彼女と出会ったあの日から

秋色

第二十七話

「遅かったですね、青山さん」「ちょっと知り合いに会ったんですよ」「え、私も会いたいです。どんな人なんですか」
「突然、両親に会えと言って帰省に付き合わせない人です」もう、青山さんってば。彼女はそう言ってほほ笑みながら視線を文庫本へと移し終えたのを確認してから、俺はため息をついた。彼女に心配を掛けたくないという気持ちと、少しは心配してほしい気持ちの間で揺れ動いていたわけだ。全は一で一は全、という言葉をどこかで耳にしたが俺にはさっぱりわからんと放っておいたはずが、今俺の中で弾けているのが不思議でならない。全ての事は一つに集約され、また一つはすべてを結成するために必要であるのならば、俺の今まで歩んできた二十五年も彼女と出会ったこともすべては何かに収束している途中なのだろうか。
彼女の事を大切に思えば思う程に、俺のどうしようもないこの気持ちが、邪魔をする。
「青山さん。そろそろ着きますよ」おっと、いけない。どうやらそろそろ目的地へと行かねばならないようだ。
残念だ、まだまだ人生について考えて煙草とコーヒーの融和性についても論じるつもりだったが、時間切れではどうしようもない。司会者の制止を振り切ってする主張ほど滑稽なものはないだろう?それじゃ、そういうことで。



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