人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

フレーリア防衛戦②

「放てぇッ!!!」

「魔法使いは数回で補給に回れ! なるべく魔力を長持ちさせるんだ!」

「投擲部隊用意はいいな! 槍はいくらでもある。どんどん投げろ!」

「防御魔法が使えるやつを寄越してくれ! 魔族の魔法が強い!」

 敵軍を目指してから1時間後、ついに王国軍と魔族・ウナアーダ連合軍が交戦した。
 フレーリアから見て右側は魔国軍、左側はウナアーダ軍と分かれている。

「ソフィア活躍してるわね。私もそろそろ出番だし、張り切っていきましょう」

 上空を飛び交う魔法や矢、槍を見ながら、メリアも準備を整える。
 敵軍はかなり接近しており、近接部隊も出番が近い。

「よし、私たち近接部隊は2隊に分かれ、魔族とウナアーダ兵の相手をする。狙うは大将首、気合いを入れろ!」

「「「おおっ!!」」」

 戦士団の副団長であるサクレットが先陣を切り、魔国軍へと向かっていく。
 メリアは反対のウナアーダ兵の相手だ。

「こちらも行くぞ! 俺に続け!」

 戦士団の男性が叫び、敵味方の入り乱れる戦争は本格化していく。

 * * *

「まさか、敵にあれほど長距離攻撃をしてくる者がいたとは.......」

 ウナアーダ軍の隊長を任された男、バスカルは驚きを隠せなかった。
 なにせ、交戦距離ではないと判断した距離から攻撃を受け、数をかなり減らされたのだ。

「しかし、我らは退くわけにはいかん。まずはあの敵部隊をなぎ倒せ!」

「「「おおおおおお!!!」」」

 こちらへ近づいてくる王国の兵を視認し、部下へ支持を出す。
 そして王国とウナアーダの部隊が衝突し……王国の兵が大きく押された。

「女王の加護を受けた我々に、敗北はない!」

 ウナアーダ兵の振る武器は全て、淡い様々な色の光が宿っている。
 これはウナアーダ特有の技術によるもので、魔法の付与されたこの武具によって戦力は大きく底上げされていた。

「進み続けろ! 王国に我々は止められないぞ!」

「怯むな! 押し返せ!」

 王国の兵も善戦しているが、如何せん武器の性能差が大きい。
 後方からの援護射撃もあるが、劣勢を覆すほどではない。

「数は少なくとも質で勝つ! ウナアーダ兵の力を見せるのだ!」

 どんどん前線を上げて押し込んでいくウナアーダ兵は、勢いに乗り簡単には止められそうにない。
 この場合どうするか。
 質を重視する相手には、より高い質をぶつけるのだ。

「な、なんだ!?」

「おい、そっちに敵が、ぐああっ!?」

「なん、がはっ!?」

「む、なんだ。何が起きた!」

 前線の一部。
 中央の勢いが止まり兵が慌てている。
 事態の把握のためにじっと中央を観察したバスカルは、驚きの光景を目にした。

「なんだ、あれは……」

 視線の先では、信じられないことが起きていた。
 その敵が手に持つ刀が振られたと思えば、兵が複数やられている。
 止めようにもこちらの攻撃は完璧に避け、受け流され、反撃でまた兵がやられる。
 それをしているのは、1人の少女だ。

「質には質を。簡単な話ね」

 少女は1人でウナアーダ軍の深くまで切り込み、バスカルを視界に収めた。

「巫流剣士、巫メリア。行くわよ!」

「何者かは知らんが……全力で殺せ! 少女だからと甘く見るな!」

 周囲の兵が、一斉に少女へと襲いかかる。
 その驚異を認識したようで、本気で殺すつもりで武器を振る。

「巫流《乱れ飛沫みだれしぶき》!」

 だがそれは、自ら死にに行く行為にほかならない。
 全方位に恐ろしい速度で放たれた突きは、的確に心臓や眉間といった急所を貫き、瞬く間に死体の山を積み上げる。
 命令されたからではなく、仲間と街を守るために刀を振る。
 そこに迷いはない。

