屋で1人の男が座っている。

「待ってたぜ、ミツキ」

「謁見してたんだよ。で、ゆっくり話そうか」

「ああ、色々とな」

 ウナアーダ色の騎士、緑のヨハンは笑って顔をこちらに向けた。

「まず、寝返った理由を聞かせてもらえるかしら」

 向かい合うように椅子に座った3人で、最初に口を開いたのはメリアだ。
 わかりやすく敵意をヨハンに向け、何かあればすぐ動けるように、刀も手に持っている。

「寝返ったんじゃねぇっての。俺は事実を確かめるために、一時的にここにいるだけだ」

「あんた、今の立場わかってる? 捕虜よ、捕虜」

「俺が全力で暴れたら、王都だろうと半壊にできるぞ。やってみるか?」

「やめろやめろ。それより、ヨハン。お前の言ってた使命ってのを聞かせてくれ」

 険悪な雰囲気になり始めた2人を止め、無理矢理話を戻す。

「っと、そうだったな。俺ら色の騎士が命じられたのは、ソレル王国を潰せ、だ」

「またどうしてそんな」

「さぁな。けど、それが王女様の命令だってんだから、従うしかないんだが……そこに魔国も加わるってんだよ」

「連合軍で攻めて来てたもんね。あれ囮だったんだ」

「元からあの戦力じゃ無理だって知ってたからな。俺と魔国の幹部で、横から城壁を破壊する手筈だった」

 それもお前に防がれたけどな、と言って苦笑を浮かべる。

「で、なんでその使命を無視したんだ」

「うちの王女様はな、子供っぽいが無駄なことはしない人なんだよ。攻めるのも、敵対した国か世界に害をなす悪だけだ。だから俺も色の騎士として、その正義を誇りに思ってた」

「尚更わからないわね。あの白ってやつとも言い合ってたし」

「俺は人形じゃないんでな。正しいかどうかは、自分で決める。お前らは悪だと思えないしな」

「なるほどな。それで、情報提供までしたのには別の理由があるんだろ?」

「察しがいいな。白……アランさんと話して俺の腹は決まった。俺は、王女に直接会って確かめることにした」

「そうか、頑張れよ」

 他人事のように返事をするミツキを、ヨハンは不思議そうな目を見る。

「何言ってんだ。お前らも来るんだぞ」

「……は?」

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