人生の続きを異世界で!〜天界で鍛えて強くなる〜
奴隷と学園
「ここが、異世界」
目を開くと、頭上には青い空と白い雲、辺りには多くの人と建物が目に入る。
見慣れた天界の風景ではなかった。
「街っぽいし、ひとまず探索かな」
あまりはしゃぐと目立ってしまうため、興奮を押し殺しながら、まずは街中を歩くことにする。
時刻は昼過ぎだろうか。
街は賑やかで、人の行き来が激しい。
ここはかなりの都市なのかもしれない、とそんなことを考えながら歩いていると、
「そう怖がるなよ。お願いしてるだけだろ?」
「やめて!」
「断れる立場か? ん?」
大通りの隅で、堂々と大柄な男が少女の腕を掴んで強引になにかを迫っていた。
周りの人間はそれを見ても、ヒソヒソと小声で話して通り過ぎ、助けようとはしない。
「あれってどういう状況?」
状況を知るために、近くにいた野次馬の1人に話しかけてみる。
「見ての通りさ。あいつは強くて有名な傭兵なんだが、素行が悪くてな。今もああやって女の子を脅してる」
「誰も助けないみたいだけど」
「あんなんだが、言ったように男は強い。それに、女の子は奴隷だからな」
「奴隷、か」
この世界について勉強もしていたのだが、どうにもこの世界には奴隷制度があるらしい。
人身売買が日常的に行われ、国もそれを認めている。
「あ、話は変わるけど、あの男の人にまとわりついている黒いモヤってなんなんだ?」
「黒いモヤ? そんなん見えないけどな」
「ああいや、悪い。俺の見間違いみたいだ」
そう、ミツキには先程から男から黒いモヤが出ているように見えるのだが、それは他の人には見えていないらしい。
(これがティア姉さんから貰った、ブレスレットの力なのか)
おそらく、あの男から出ている黒いモヤは悪意なのだろう。
それを確認できたミツキは、スタスタと少女の方へ歩いて行く。
「お、おい兄ちゃん、何する気だ!」
「大丈夫、だと思う」
心配しそうに声をかけてくれた野次馬に男性にそう答え、少女を掴んでいる体格の良い男の腕を掴む。
「ああ? なんだてめぇ」
「嫌がってるだろ」
ゴリッと、男の腕に指をくい込ませ、骨を圧迫する。
「痛っ、このっ!」
鈍い痛みに顔をしかめ、嫌がるように腕を払った男は、数歩下がってミツキを睨む。
「奴隷を庇ってヒーロー気取りか!」
「女の子を庇うのは、普通のことだと思うけどな」
ミツキ天界でティアから、自分の正義や信念を持ってそれに従いなさい、と教えられてきた。
その教えのおかげで、こうして少女を助けるために動けたのだ。
とはいえ、大事になると面倒になるため、穏便に済ませる必要がある。
「はっ、かっこいいなぁ! だけどな、てめぇみたいな偽善者は、痛い目に合うんだよ!」
男は丸太のような腕を振り上げ、ミツキを叩き潰そうと振り下ろす。
周りにアピールするための派手な攻撃だ。
(俺の事を自分の引き立て役と思ってるな)
隙だらけのその拳を紙一重で避けながら、目の前の顎に横から拳を当てる。
それで脳が揺らされたか、男はガクリと膝を折って尻もちをついた。
「よし、面倒事は嫌だし逃げよう」
「わっ」
強く殴っていないため数分で立てるだろうが、男は何が起こったのかもわからない様子で唖然としている。
その隙にミツキは少女の手を掴み、さっさと裏路地へ逃げた。
「ここまで来れば大丈夫だろ。道わかんなくなったけど」
「はぁ、はぁ、あのっ」
「あ、走らせてごめん。怒ってるかもだけど、多分これが1番穏便で」
「そ、そうじゃなくて、どうして助けてくれたの? 私……奴隷なのに」
暗い声音で目を伏せて言う少女は、翡翠の長い髪と澄んだ湖のような瞳をしており、ダルダルのコートを着ている。
年齢はかなり低そうだが、それでも不遇な扱いを受けるのが奴隷というものらしい。
「俺この世界のことよく知らなくてさ、奴隷とか気にしてないんだよ」
「でもでも、私を助けちゃったら迷惑かけちゃうから……」
「そんなの気にしないって。でも、そうだな。じゃあ助けたお礼として、ちょっと教えてくれないか?」
「それでお礼ができるなら、なんでも聞いて聞いて!」
パッと花のように顔を明るくした少女に、ミツキは聞きたかったことを尋ねる。
* * *
「ここが学園か」
「そうだよ。ここなら、基本的なことから魔法や武術まで、たっくさん学べるんだ!」
大きな門の前に立ち、どれだけ広いのか想像もつかない敷地を見る。
ミツキが聞いたのは、この世界のことをよく知れる場所を教えて欲しい、というものだった。
「ソフィアも学園に通ってるんだったか」