「ぬううううん!」

「自分から来るのね」

「この軍を任された身として、これ以上の被害は出せん!」

 緑色の淡い光を宿した大剣を、大きく後ろに飛んで避ける。

「良い指揮官ね。だけど、国を守るためにここで死んでもらうわ」

「小娘にやられるほど、俺は鈍ってはおらんぞ!」

 バスカルは地面を抉るのも関係なしに、大剣を上下左右に振り回す。
 雑に見えるがその一撃一撃に風の魔力が込められており、近づいた兵士が風圧で体勢を崩され、体を両断されている。

「攻撃は最大の防御ってやつかしら。ミツキもそんなこと言ってたわね」

「ははははは! 『緑』の加護を受けた私からは逃げられんぞ!」

「ほんとに不規則に振り回してるのね。仕方ない。疲れるけどやるわよ」

 ずっとバスカルから距離をとって回避していたメリアが、足を止めて刀を正眼に構える。

「諦めたか!」

「魔眼解放」

 目を閉じ、再び開いたメリアの瞳は、複雑な模様を描いていた。

 魔眼。
 目撃証言の少ないそれは、瞳に魔法を宿して様々な効果を使うことのできる、特殊な瞳だ。

「魔眼……見るのは初めてだが、そんなもので何ができる!」

「あんたを殺せる」

 既に眼前にまで迫っていたバスカルもそれは確認したが、攻撃を続行する。
 メリアの華奢な体を両断しようと迫った大剣は、恐ろしくあっさりと刀に受け流された。
 いや、刀だけではなく、纏っているはずの風さえも流されている。

「バカな!?」

「扇風機かしら。でも今はいらないわ」

 攻撃を何度続けても、思考が読まれているのではないかと思うほど完璧に受け流される。

「貴様なぜ受け流せる!」

「見えてるからよ」

 メリアは生まれながにしてその瞳に魔眼を宿していた。
 空神からがみの魔眼と呼ばれるそれは、常人には見えない空間の流れを視認する。
 この空間を視認する力とメリアの反射神経によって、敵の攻撃は完璧に受け流されることとなる。

「色の騎士様以外には止められたことのない技だぞ! 貴様はそれほどの実力者だというのか!」

「少なくとも、あんたより強いわよ」

「おのれ……おのれぇッ!」

「巫流《流渦突りゅうかとつ》」

 最後の足掻きか、渾身の力で振り下ろされた大剣すらもメリアに受け流され、代わりに胸の中心へ突きが放たれる。
 バスカルにそれを防ぐ術はなく、口から血を吐き己の死を悟る。

「すみ、ません……ヨハン、様……」

 倒れる間際、バスカルの口から漏れた小さな言葉と目線を、メリアは見逃さなかった。

「東……ミツキの勘は当たりかもね」

 視線の先が気になったが、単独行動をしているミツキがいるため、問題はないだろう。

「私は私のやることをしないとね。敵指揮官は討ち取ったわ! 押し返しなさい!」

「学園の生徒がやったぞ!」

「俺達も負けてられねぇ。お前ら根性見せろ!」

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 刀を掲げ、味方を鼓舞するメリアに応じるように王国軍が息を吹き返す。
 逆にウナアーダの兵は指揮官を失い、統率が乱れている。

「ここはもう問題なさそうね。次に行きましょ」

 戦況は王国軍が優勢になってきた。
 あとは特に目立つ実力者もいなさそうなため、メリアは右側の魔国軍側へと走る。

「魔国の方はどうなって……」

 手遅れになっては大変だと急いだメリアだったが、右の戦場では王国軍が圧倒していた。
 一糸乱れぬ動きと魔法に対する的確な対処は、魔族に反撃の機会を与えずどんどん押していく。

「慌てず攻めろ。確実に的確に、訓練で培ったことを発揮しろ!」

 先頭で指揮を取るサクレットは、流れるような動作で自ら剣を振り魔族を倒している。
 戦況を広く見て援軍を送る、細かく鼓舞をして士気を下げないなど、サクレットは指揮官として非常に優秀だ。

「ミツキが負けないって言ってたのも納得ね」

 今の安定感こそ、戦士団の本来の姿なのだろう。
 元々数が多いことと魔法対策が万全なこともあり、魔国軍に負けることはなさそうだ。

「敵の指揮官も強そうだけど……あんまりでしゃばるのもよくないわね」

 右の戦場に助けが必要なしと判断すれば、メリアは自分の持ち場である左の戦場に戻る。

「あとはミツキ次第、かしら」

 フレーリアの東、何もないはずのその場所を見ながら、小さく呟いた。

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