人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜

水泳お兄さん

首断

「はー、今日も美味しかった」

「そうでしょそうでしょ。私も腕を上げてるからね!」

 寮の自室でソフィアの作った夕食を食べ終わり、洗い物を手伝う。
 最初は私がやると言っていたソフィアだが、ミツキとしてはこれくらいやらないと申し訳なかった。

「そういえば、メリアには会えた?」

「いや、最近は見てなくてな。まだ会えてない」

「そっか。別の授業を受けてるのかな」

「だと思うんだけどな」

 ここ3日間、近接戦闘の授業を受けてメリアを探したのだが、姿を見ることはなかった。
 2人は洗い物を終え、ソファーに座ってくつろぐ。

「んー、あ、そういえば鍛冶屋さんに頼んでた武器、今日受け取るんだった。ちょっと行ってくるね」

「新しい武器!」

 武器という言葉を聞き、ミツキの中にある男の子としての本能が興奮する。

「ミツキって、子供っぽいところあるよね」

「子供だからな。というか、外も暗いんだからついて行った方がいいだろ?」

「もー、大丈夫だよ。私だって最近魔法を使いこなせるようになったから、かなり強いんだよ」

「ソフィアがそう言うならいいけど、気をつけろよ」

「はーい。じゃあ行ってくるね」

「おう、行ってらっしゃい」

 念の為短剣を腰に装備し、学園を出て鍛冶屋に向かった。

 * * *

「ふっふふーん。装備もばっちり、これで私も強くなった!」

 特に問題なく無事に新しい装備を受け取ったソフィアは、足取り軽くスキップをしながら帰っていた。
 今夜は月明かりがほとんどなく、夜も遅いため周りに人はいない。

「急がないとミツキが心配しちゃうかな。ふふっ、ミツキは私のこと好きだからな〜」

「それはそれは、微笑ましい関係ですね」

「だれ?」

 背後から突然話しかけられ、瞬時に短剣を引き抜きながら距離をとる。
 視線の先には、鬼の面をつけた人が刀を持って立っていた。

「暗殺者“首断”と申します」

「暗殺者さんが私に用事?」

「はい。学園の生徒であるソフィアさんとお見受けしました。その命、頂戴致します」

 そう言うと、首断は地を蹴って接近してくる。
 直線的な動きだが、代わりに異常なほど速い。

「なんだか知らないけど、殺されるわけにはいかないよ! 弾け!」

 だが、直線的ならば対応できる。
 ソフィアは短剣の切っ先を首断へと向けると、魔法を発動する。
 首断は既に刀を振り上げていたが、なにかに弾かれたように大きく吹き飛ばされた。

「魔法……厄介なものを」

「これは正当防衛だから、覚悟してよ!」

 距離ができたことで、ソフィアに準備をする時間が生まれる。
 鍛冶屋から受け取った袋の中身、大きな杭を右手に持つ。

「杭?」

「痛い思いしても知らないからね!」

 左手の短剣の切っ先を首断に向け、右手の杭を後ろへ下げている。
 その姿は、弓を引き絞っているように見える。

「弾け!」

「飛び道具!?」

 まるで見えざる力に弾かれたように飛翔する杭をなんとか刀で弾く。

 ソフィアの使う魔法は磁力魔法。
 対象に磁力を付与して、反発や引き寄せといったことを可能とし、今のように杭を反発させ、高速で撃ち出すこともできる。

「戻って」

 短剣の切っ先を放った杭に向けると、杭は引き寄せられるようにソフィアの右手に収まる。

「もしや、これは邪魔ですか」

「武器を捨てちゃうんだ?」

 刀を投げ捨てた首断を見て、ソフィアは顔には出さないが、内心では苦い顔をしている。
 最初に弾けたのは刀があったからだ。
 この距離では、刀がなければ磁力を付与して弾くことなどできない。

「今度こそ、殺します」

「死なないったら! 弾け!」

 これで邪魔なものはなくなった。
 次こそ殺すと杭を最低限の動きで避け、右手の手刀を腹部に突き出す。
 肉体は磁力が影響することもなく、手刀はソフィアの肉体に当たりーー弾かれた。

「どうして……」

 予想外の出来事に驚くが、確認のために今度は得意な蹴り、それも威力の高い上段回し蹴りを繰り出す。

「きゃっ!?」

「また弾かれた」

 腕で防御はしたようだが、蹴りは完全に当たっていた。
 だというのに、ソフィアは軽く飛ばされて直ぐに立ち上がる。
 骨ぐらいなら簡単に折れるはずだが、どうにも当てた瞬間に反発するようにして弾かれている。

「何をしたのですか?」

「いたた……教えるわけないじゃん」

 大きなダメージもなさそうな余裕の表情で短剣を構えるソフィアだが、内心では焦りが生まれていた。

(うー、痛いなぁ。このままだとジリ貧だし、勝ち目はないかも)

 魔法の詳細がバレていない今は優勢だが、これもいつまで持つかわからない。
 ソフィアには一撃で相手を倒せるような技はないため、時間を稼いで逃げることに考えを切替える。

「そうですね。弾かれても、それ以上の威力と手数で押し切ればいいのですから」

 首断が体を沈め、地を這うように駆け出す。
 ほとんど視認できないが、それでも対処しようとソフィアが手を出したところで、2人の間に上空から人が降ってきた。

「おおおッ!」

「っ!?」

 自由落下の勢いを乗せた拳をバックステップで躱した首断だが、自分がいた場所に大きくヒビが入ったのを見て息を飲む。

「大丈夫か、ソフィア」

「ミツキ! 来てくれたんだね」

「帰りが遅かったからな。あいつは?」

「首断って暗殺者だって。すごく強いよ」

「暗殺者? 誰かに雇われてるのか」

 そんなことを考えさせる暇も与えないように、首断が接近して蹴りを放つ。

「援護頼んだ!」

「りょーうかい!」

 ミツキは1歩前に出て蹴りを受け止め、肉弾戦を繰り広げる。
 拳と蹴りが交差し、生身とは思えない重い音が接触の度に響く。

(上手く流されるな。というかこの蹴り……)

 先程から何度か勝負を決めようと重い一撃を放っているが、その度に蹴りで上手く流されている。
 攻防を重ねるうちにその蹴りを受けたことがある気がしたが、今は倒すことが優先だ。
 半歩下がって体を横に向け、首断への射線を通す。

「弾け!」

「ぐっ!?」

 ピュン、と鋭い風切り音を立てて放たれた杭は、真っ直ぐ首断の顔面へ向かっていく。
 肉弾戦で重心が前のめりになっていたようだが、わざと大きく蹴り上げることで無理矢理上体を後ろに逸らす。
 だが、完全に避けることはできなかったようで鬼の面が割れる。

「はぁ。やっぱり実力を隠してたのね」

「暗殺者って……お前かよ」

 素顔がバレた首断は、口調をいつも使っているものへと戻す。
 空色の髪と夜でも目立つ深い青色の瞳は、見間違うわけもない。

「メリア」

 会いたがっていたメリアは、よりにもよって敵として再開することになった。

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