「そうだよー。私を売る人が、学園で知識をつければ商品として質が上がるって言って、通わせてくれてるの」
ここに来るまでに、少女ーーソフィアとは名前と年齢を言う簡単な自己紹介を済ませた。
道中、奴隷についても少し聞くと、普段はコートに隠れて見えない左太ももに、奴隷である印が刻まれていた。
「そうか。俺も学園に入ると思うから、また会えそうだな」
「うんっ。楽しみにしてるね!」
商品という言葉が胸に引っかかるも、ソフィアはそれを気にした様子もなく、笑って学園へと走り去っていった。
「どうにも、慣れそうにないな」
奴隷という言葉に縁のなかったミツキは、ため息をつきながら学園の門をくぐった。
学園。
それはミツキの降りた国であるソレル王国が、他国との境界線付近の城郭都市フレーリアに建設した育成施設だ。
ここでは12歳から22歳までの少年少女が、来る者拒まず去る者は追わずの精神で、多くの知識をつけることができる。
入学退学は書類1枚で可能だが、卒業には厳しい試練があり、無事卒業できれば高いステータスとなる。
「ミツキ、17歳、学園に入る目的は見聞を広めるため、か」
「はい。俺は孤児でして、世間のことをまだ知らないので」
適当な嘘を並べつつ、学園に入学するための書類を審査される。
「よし、問題ないだろう。ようこそ学園へ」
「審査はかなり緩いんですね」
「ソレル王国は戦力を欲しているからな。学園に入って王国のために働くのなら、誰でも大歓迎さ。それに、学ぼうとする少年少女を止める権利は我々にはない」
「そっか、ありがとうございます」
「頑張って知恵と武を積んでくれ。では、寮の鍵と場所を教えておこう」
学園関係者の男性に許可を出され、ミツキは入学を認められた。
在学中は希望者は寮に住むことが可能で、なんと料金もかからないという。
ただし、条件としてサボりすぎれば退学とのことらしい。
「基本的なシステムは紙に書いておいた。目を通しておくといい」
「わかりました。これからお世話になります」
丁寧に対応してくれた男性に一礼し、学園内になる寮の自室に向かった。
「元の世界の大学みたいな感じか。行ったことないけど」
授業は選択制で、生徒が自由に選べる。
「まずは数日間、世界の情勢とか受けとくか」
適当に受ける授業を考えていると、寮に到着した。
一人部屋で意外と広く、大剣などの荷物を置いたミツキは、早速授業を受けに行くことにした。
目を開くと、頭上には青い空と白い雲、辺りには多くの人と建物が目に入る。
見慣れた天界の風景ではなかった。
「街っぽいし、ひとまず探索かな」
あまりはしゃぐと目立ってしまうため、興奮を押し殺しながら、まずは街中を歩くことにする。
時刻は昼過ぎだろうか。
街は賑やかで、人の行き来が激しい。
ここはかなりの都市なのかもしれない、とそんなことを考えながら歩いていると、
「そう怖がるなよ。お願いしてるだけだろ?」
「やめて!」
「断れる立場か? ん?」
大通りの隅で、堂々と大柄な男が少女の腕を掴んで強引になにかを迫っていた。
周りの人間はそれを見ても、ヒソヒソと小声で話して通り過ぎ、助けようとはしない。
「あれってどういう状況?」
状況を知るために、近くにいた野次馬の1人に話しかけてみる。
「見ての通りさ。あいつは強くて有名な傭兵なんだが、素行が悪くてな。今もああやって女の子を脅してる」
「誰も助けないみたいだけど」
「あんなんだが、言ったように男は強い。それに、女の子は奴隷だからな」
「奴隷、か」
この世界について勉強もしていたのだが、どうにもこの世界には奴隷制度があるらしい。
人身売買が日常的に行われ、国もそれを認めている。
「あ、話は変わるけど、あの男の人にまとわりついている黒いモヤってなんなんだ?」
「黒いモヤ? そんなん見えないけどな」
「ああいや、悪い。俺の見間違いみたいだ」
そう、ミツキには先程から男から黒いモヤが出ているように見えるのだが、それは他の人には見えていないらしい。
(これがティア姉さんから貰った、ブレスレットの力なのか)
おそらく、あの男から出ている黒いモヤは悪意なのだろう。
それを確認できたミツキは、スタスタと少女の方へ歩いて行く。
「お、おい兄ちゃん、何する気だ!」
「大丈夫、だと思う」
心配しそうに声をかけてくれた野次馬に男性にそう答え、少女を掴んでいる体格の良い男の腕を掴む。
「ああ? なんだてめぇ」
「嫌がってるだろ」
ゴリッと、男の腕に指をくい込ませ、骨を圧迫する。
「痛っ、このっ!」
鈍い痛みに顔をしかめ、嫌がるように腕を払った男は、数歩下がってミツキを睨む。
「奴隷を庇ってヒーロー気取りか!」
「女の子を庇うのは、普通のことだと思うけどな」
ミツキ天界でティアから、自分の正義や信念を持ってそれに従いなさい、と教えられてきた。
その教えのおかげで、こうして少女を助けるために動けたのだ。
とはいえ、大事になると面倒になるため、穏便に済ませる必要がある。
「はっ、かっこいいなぁ! だけどな、てめぇみたいな偽善者は、痛い目に合うんだよ!」
男は丸太のような腕を振り上げ、ミツキを叩き潰そうと振り下ろす。
周りにアピールするための派手な攻撃だ。
(俺の事を自分の引き立て役と思ってるな)
隙だらけのその拳を紙一重で避けながら、目の前の顎に横から拳を当てる。
それで脳が揺らされたか、男はガクリと膝を折って尻もちをついた。
「よし、面倒事は嫌だし逃げよう」
「わっ」
強く殴っていないため数分で立てるだろうが、男は何が起こったのかもわからない様子で唖然としている。
その隙にミツキは少女の手を掴み、さっさと裏路地へ逃げた。
「ここまで来れば大丈夫だろ。道わかんなくなったけど」
「はぁ、はぁ、あのっ」
「あ、走らせてごめん。怒ってるかもだけど、多分これが1番穏便で」
「そ、そうじゃなくて、どうして助けてくれたの? 私……奴隷なのに」
暗い声音で目を伏せて言う少女は、翡翠の長い髪と澄んだ湖のような瞳をしており、ダルダルのコートを着ている。
年齢はかなり低そうだが、それでも不遇な扱いを受けるのが奴隷というものらしい。
「俺この世界のことよく知らなくてさ、奴隷とか気にしてないんだよ」
「でもでも、私を助けちゃったら迷惑かけちゃうから……」
「そんなの気にしないって。でも、そうだな。じゃあ助けたお礼として、ちょっと教えてくれないか?」
「それでお礼ができるなら、なんでも聞いて聞いて!」
パッと花のように顔を明るくした少女に、ミツキは聞きたかったことを尋ねる。
* * *
「ここが学園か」
「そうだよ。ここなら、基本的なことから魔法や武術まで、たっくさん学べるんだ!」
大きな門の前に立ち、どれだけ広いのか想像もつかない敷地を見る。
ミツキが聞いたのは、この世界のことをよく知れる場所を教えて欲しい、というものだった。
「ソフィアも学園に通ってるんだったか」
「そうだよー。私を売る人が、学園で知識をつければ商品として質が上がるって言って、通わせてくれてるの」
ここに来るまでに、少女ーーソフィアとは名前と年齢を言う簡単な自己紹介を済ませた。
道中、奴隷についても少し聞くと、普段はコートに隠れて見えない左太ももに、奴隷である印が刻まれていた。
「そうか。俺も学園に入ると思うから、また会えそうだな」
「うんっ。楽しみにしてるね!」
商品という言葉が胸に引っかかるも、ソフィアはそれを気にした様子もなく、笑って学園へと走り去っていった。
「どうにも、慣れそうにないな」
奴隷という言葉に縁のなかったミツキは、ため息をつきながら学園の門をくぐった。
学園。
それはミツキの降りた国であるソレル王国が、他国との境界線付近の城郭都市フレーリアに建設した育成施設だ。
ここでは12歳から22歳までの少年少女が、来る者拒まず去る者は追わずの精神で、多くの知識をつけることができる。
入学退学は書類1枚で可能だが、卒業には厳しい試練があり、無事卒業できれば高いステータスとなる。
「ミツキ、17歳、学園に入る目的は見聞を広めるため、か」
「はい。俺は孤児でして、世間のことをまだ知らないので」
適当な嘘を並べつつ、学園に入学するための書類を審査される。
「よし、問題ないだろう。ようこそ学園へ」
「審査はかなり緩いんですね」
「ソレル王国は戦力を欲しているからな。学園に入って王国のために働くのなら、誰でも大歓迎さ。それに、学ぼうとする少年少女を止める権利は我々にはない」
「そっか、ありがとうございます」
「頑張って知恵と武を積んでくれ。では、寮の鍵と場所を教えておこう」
学園関係者の男性に許可を出され、ミツキは入学を認められた。
在学中は希望者は寮に住むことが可能で、なんと料金もかからないという。
ただし、条件としてサボりすぎれば退学とのことらしい。
「基本的なシステムは紙に書いておいた。目を通しておくといい」
「わかりました。これからお世話になります」
丁寧に対応してくれた男性に一礼し、学園内になる寮の自室に向かった。
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